■ 天意、真に非ず ■

第三部






――― 達王


 その名は陽子…慶の王にとって特別な意味を持つ。
 陽子より数代前の慶国の王。長命な治世を敷いた名君であったと伝えられる…その王以来、慶には短命な王朝しか続かず、いつしか『懐達』という言葉が生まれた。
 陽子も登極当初からずっと囁かれつづけていた言葉だ。
 今となっては忘れられつつあった言葉だが、陽子が『死』したことにより、『やはり』と再び囁かれるのかもしれない。

「…貴方が事実達王であるという証拠はあるのか?見たところ…実体ではないようだが」
『しかり』
 螺架と名乗った達王は、緩やかに笑いつつ陽子に頷く。
『私は、達王であるが…また違うものでもある』
「…どういうことだ…?」
『私は、”王”の思念体の集合なのだ。ゆえに実体が無い』
「思念体……」
 達王は陽子の前に歩み寄ると、拱手した。


『我らが運命の君に、この世界の真実をお話しよう』












 三人の間に浮かんだ水晶が、暗い宇宙に浮かぶ地球を映し出していた。

「地球…か?」
『しかり。…我らは地球外から至った人と同じ知的生命体であった。争いごとを厭うた我らは先住民である彼らと衝突することを避け…異空間にこの世界を造り出した。有限であるこの世界に秩序をもたらすべく、十二の国を造り、バランスの執行者として王を置いた。そして、その総括者として『天帝』を。…長き時が流れ、世代を重ねるごとに記憶は薄れ、王は『王』としか認識されなくなった。『王』であった我らはあまりに長き時に飽き、終焉を望んだ。『王』は後継者を選び…時の輪廻に組み込まれた。だが、『天帝』だけはそれが許されなかった。全ての記憶を有するただ一人であったために時の流れに還ることが許されなかった』
「よくある話だな」
 空想世界においては。
 自分でも意外なほどに落ち着いて話を聞いている。
 ずっとこの世界に流されてきたときから感じていた違和感が漸く腑に落ちた。ここは『神』が造った世界などではなく、地球人では無くとも『人』が作り出した世界だったのだ。

『天帝は孤独だった。対が在るとはいえ、それは人工的に造りだされたもの。…ゆっくりと狂い、天帝は本来在るべき理由を忘れた』

 こんな何も無い世界に一人。全ての者から取り残されて狂わずにいられるほうがおかしい。
「貴方は王の思念体だと言った。何故、天帝を置き去りにするようなことをした?」
『我らはあまりに過信していたのだ。かの人がこの世界を愛し慈しんでいたことは真実。その思いゆえに』
「勝手だ」
 陽子の言葉に、達王は悲しみを含んだ微笑を浮かべた。
『我ら王は、時の流れに還ったとはいえ…完全に消えるわけでは無かった。新たなる人として生まれかわりながら、再び『王』としてこの世界に生まれるように仕組みを作り上げていた。そのために必要だったのが卵果だった。人の腹から生まれては誕生を操作できない。有限の世界における人口統制のために作り上げた仕組みだったが、転用することにした』
「人が木になるのはそんな理由のためだったのか!?」
 陽子も天麒も目を見開いた。
『人口増加に伴う公害により母星を出ざるおえなかった私たちにとって、何より重要な問題だったのだ』
 そんなことで『人』を『人』の手によって作り出してもいいのか。
 陽子の中にある倫理観では、受け入れがたいもののように思われる。
『厭われるか?』
「…わからない。いや…全てがそうして存在する世界で、私の忌避感のほうがおかしいんだろう。何より、私自身もそうして生まれた一人なんだから」

『そう。貴方は天帝が自身に代わる存在として長き時をかけて生み出した方』

「………」
『貴方の卵果が不意の事故で失われることが無かったならば、世界はここまで荒れることは無かっただろう』








「――― それは本当に不意の事故だったのか?」








 陽子は静かに問うた。
 翡翠色の瞳を、真っ直ぐに・・・達王に向けて。








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ちょっと説明たらしくなりましたね・・(汗)
でも子供がどうして里木になるのかという理由について
私は『何者』かが、人口を統制にするにはもってこいの方法だなぁと
この話を書くにあたって思っていたのです。
・・・はーやっと書けた(苦笑)