就職最前線 3
頼むから黒社会に入るのだけはやめてくれ、とすがらんばかりにヘンリーに言われた
秋生は、翌日、玄冥がよく居る桟橋へと足を向けていた。
もちろん、意見を聞くためだ。
「こんにちわ~」
運良く玄冥は居た。
古ぼけた船の上から釣り糸を垂らしている。
「おお、坊か。元気でやっておるかな?」
「はい、お陰さまで・・・え、と今時間が空いてますか?」
「ほっほっほ、仕事は夜からでなそれまでは暇じゃ。何かあったのかの?」
秋生は他の皆に話したように、かくかくしかじかと・・・と就職で悩んでいることを告げた。
「玄冥はどうして、今の仕事を選んだの?」
「ほっほっほっ、なかなか難しい質問じゃが、あえて言えば・・・まぁ、面白いからかのう」
「面白い?」
「そうじゃ。誰にも拘束されず、日々暮らし。他の奴らと違ってワシは見るからに年寄りじゃ
からの・・そうそう仕事も選べぬから」
「あ、そっか・・・大変だね」
「何の、これはこれで楽しんでおる」
そう言う玄冥は確かにいつも凄く楽しそうに仕事をしている。
「僕にも玄冥と一緒の仕事が出来るかな?」
玄冥の笑いがぴたりと止まった。
「出来なくは無いが、青龍が何というか・・・」
はっきり言って無理だろう。
「大丈夫、ビンセントには何も手出ししないようにって言ってきたから」
「・・・ふむ」
表だって何もできないとあらば、裏から手をまわすまで、と考えている青龍が玄冥には
目に浮かぶようだった。
・・・が、ここでそれを言って二人の間に妙な波風を立たせる必要も無い。
「そうじゃのぅ・・・一度手伝ってみるかの?」
「え、ホントっ!?」
秋生に納得させるには実地で教えておいたほうが良いだろう・・・何度危ない目に
あっても懲りない秋生なのだから。
だが、それがいつも普通のことであったから玄冥と秋生はすっかり忘れていたのだ。
それが犯罪行為だということを。
ウーウーウーッ!
『そこの船、止まりなさいっ!』
けたたましい音が夜の海に響き、警告が発せられる。
「うわっ!」
あまりの揺れに海へ投げ出されそうになっているのを秋生は船のへりに捕まって必死に
耐える。
そう、他でも無い。
追われているのは玄冥と秋生だった。
「坊、しっかり捕まっておれよっ!」
「う・・うんっ!」
うっかり口でも開こうものなら舌を噛んでしまいそうで、ろくな返事もかえせない。
「全く、しつこい奴らじゃてっ!こんないたいけな老人をいたぶりおって」
それはどこのどいつのことだ?とヘンリーあたりなら突っ込んでいただろう。
「だ・・大丈夫!玄冥!?」
「もちろんじゃっ!ワシはあんな間抜けどもに捕まるほど耄碌してはおらん」
それ以上にここで捕まってしまえば秋生まで警察の手に渡ることになり、その原因を
作り出した玄冥(本当は秋生自身だが)は青龍に殺されかねない。
さすがの玄冥も本気の青龍だけは相手にしたくないらしい。
「命がけじゃの・・」
玄冥はぼそりと呟いた。
結局、玄冥の神業的な操縦技術により、二人は助かった。
「これ、僕にはむかないみたい・・・・」
「・・・じゃな」
船酔いでぐったりした秋生はそう言い、玄冥は久しくなかった全力投球に疲労まじりに
同意したのだった。
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