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「あーっ」 言葉とはいえない高い幼い声が部屋に響いた。 その発信源はベッドの上。 ちょこんと座った物体。 その物体はシーツの端をつかみ一心不乱に口にくわえようと奮闘していた。 「・・・・・どういうことだ」 これぞまさに”地を這う”声だと言わんばかりに不機嫌な顔をした三蔵が眉間に 深い皺をつくりながら八戒に問い掛けた。 「いえ、僕にもいったいどういうことなのか・・・」 いつもの笑顔ながら八戒が隠し切れない困惑を混ぜる。 「悟浄・・・」 次に三蔵が視線を向けたのは悟浄だった。 目には殺気がこもっている。 返答次第によっては血をみることは間違いない。 「うぇっ!?俺は何も知らねーぞっ!!」 「本当ですか、悟浄?」 両サイドから責められて痛いところもないのに冷や汗が流れる。 「悟浄でもないとすると・・・・あとの心当たりは・・・」 「・・・神だな」 「・・・・神様ですね」 「・・・神だろーな」 三人の意見は見事に一致した。 そして三人はとりあえずベッドの上の『赤ん坊化した悟空』をどうするか検討しはじめた。 「やはり・・・一番の問題は食事だと思うんですが」 「大丈夫なんじゃねぇ?だってシーツ食ってるくれーだもんな」 「ああ・・悟空。それは食べ物じゃないんですよ」 「あーあー」 いまだにシーツをはむはむしていた悟空を八戒がシーツから引き剥がそうとするが赤子でも 悟空・・・その力は半端ではなくシーツがびりっと音をたてて破けた。 「・・・すっげー執念・・・」 「これでも食ってろっ!!」 三蔵がシーツの切れ端を食べようとする悟空の口にぐるぐる飴を突っ込んだ。 「・・・・なんで持ってんのかすっげー不思議なんですけど・・・・」 ガウンッガウンッ!! 「うおっ!!」 「うるせぇっ!!」 銃弾を悟浄に向けて連続打ちする三蔵とそれを紙一重でよけつづける悟浄。 その様子を八戒に抱かれた悟空が「きゃっきゃっ」と楽しそうに観戦していた。 そして「あーあー」と三蔵の銃のほうへ手をのばす。 「あ、あれは駄目ですよ。おもちゃじゃありませんからね〜」 「あーっ!!」 どうやら怒っているらしい。 八戒の抱いている手をばしばしと叩く。 その様子はたいそう愛らしいのだが・・・・・衝撃に八戒の笑顔がひきつってくる。 (・・・・痣できてるかもしれませんねぇ・・・・) 「あーっあっあー」 「・・・三蔵サマ、ご指名だぜ」 「・・・・知るかっ!」 「あーっ!!」 悟空が思いのままにならないため、零れ落ちそうな大きい金色の瞳にうるうると涙を 浮かべはじめる。 小さい手がぎゅうぅっと握ったりひらいたり、花びらのような唇がつんと突き出される。 「あうぅ・ぅ・・・・」 ・・・・・・・・・・犯罪ものの可愛さだった。 思わず八戒がぎゅぅぅぅっっと抱きしめると、やわらかな悟空のほっぺたがぷにゅっと なって、「うー」と苦しげにうめいた。 「貸せっ!!」 そこへ三蔵がすかさず手を出し、悟空をかすめとった。 「あ?」 自分を抱く相手が変わったことに悟空は不思議そうな顔をして三蔵をみあげた。 「・・・バカ猿」 「あーあー♪」 ・・・・バカにされていることがわかっていないらしく反対に喜んでいる。 そのまま悟空は「あ〜」と手をのばすと三蔵の金髪をぐいっとひっぱった。 「・・・っ痛!!この・・・っ!!!」 「おっと!!」 怒り心頭の三蔵が悟空にいつものように愛の鞭をふるおうとしたところへ悟浄がカバー しながら悟空を自分の腕の中へ。 「あっ♪あっ♪」 こちらもまた悟浄の”触覚”に手をのばそうとして届かないのでそのまま顔をばしばしと たたく。しかも容赦なく。 「・・・・悟空ちゃ〜ん、痛いんだけどな〜・・・」 悟浄の顔にはくっきりと小さなもみじが出来ていた。 「・・・何とか元に戻す方法は無いんでしょうか?」 悟浄の腕の中でもみじを作りつづける悟空を見ながら八戒が三蔵に問う。 「無理だな。そもそもの原因がわからん」 「そうですよね・・・・あの悟空も可愛らしくていいんですが・・・・やはりいつものように”八戒” て呼んでくれないのは悲しいんですよね・・・・」 そこが問題かい? 「俺もこれ以上もみじ作られるのは勘弁してもらいてーな・・・」 悟空を下におろした悟浄が二人のもとにもどってくる。 「悟浄・・・顔腫れてますよ・・・・・」 「・・・・・・」 三蔵と八戒が笑い出したいのを我慢して、こめかみをひくひくさせる。 「うっせーての・・・」 自分でも情けないのか悟浄の抗議する声には力がない。 だからといっていつものように『バカ猿っ!』と鉄拳をくだせないところが悲しい。 「俺も元の小猿のほうがいいぜ」 しみじみと悟浄は言った。 「あーあっあっ・・・・あっー」 一人にしていた悟空の声がして3人がふりむくとそこにはベッドの足を掴んで立ち上がろうと する悟空の姿があった。 ベッドの足にすがりつくように自分の体を立ち上がらせた悟空が3人のほうへ手をむけて 歩き出す。 「あー」 それを固唾をのんで見守る三人。 まさに心境は”息子のはじめてのたっちの現場を見る父親”である。 「あっあっ・・・・っ」 ゆっくりと右足を踏み出した悟空はバランスをとりながら左足を前に・・・・・・出そうとして 頭が重たいのかごろんっと一回転してしまった。 「「「悟空っ!?」」」 慌てて駆け寄った3人に起き上がった悟空は。 「あ〜♪」 満面に天使の微笑みを浮かべて首をかしげた。 「「「・・・・・・・!!!」」」 感涙ものの可愛さに3人は言葉もない。 ・・・当分このままでいいかもしれない・・・・・・ 「あーあー」 顔がゆるみまくる三人に、悟空が一番近くにいた八戒にだっこをねだって手をあげた。 「はいはい、だっこですね〜」 ご要望どおり抱き上げてやると悟空はきゃっきゃっと喜んで八戒の髪の毛をひっぱった。 「い、痛いですよ、悟空」 「おい、八戒」 「・・・嫌ですよ」 悟浄が何かを言う前に八戒は即答で却下した。 「あっあ?」 「ん〜なんですか?悟空」 「あっあ!あっあ!」 「・・・・もしかして”八戒”て言ってます?」 「あ!あっあ!」 どう考えてもあーあー言っているとしか思えないが八戒の耳にはそう変換されて聞こえるらしい。 「悟空〜〜っ、ああ、なんて可愛いんでしょうっ!」 その様子に八戒の保父熱は否が上にも高まり、ぎゅぅぅっっと抱きしめてしまう。 ・・・・・・・・壊れるって。 このまま八戒の元へ置いておいては危険だと判断した三蔵は一瞬の隙をついて悟空を八戒から 取り返す。 「あ?・・あーあぁ!」 小首をかしげた悟空は三蔵を認識したのか、その顔を見上げてにっこり笑う。 ・・・・・・・・このまま行方をくらますか・・・・・・・・ ちょっと理性が危うくなる三蔵さまである。 「ま、このまま悟空を可愛がっても仕方ありませんから・・・・」 三蔵の不穏な様子から何かを察したのか八戒がそう言って「どうしましょう?」と再び問うた。 「そうだよな〜、このままじゃぁ夜泣きとかされたら困るしな〜」 「夜泣きはともかく・・・・病気とかも怖いですし・・・」 子供特有の病気もあるし、対抗力も弱い・・・・・・・・・・・・はずだ。(悟空に関してはわからないが) その時、眩い光とともに、3本の影が現れた。 言わずと知れた神様三人衆である。 「金蝉、今日こそ魔天経文と孫悟空をいただきに来たぞ」 何気に悟空のところが強調されてるあたり結構正直者かもしれない、焔である。 「ちっ・・・」 三蔵は舌打ちして銃を構えるが悟空を腕に抱えているあたり様にならないことこの上ない。 「・・・・・ところで、孫悟空はどうした?姿が見えないが」 「てめぇの目の前に居るだろうが」 悟空の姿を求めて彷徨っていた焔の視線が三蔵に向けられる。 目の前・・・・・・? 三蔵の腕に抱かれた・・・・・・・・・・・・・・・金眼の赤子。 「まさか、それが孫悟空だと冗談を言っているんじゃないだろうな」 「冗談も何も本当のことなんですが・・・」 八戒が焔の言葉に苦笑する。 「・・・つーことは悟空がこうなったのはあんたらのせいじゃないってことか?」 「何のことだ?」 焔の眉が不可解げに顰められる。 三蔵たちがずざざと集まった。 (・・・・・どういうことだ?) (さぁ・・・でも神様たちの仕業でないとすると・・・) (紅孩児たちか?) (いや、あいつらにそんなことは出来ん) (では・・・・) 神様’sそっちのけではじめられた三人の議論に取り残された焔たちは途方にくれる。 「おい・・・・」 焔が声をかけるが完全無視である。 「今日のところは出直したほうがいいのでは?焔」 紫鴛がとてつもなく適切な助言をする。 「・・・・・・仕方が無い、そう・・・・・」 するか・・・と続けられるはずの焔の言葉はいつのまにやって来たのか焔の服の裾を掴んで いる物体にさえぎられた。 「あ〜っ!!」 どうやら這ってここまでやって来た悟空は立ち上がりたいらしく焔の上掛けを思いっきり掴んで 引っ張っている。 「あーあーっ!!」 「・・・立ちたいのか?」 赤子など扱ったことのない焔。 悟空におそるおそる触れる。 「あ〜っ♪」 一方の悟空は慣れたもの。 ばんざいの姿勢でだっこをねだる。 もちろん、とびきりの笑顔を忘れない・・・・・・・・・・・・・・・結構知能犯かもしれない。 「軽いな」 抱き上げた焔がぽつりともらす。 それにふにゃんとして・・・・・・力の加減がわからない。 「紫鴛・・・」 このままでは壊してしまいそうだと焔が紫鴛にバトンタッチしようとしたが・・・・・・・・・・・・ 「あーっ!!あっ!!」 渡そうとすると焔の服を掴んで放さない。 「・・・・・・焔、孫悟空はあなたがいいそうですよ」 「あ〜あ〜っ!む〜っ」 必死に焔を涙まじりの大きな瞳で見上げて、首をふるふる、振る。 「・・・・・・・・・」 この悟空でもいいかもしれない・・・・・・・・・・焔は思った。 「紫鴛、是音・・・・・・帰るぞ」 「おいおい。帰るって・・・そのガキもか?」 「もちろんだ、なぁ悟空」 「あっ♪」 きっと意味はわかっていないだろうが自分の名前を呼ばれたことはわかったらしい悟空が きゃっきゃっと喜ぶ。 「ほら、悟空もそうしたいと言っている」 ・・・・それは違うだろ。 思わずツッコミそうになった紫鴛と是音だったが言い出したら聞かない焔である。 すでに諦め顔だ。 ガウンッガウンッ!! 「・・・・危ないな、悟空に当たったらどうする」 ようやく悟空が手元に居ないことに気づいた三蔵が焔に銃弾を放った。 「さっさとその手をはなせ」 「酷いことを言う。今俺がこの手を放せば悟空は地に落ちるぞ?」 「うるせぇっ!とっとと返しやがれ!!」 銃弾があめあられと注がれる。 だが、それは焔に届く前に障壁に遮られて地面へとぽとぽと落ちていく。 「ちっ!」 盛大に舌打ちした三蔵に焔は不敵な笑いを浮かべると悟空を抱えなおした。 「では、悟空は貰っていく」 そういうわけにはいかねーんだな。 尊大な声とともに再びあたりを光が覆った。 「「「「「「「この声は・・・・・!?」」」」」」」 『観世音菩薩登場!!』 腰に手をあてポーズを決めた観世音菩薩はくいっと手を動かすと、呆然とする焔の手から あっけなく悟空を攫った。 「あ〜っ♪」 「へぇ、ずいぶん可愛くなったじゃねぇか」 喜ぶ悟空に観世音がよしよしと揺さぶった。 「「「「「「「犯人はお前かっ!!!」」」」」」 見事に唱和した一同である。 「さっさと元に戻しやがれっ!!」 三蔵が叫ぶ。 「嫌だね」 そんな三蔵を面白そうに眺めてあっさり拒絶の言葉を継げた観世音。 「神ともあろう方が人で勝手に遊んでいいんですか?」 「いけないだろうな」 八戒の言葉に笑って答える。 「そう、ずっと昔にな・・・・言われたことがある。『花だって育てたことないのに』てな。それで 育ててみようと思ってな」 「「「「「はぁぁぁっ!?」」」」」」 「ま、すぐに返してやるから心配するなって。それじゃあな!」 それだけ言うと観世音菩薩は姿を消した。 「「「「「「おいっっっ!?」」」」」」」」 慌ててもすでに遅い。 「くっくっくっ・・・・あいつらの慌てた顔!!傑作だったな!!!」 「・・・・・・・・観世音菩薩、もしかしてただそれが見たかっただけなのでは・・・・・・」 二郎神は痛む胃をおさえながら尋ねたのだった。 それに返ってきたのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・笑い、だった。 (あぁぁぁぁぁぁっっ仮にも菩薩ともあろう方がぁぁぁぁぁっっっっ!!!!) ・・・・・・・・・二郎神は当分胃薬を手放せそうになかった。 さて、悟空が元に姿に戻ってきたのはそれから一週間後のことだった。 |
† あとがき †
・・・・・・どうして、こんな話を書こうと思ったのか
自分でもよくわからないんですが(おいっ)
とりあえず悟空の赤ちゃん姿が見たいなぁ〜と(笑)
。。。゛(ノ><)ノ