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| それに気づいたのは。 雪の降る・・・静かな夜だった。 連日の、深夜に及ぶくだらない仕事を漸く片付け、自室へと戻る道すがら。 三蔵は三ヶ月ほど前に拾った『悟空』という自分の名前しか覚えていない子供の 部屋の前を通らなければならなかった。 いつもならば、そこは素通りにする場所。 だが、その夜は。 入り口の扉がわずかに開き、そこから廊下の闇に月の光が差し込んでいた。 「・・・・・」 思わず足を止めた三蔵はそっと中に目をやる。 今夜は満月。 開け放たれた窓から、その形がはっきりと見えた。 その窓べりに、小さな影がちょこんとうずくまって、月を見上げていた。 その姿は静謐にして、犯しがたく。 昼間見る、子供っぽい表情はなりをひそめ、酷く大人びていた。 そして何より、三蔵を動揺させたのは・・・・・・。 音もなく、頬を伝う涙。 「・・・・・・・」 三蔵は気配を絶ち、無言で立ったままそんな悟空を見つめ続ける。 (・・・・悟空、お前は声を殺して啼くんだな・・・) いつもは鬱陶しいほどに騒がしく、五月蝿いくせに。 そんな悟空の姿に魅入られたように、三蔵は動かない。 ・・・・動けない。 しかし、ゆっくりと悟空が音無く、口だけを動かした。 『さ・ん・ぞ・う』 びくりっと三蔵の肩が揺れる。 自分が見ていることに気づいたのか、と思えばそうでもないらしい。 悟空は変わらず自分の方ではなく、空の月を見上げている。 けれど、確かに今。悟空は自分を呼んだ。 「・・・・わからねー・・。どうして・・・生き物は死ぬんだよ」 それは、誰に聞かせるともなく呟かれた悟空の独白。 耳にしたのは月と・・・三蔵だけ。 「オレなんてずっとず〜〜〜っと生きてるけど死なないんだよ?・・・どうして・・・」 再び、悟空の頬に涙が伝う。 その涙を三蔵は美しいと・・・・痛々しいと思う。 「・・・・・みんな、オレを置いて逝くんだよ・・」 長い時を生きる悟空。 その間、あいつはどれほどの死を看取ることになるのだろう。 それでもあいつは生きていく。 ずっと。 ずっと。 ひたすらに。 永遠の時を。 あいつは・・・・・・・悟空は『絶対に』死なない。 三蔵は歩き出す。 その顔に浮かんでいるのは・・・・・『狂喜』 アレこそが己の望み。 守らなくてもいいもの。 己のこの感情が歪んだものであることは承知している。 それでも。 俺は、俺自身のために。 悟空、お前を救ってはやらないだろう。 |