旅を共にするようになり、知りえたことは数限りなくある。 曰く、大食いであること。 曰く、煩いこと。 曰く、騒がしいこと。 その他、喧嘩っぱやかったり、座右の銘は『腹減った』だったり・・・・・・ つまるところ。 元気が有り余っているのだろう・・・・と容易く推測できる。 そんな中。 ただ一つだけ。 あいつの意外な姿を・・・・・・・・俺は知った。 久しぶりに大きな町で、俺は悟空が同室者であることを最大限に利用して 夜の世界へと繰り出した。 ・・・八戒だったら笑顔でそれは恐ろしい嫌味を言われ、三蔵では無言の圧力が 銃弾と共に飛んでくる。 白粉の匂いと香水、体臭が入り混じる、隠微な夜の街。 白い手に招かれて、枕を共にすれば一夜の夢に浸ることが出来る。 それはそれは楽しいひと時。 いつものように、適度に駆け引きを楽しんで、すでにぐっすりと本当の夢の 世界へ旅立っているであろう、悟空の元へと帰ってきた。 しかし、そこにあったのは。 蒼白い部屋。 否。 月の光が窓から差しこみ、部屋を月色に染めていた。 その月明かりの差す、窓辺に腰をかけ・・・意外にもまだ起きていた悟空は 天を見上げていた。 昼間の騒がしさなど微塵も感じさせない静かな姿は、ひっそりと、まるで よく出来た彫刻のようにぴくりとも動かなかった。 静かな悟空の肌が、月の光を弾いて輝く。 常になく、大人びた雰囲気を纏わせた悟空は、悟浄が入ってきたことにも 気づかずにただ、ただ天を見上げる・・・・・月を。 そこに・・・・焦がれる何かが、あるように。 憂えるように。 悲しむように。 ・・・・誘うように。 静謐な姿は声をかけることも憚られた。 あの『悟空』が。 元気さが取りえの、あの悟空が。 よく似た別人なのではなかろうかと、そう思った悟浄はもう一度部屋を確認する。 間違いなく、自分たちの部屋だ。 したたかに酔っていたが・・・・一気に覚めた。 それとも・・・悪酔いしているのか? じっと魅入られたように、悟空へ視線が吸い付く。 その自分の視線に・・・・・悟空がゆっくりと振り向いた。 「・・・・・・悟浄」 そして・・・・・穏やかに『微笑ん』だ。 間違いない。 俺は酔っている。 そう確信して、俺は窓辺の悟空に歩み寄った。 きっと足取りは不安定で・・・顔は呆けていて・・傍から見れば滑稽極まりない 姿だったに違いない。 「・・・悟空」 自分まで、あたりを憚るような含み声。 この静けさを壊したくなかった。 悟空の手がそっと、悟浄の腕に触れた。 「何してんの?」 「・・・お前こそ・・・もう、お子様は寝る時間、だろうが・・・」 途切れ途切れの悟浄の言葉に悟空がくすりと笑う。 「月がね。きれいだったから・・・」 そうして、うっとりと、又天を見上げる。 悟浄もつられて視線を向ければ、天には煌煌と輝く丸い月。 確かに美しい。 美しいが・・・・・・どこか、もの悲しい。 「・・・・寝ろよ」 思わず呟いた。 悟空の視線をそれ以上、月などにさらしたくなかった。 嫌だった。 「・・じゃぁ・・・」 悟空が首をかしげ、悟浄に呟く。 思いの他、近く吐息まじりに届いた声は・・小さいけれで明瞭で・・・・ 「・・・一緒に寝てくれる・・?」 それは艶めいた意味か。 子供の児戯か。 悟浄には判然としなかったが・・・崩れ落ちた悟空の身体を受け止めた。 その重さだけが、確かなもの。 月の光の下で。 悟空は。 美しかった。 |
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† あとがき †
冬になると、夜空が美しく星も月も綺麗に見えます。
そして書きたくなったこのお話。
悟空はともかく、何故に悟浄かというと
普段騒がしいコンビなだけにそのギャップが際立つ・・というわけで採用(笑)
・・・珍しく悟浄がいい思いして・・・無いですか?(笑)