| 一年で最も和やかで華やかな季節、『春』。 人々は踊り、歌い、祝い、喜び騒ぐ。 だが、そんな季節にはとらわれない一行がここにあった。 「なぁ〜三蔵、腹減った〜っ!」 「・・・・・」 「減った〜っ!!」 西へ西へと進む旅の途中、もう3日間、野宿が続きまともな物を食べていなかった悟空は ついに腹の虫を爆発させた。 「あははは、仕方ありませんねぇ。近くに街があるみたいですから寄りますか?」 「やったーっ!」 悟空は顔を輝かせた。 「却下」 「えぇぇーーーっ!!」 だが、即座の三蔵のダメ出しに盛大に文句を放つ。 「いいじゃんかっ!もう3日間も走りっぱなしじゃん!」 「てめぇらがくだらねーことばっか巻き込まれるから西行きが遅れてんだよ。走れるとこ まで走れ。これ以上の時間のロスはせん」 「三蔵サマったらキビシーっ!・・でも俺もそろそろ街に寄りてーんだけどな?」 「そうだよっ!食料だってあんまり無ーんだし!」 珍しくも意気投合した悟浄と悟空は二人がかりで三蔵に苦情を述べた。 「・・・・・・・」 しかし無視。 「三蔵ーっ!」 「三蔵サマーっ!」 「三蔵ったら三蔵ーーっ!」 「三蔵さまサマっ!」 ちゃき。 懐に仕舞われている銃を三蔵が掴んだ。 「うるせーっ!てめーら今すぐ黙らせてやるっ!!」 ガウンッガウンッガウンッガウンッ!! 「うわっ!」 「おわっ!」 銃弾が二人の脇をかすめて飛んでいった。 「「・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・(汗)」」 「はははは、二人とも元気ですねぇ」 どんな騒ぎの中でもマイペースを崩さない八戒はほがらかに笑っている。 「でも、三蔵。そろそろ街に寄らないと本当にいけないみたいですよ?」 「あぁ?」 「だって・・・」 ブスッブスッスススッ・・・・・・ 「・・・・ほら、ジープがガス欠みたいです」 「・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・」 ね、と八戒が指し示したのはジープの燃料ゲージ。 見事に『E』マークが点灯していた。 「個室を4つお願いします」 予想外の事態に街に寄らざるおえなくなった三蔵たちは、とりあえず野宿で疲労した体 を休めるべく宿をとり、荷物をおろした。 夕食後、八戒からそれぞれの部屋の鍵を受け取ると扉を開ける。 「あ、そうだ。悟浄」 「あぁ?」 部屋に入る前に引き止められて、悟浄は隣の八戒を見やる。 「明日の朝は早いですから、寝坊したら置いていっちゃいますよ」 つまり、直訳すると・・・『あまり夜遊びが過ぎると見捨てるぞ』となる。 「・・・・・・はい」 この一行ではただの冗談にならないところが恐ろしい。 置いていくといったら必ず置いていくのだ、こいつらは。 「えーっ!俺、寝坊しちゃうかもっ!?」 それを聞きつけた悟空が一大事!と八戒に訴える。 「大丈夫ですよ、悟空はちゃんと起こしてあげますからvそれに朝ごはんも食べないと いけないでしょ?」 「もちろんっ!んじゃ、八戒よろしくな〜♪」 「まかせてください」 悟空と八戒は笑いあう。 三蔵はその間にさっさと自分の部屋へ姿を消していた。 一番最初に現れたのは悟浄だった。 「は〜い?」 ノックの音に中から悟空の声がした。 「ちっと邪魔するぜ〜」 「何だ、悟浄か」 ベッドに寝転がって寝る支度をしていたらしい悟空は枕を抱えて振り向いた。 「・・・悪かったな、俺で」 「別に。で、何か用?」 「いや。用つーか、何つーか」 「????」 「コレ、やるよ」 「え?」 ぽんっと押し付けられたのは『肉まん』の文字も鮮やかな袋だった。 「・・・・・え?」 「・・カワイー姉ちゃんが売ってたからつい買っちまったけど、今あんまり欲しくねーから お前にやるよ。ついでに出来たてらしいぜ」 「へ、あ・・・・・ありがとう」 悟浄が何か物をくれるというのはあまりに珍しくて驚いてしまった悟空だ。 「味わって食えよ、じゃーな」 「あ、うん・・・?」 次に来たのは八戒だった。 「悟空、まだ起きてますか?」 「起きてるよ〜」 扉の向こうから控えめに掛けられた声に寝るにはちょっと早い、とごろごろしていた 悟空はむくり、と身を起こした。 「どうしたの、八戒?」 「すみません、遅くにお邪魔して」 「別にいいけど・・・」 何だろうか、と悟空は首を傾げる。 「ちょっと渡したいものがあって・・・」 「・・??何?」 八戒は袂から白い小さな丸い紙包みを取り出した。 「宿の人に悟空へと貰っていたんですが、忘れてまして・・・珍しいものですから食べて みて下さいね」 「・・・・?食い物?」 八戒と白い包みを交互に見つめる。 そんな悟空に笑いながら八戒は包みをがさがさと解くと、中から小さな小さな粒を つまみ出した。 「・・・・何これ?」 「コンペイトウ、という砂糖を固めたお菓子です。作るのに結構手間がかかるんであまり 売ってるのは見掛けないんですが・・美味しいですよ」 そう言うとコンペイトウに見入っていた悟空の口に、ほら、と一粒放り込んだ。 「・・・・・・」 「どうですか?」 「ん・・・美味しーっ!」 噛むとしゃりしゃりと粉々になり、口の中に上品な甘さが広がっていく。 食べだすと止まらないかもしれない。 「小さいですから何個でも入るかもしれませんが虫歯になっちゃいますから食べた後は 歯磨きを忘れないで下さいね」 「わかった・・て、もう八戒はすぐオレのことガキ扱いするんだから」 「あはは、すみません。では、失礼しますね。おやすみなさい、悟空」 「おやすみ、八戒。ありがとう!」 「どうしたしまして」 八戒は包みを悟空に手渡して部屋を後にした。 「ちっ」 悟空の部屋から出てくる八戒を階下のテーブル目にした三蔵は思わず舌打ちをする。 その隣には夜遊びに出ているはずの悟浄が座っていた。 「おや、お揃いですね」 「そうなのよ〜v三蔵サマったら独りで飲むのは寂しいわ〜なんて・・・・冗談です」 こめかみに銃を当てられ、両手をあげる。 「では、僕も混ぜてもらいましょうかね」 そう言ってあまっていた椅子に座ると近寄ってきたウェイターに水割りを頼んだ。 「さて、三蔵はともかく悟浄は街に出たんじゃなかったんですか?」 「ん〜、まぁな。俺も偶には骨を休めるていうか?」 そんな悟浄の目の前にはジョッキのビールが置かれている。 「三蔵も部屋から出てくるなんて珍しいですね」 「・・・ふん」 答えず、三蔵は手酌で日本酒を傾ける。 「二人とも素直じゃありませんね〜」 「「・・・・・なら、お前は何だ?」」 悟浄と重なりあった声に三蔵は眉をしかめた。 「決まっているじゃありませんか。今日は悟空の誕生日ですからね♪」 そう、今日は4月5日。悟空の誕生日だ。 「悟空は忘れちゃってるみたいですけど、僕たちがお祝いしてあげればいいだけですから」 「よく言うぜ、それを見越して前の街で燃料入れなかっただろ?」 「あ、バレてました?」 「もろバレ」 八戒と悟浄は笑いあう。 そう、八戒はわざとジープの燃料を入れなかった。 悟空の誕生日にはこの街でゆっくり体を休められるように、と。 「ったく、あいつを甘やかすんじゃねーよ」 「と言いながら一番甘やかしているのは三蔵だと思いますけどね」 「そうそう、夕食だって猿の欲しがったもん全部注文してやってたじゃねーか」 「うるさい、黙れ」 結局。 三人とも悟空の誕生日を祝いたかったわけで、無事にその目的は達成できたと いうわけだ。・・・・知らぬは本人ばかりなり、で。 「旅の途中ですから家に居たころのように色々準備してお祝いしてあげられませんけど」 「いいんじゃねーの、あいつは何だかんだ言って何でも喜ぶんだからよ」 「そうですね、悟空が喜んでくれるのが何よりですから」 「・・・・・・・。」 「あーあ、俺たちゃ、ホント悟空には甘いね〜」 改めて自覚し、笑ってしまう。 だが、それを直すつもは無い。 自分たちはそれで満足しているのだから。 「それじゃ、主役はいねーけど・・・」 「そうですね」 「・・・・ああ」 『ハッピーバースデーっ!悟空!』 すでに夢の中に居る悟空に届きますように。 |
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主役の居ないバースデーパーティ(笑)
殊更に誕生日だといって騒がなくても
こんなふうに想って貰えているっていいと思いません?
自分のことちゃんと考えてくれてるんだー・・・て。
そんな、皆に愛され、大事にされ、甘やかされている
けれど
自覚のない、自分の誕生日さえ忘れている悟空でした(笑)