| 『綺麗ですね』 細い雨が世界を覆い、全ての者の眼を閉じていた日。 俺はそう声を掛けてきた男を・・・・・ 決して忘れないだろう 街には倦怠と死が満ちていた。 無機質なコンクリートとガラスは高く高くそびえ立ち、地を歩く者に息苦しさを 感じさせる。 雨のせいで外を出歩く酔狂な人間は誰もおらず、俺はあてどなく崩れかかった アスファルトの上を前へと進んでいた。 水分をぐっしょり含んだ前髪から滴がぽてぽてと目の前を落ちていく。 どうして歩いているのか。 いったいどこへ向かっているのか。 自分でもよくわからないまま歩いていた。 そんな時だった。 声がかかったのは。 「綺麗ですね」 最初、それは自分にかけられた言葉なのだとすぐには理解できなかった。 「どちらへお出かけですか?」 男の声は暗く沈んだ街で、静かだったが奇妙に明るかった。 「・・・・・もしかして、俺に言ってる?」 「あなた以外に、今ここには僕を除けば誰も居ませんが」 全くその通り。 「濡れた風情は襲ってしまいそうに魅力的ですが、風邪をひいてしまいますよ?」 「・・・・・・・」 「もしよろしければ、僕の家で雨宿りしていきませんか?あ、もちろんお代なんて いただくつもりはありませんから安心して下さい」 男は片眼鏡の奥の緑瞳を穏やかにゆるませた。 「ホットミルクです」 なぜか男に誘われるままに室内に入った俺の手の中にマグカップが渡される。 白い湯気がほわほわと漂った。 口をつけて喉に流し込む。 熱すぎずぬるすぎない液体が食道を通り、胃へと落ちていく。 胃は突然の来訪者に驚いたように、びくりと蠢いた。 「何か食べますか?」 ・・・・食べる・・・・俺はお腹が空いているのだろうか・・・? わからない。 「適当に用意しましょう」 出会ったときから穏やかな微笑を浮かべ続けている男は俺の当惑を気にせず どこかへと姿を消した。 窓の外に目をやると、雨はまだ降っていた。 「この雨で買出しに行けないものですから、大したものがなくて。これで我慢して 下さると嬉しいんですが・・・」 男は1品2品3品・・・と次々に目の前に皿を置いていく。 俺はただそれをぼうぅ・・と見つめていた。 「どうぞ、遠慮なく食べて下さいね」 男はそういうと向かいへと腰掛けて、俺をにこにこと見つめている。 「・・・あんたは食べないの?」 「一緒に食べましょう」 はい、と箸が渡される。 俺は条件反射でそれを受け取り、とまどいながら自分から一番近い皿へと それを突き刺した。 サー・・という雨の音が耳に届くほど静かな食事だった。 男は微笑したままゆっくりと口を動かし、俺はそれにつられるように皿を一つ一つ 空にしていった。 再び、口を開いたのはテーブルの上の皿を全て空にし、食後の珈琲に砂糖を いくつ入れましょうかと聞かれた時だった。 「・・・・3つ」 「5つにしておきましょう」 ・・・よくは、わからないが、男がそれがいいと言うのなら文句を言う筋合いはない。 事実、口に含んだ珈琲はとても美味しかった。 「えーと・・・」 「はい?」 何か言わなければ・・・・でも何を? 「・・・・ごちそうさまでした」 取りあえずそう言うと男は嬉しそうに笑った。 「いいえ、僕が勝手にお誘いしたんですから気にしないで下さい」 男は本当にそう思っているように見える。 もしかすると、男はこうして見知らぬ相手をもてなすのが趣味なのか・・・。 「とんでもない。僕はあなただからお誘いしたんですよ」 「え・・・・」 口に・・・出ていただろうか。 「僕は・・・・あなたがあまりに綺麗で・・・そして、哀しそうだったからお誘いしたんです」 「・・・きれい?・・かなしそう?」 俺の問いかけに男は寂しそうに笑った。 まるで泣き出す前のような顔。 「・・・気にしないで下さい。僕がそう思っただけですから」 けれど、男の寂しそうな笑顔は崩れなかった。 「・・・・ああ、雨がやんだようですね」 男が窓の外を見て呟いた。 ビル群に囲まれたこの街はたとえ雨がやんでも日が差すことはない。 「・・・行かないと」 俺は立ち上がる 男は、どこへ・・とは尋ねなかった。 ただ、黙って立ち上がると乾かしていた俺の服を差し出してくれた。 「楽しかったです。気をつけ行って下さいね」 「・・・・うん、俺も。ありがとう」 「どういたしまして」 この街に日は差さない。 けれど男の笑顔は春の日差しのように穏やかに俺に注いだ。 「あ・・・」 「どうかしましたか?」 「・・・ううん、何でもない」 俺は首を横に振ると、扉へ手をかけた。 「さようなら」 背中に別れの言葉がかかる。 「・・・た」 「え?」 「また、ね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・八戒」 男は俺の言葉に驚いたように目を見開き、囁くように初めて俺の名を口にした。 『悟空』 |
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・・・ね?よくわからなかったでしょう?(おいっ)
一応・・八空のつもりらしいです。(他人事か/笑)
何だか暇だったので手持ちのノートに
殴り書きした1品です(笑)
疑問点山盛りの作品ですが適当に読み流して
やって下さいませ。
・・・て最後にそれを言ってどうする(苦笑)