「ああ、そういえば・・」
 西方への旅路。
 ジープをひたすらに走らせていた八戒は突如何かを思い出したらしい。
 運転する手をそのままに、沈黙を破った。
「何だ、忘れ物か?」
「・・・戻らんぞ」
「いえいえ違いますよ。ほら・・僕たちの旅も長くなりますが」
「いい加減、てめぇらの顔も飽きたな」
「それはこっちのセリフだっつーの!」
 売り言葉に買い言葉。三蔵と悟浄は角をつきあわせる。
 普通ならばそこに参戦する悟空は後部座席でぐっすりすやすや夢の中だった。
 薄く開いた口からよだれが出ていることからして・・・また食べ物の夢でも見ている
 のだろう。

「まぁまぁ喧嘩しないで下さい。ジープから降りてして下さるのならともかく、ここで
 されたら悟空が起きてしまうじゃないですか」
 どこまでも悟空優先の保父さんはにこやかな微笑みのまま二人を凍りつかせた。
「・・・で。何なんだ?」
「ああ、はい。それで、悟空は三蔵に色々おねだりしたりしますが、料理を作ってくれ
 とは言わないなぁ、と思いまして」
「・・・・それは言わないんじゃない?いくらなんでも最高僧の三蔵サマがメシなんか
 作れるわけねーもんな」
 悟浄がぎゃはははっと笑い声をあげる。
 それもそうですね、と八戒も同意しようとしたところへ・・・・・



「・・・・ある」



「「・・・・・・・は?」」
 八戒と悟浄はぽそりと落とされた三蔵の言葉に笑顔のまま時を止めた。
「だからあるって言ってんだよ。昔、一度だけな」
 再びジープに不気味な沈黙が落ちる。
 そして・・・・・


「・・・えぇぇぇっっ!!!!??」
 一斉に叫び声があがった。


「んぁ??ん・・・どうしたんだ、みんな?メシ?」
 ごしごしと目をさすり、起きだした悟空だけが状況を理解できずぼけていた。






















「あー、うん、そう言えば」
 宿に到着し、無事に取れた4人一部屋であらためての八戒の問いに悟空は
 一瞬思い出すように視線を泳がしてうなずいた。
「言ったことある・・。でもに・・二度と言わない!」
「え、どうしてですか?」
「だって・・・・」
 さぁぁ、と悟空の顔が蒼白になる。
 ・・・どうやらかなり恐ろしいことがあったらしい。
「三蔵サマってばすげー怒ったとか?」
「だいたい三蔵はいっつも怒るじゃん」
 確かに三蔵に怒られても悟空はめげない。
 時には喜んでいるふしさえある。
「それでは・・食べられないほどまずかったとか?」
「・・・・食べて無い、から・・・わかんない」
「???食べなかったんですか?」
「・・・・・・・・」
 悟空が口をつむぐ。

「料理してる途中で逃げ出しやがったからな」
「三蔵!」
 仏頂面の三蔵が珍しくにやりと意地悪げに笑う。
 この鬼畜生臭坊主、相当なことをやらかしたらしい・・・と八戒は心の中で毒づいた。
 しかし、かつてジープでさえ『食べられる物』に分類していた悟空が、食べる前に
 逃げ出すとは尋常では無い。

 しかし、何度尋ねても悟空は首を口を閉じてしまい話さない。
 三蔵など聞くだけ無駄だ。

 そして八戒は最後の手段に出た。

「では、教えてくれたら今日の夕食は二品プラスしましょう」
「うぅ・・・・うー・・・」
 かなり迷っている。
「では・・三品・・・いえ、五品でどうです?」
「話す!・・・・あ」
 まずい、と口を押さえる悟空に八戒がにこやかに笑っていた。












「・・・オレ、料理って焼くぐらいしかわかんないからさ・・・」
 悟空はしぶしぶと語りはじめた。
「三蔵がそれを始めたときも、料理に必要なことなんだなって思って・・・」
「それ・・・?」
「うん、上着脱いで、上半身裸になったんだ」

「・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
 料理をするのに何故、裸?
 その場に居た八戒と悟浄は悟空の言葉に疑問を頭の中にちりばめた。
 だが、悟空は話続ける。

「んでさ、何するのかと思ってたら・・・いきなり噛み付いてきたんだぜ!?」

「・・・・・・・・・か、噛み付く??」
 悟空は大きく頷く。
「そう、肩にかぷって!」

 肩にかぷっ・・・かぷっ・・・・・・。
 誰が?
 ・・・・・三蔵が。

「オレ、すっげーびっくりして・・・・そうしたら三蔵が自分のことも噛んでいいって・・・
 下ごしらえだからって」
 何のですか?

「・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・」
 八戒も悟浄も言葉が無い。

「それって、三蔵がオレを喰って、オレが三蔵を喰うってことだろ!?そんなの・・・
 信じられないよなっ!?だから・・・逃げたんだけど・・・て、八戒?」
 ぽんと悟空の肩に手を置いた八戒を見ると・・・・
「良かったです、悟空が無事で」
 しみじみと頷いている。
「・・・??うん?」

 やはりあの鬼畜生臭坊主は一度殺っておかなければならないらしい。
 八戒は心の中で決意した。



 










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