■ 景王と愉快な仲間たち ■



−陸−








 
 想像以上の盛り上がりを見せる天下一武道会。
 各国から予選を勝ち抜いた強者たちが、慶で開催される本選に出るためにやってきているのだが、その豪華な
面々ときたら・・・・・見る者が見れば眩暈を起こしただろうほど。
 奏からは、太子二人が出席で(もちろんそんなことは秘密だが)、観光のついでに家族総出らしい。出場者よりも
一足早く慶入りした公主文姫が、金波宮に挨拶に来てくれたのだ。
 再会を喜ぶ陽子の横で、奏の命運もそろそろ危ないのではなかろうかと浩瀚は心配していた。
 そして、雁からはいつものように我が家のように金波宮を闊歩している延王君並びに禁軍左軍将軍である成笙
が出場者として(本人は嫌がったらしいが、側近二人に叩頭せんばかりに拝みたおされ延王のお守をするために)
やって来ていた。同じ禁軍将軍として思うところがあったのか、桓堆はその後成笙と語り合っていた。
 また、隣国で友好な関係である戴からは李斎がやって来た。陽子と延王と同じく刀剣部門で出場だが、来るなり
畏れ多いながらと相変わらず腰が低く、丁寧である。陽子などより余程長く剣を扱っている李斎なのだから、その
腕は並々ならぬものがあるはずなのだが、いまだに一度も手合わせをしたことが無いので、対戦できるのが楽しみ
な相手だ。
 他にも色々と知った顔がぽろぽろしているのだが、どの出場者よりも全ての人間たちを驚かせた出場者が居た。
 慶国徒手部門予選突破者。


 『景台輔』


「・・・・・・。・・・・これは似た名前とかそういう・・・・」
「いえ、御本人です」
 名簿にその名を見つけた陽子が浩瀚に尋ねる。
「あいつ、本気で出場したのか!?」
 しかも参加しただけでなく予選突破までしている。・・・・・・・・・有りえない。
 驚く陽子に、ふぅぅぅぅぅと深い溜息を吐きながら浩瀚は口を開く。
「主上、台輔に冗談が通じぬことはこの百年で重々承知しておられるでしょう・・・」
 多少は主にもまれて強くなったようだが、そのせいでますます頑固になったとも言える。
「まぁ、そうだが・・・それにしても、勝ち残るか?・・・・有りえない」
「それですが、どうも他の出場者に聞いてみたところ・・・」
 何と全て不戦勝だったらしい。
 ・・・・・・・・どんな試合だ。
「何しろ真面目で融通のきかない台輔のこと、あのお姿のまま出場されたようで・・・」
「あいつは馬鹿か?」
 陽子は呆れ果てた。
 どこの世界に自国の麒麟を殴る蹴るなんてことが出来る人間が居るだろうか。
 頭痛がした。
「これだから箱入りならぬ蓬山育ちは・・・・・・・・・・まぁ、いい」
 怒りを瞬時におさめた陽子は、不敵な笑いを浮かべた。はっとするほどにその笑みは自信に満ちて頼もしく、
ついつい視線が引き寄せられる。さすが金波宮一女官に人気があり、絶大な信頼を抱かれているだけある。
「どうした、浩瀚?」
「っい、いえ・・何でもありません。しかしこのままでは・・・」
「大丈夫だ。麒麟に手をあげる者が居ないと言っても、皆無ではないからな」
「・・・・・・・・主上」
「徒手部門には、利達殿の名前がある」
 ふっふっふ、と筆を握る手を高く掲げあげると王は宣言した。

「目にものみせてやるぞっ、景麒!!」

 主上・・・・台輔が自分の麒麟であることをすっかり忘れ果てていらっしゃいませんか・・・・・・・・・?
 打倒延王!・・だったはずなのでは。
 問いかけたいことは山ほどあったが、すべて呑みこみ、飛び散る墨の被害を受けないように、決済のすんだ
書類を回収する浩瀚だった。















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・・・なんでこんな長くなってるんだろう・・・話が終わらない・・・(爆)