”仕方ねぇから連れてってやるよ”









 







「オレ、絶対に三蔵より先には死なないっ!!」
「そりゃよかったな」
 強く宣言した悟空に悟浄があっさりとした応えをかえした。
「何だよっ!!」
 それが不満だったか悟空がダンッと壁に手をつき、悟浄のほうへ身を乗り出した。
「だってさ〜オレら妖怪よ?人間とは寿命が違いすぎるっての。もともと人間より先に
 死ぬわけねーだろ」
「でもっ!!]
「でももネモもねぇっての」
「何だよ、ネモって!!」
「知るか」
「知らないのに使うなっ!!」
 ヒートアップして悟浄に掴みかかってくる、悟空の小さい体をふいっと抱き上げた。
「な、なにっ!?」
「それにお前って俺よりちーせぇだろうが。どうせ死ぬとしたら俺らん中じゃお前が
絶対に最後だ、間違いない」
「む〜〜っ」


「悟浄」

 二人の言い争いを見守っていた八戒が悟浄の名を呼んだ。
 笑顔で、穏やかな声音だったが悟浄は見るからに顔をひきつらせて逃げ腰になっていた。

「な、何でしょう・・・八戒、さん・・・」
 失言をした、と思ったときにはすでに遅く、八戒は笑顔だったが静かに怒っていることが付き合いも2年に近くなる悟浄は察することができた。
「死ぬ死なないと、物騒ですよ」
「言い出したのは悟空だぜ」
「乗ったのはあなたです」
「・・・・・」
 こと悟空に関しては超過保護な保護者さんに悟浄が勝てるわけがないのだ。
「悟空、こちらにいらっしゃい」
 悟浄の腕の中から悟空を奪取すると八戒はにこにこと語りかけた。
「悟浄の言うことは気にしなくてもいいですよ。人でも妖怪でもやがて死にゆく生き物です。でも案外丈夫で死にそうでも死なないものですからね。この僕のように」
「でも、オレ三蔵より先に死ぬのは・・・イヤだ。それに三蔵がオレより先に死ぬのも
ぜってー嫌だっ!!」
「あの鬼畜坊主がそんなに好きかぁ?」
「うんっ!!三蔵のこと好き!!」
「・・・・・・・あ、そう」
 からかい混じりに言ったことばをあっさりと強く肯定されて悟浄は呆れて
そっぽを向いた。
「くすくす・・・悟空はどこまでもまっすぐですね」
 八戒の瞳が優しい光をともした。
「でも、いったいどうして突然そんなことを言い出したんですか?」


「・・・オレ、三蔵に岩牢から出してもらって・・・寺院に連れてこられて・・・・・
ただずっと三蔵のそばに居られればそれでいいと思ってた」
「ええ」
「でもさ、寺のやつが『役立たずを傍に置いておくとは三蔵さまも人がいい』とか言われて・・・」
 八戒の極殺リストにその僧の名前がインプットされたのは言うまでもない。
「役に立たないと傍にいちゃいけないんだったら・・・オレが三蔵にできることって何だろうて思って・・・・・」
「それで”三蔵より先に死なない”なんて言い出したんですか・・・」
「うんっ!!」
 きっとあまり複雑には出来ていない頭で考えに考えただろう悟空に八戒はただ微笑するに留めておいたが・・・・・ふと思いが浮かびあがった。

(でも・・悟空。三蔵は人。その寿命は妖怪に比べてはるかに短い・・・あなたが三蔵より先に死なないことは容易くとも三蔵があなたより先に死なないというのは・・・)









「とまぁ、こういうことがあったわけです」
 八戒の言葉に目の前の最高僧玄奘三蔵はふん、と鼻をならした。
「サルがいらんことを考える」
「そうでしょうか?悟空は悟空なりに自分があなたにとってどんな存在なのか考えたんじゃないでしょうか?」
「それが余計なことだ」
 三蔵は目を通していた書類から視線をあげた。

 30分ほど前に突然に寺院へやってきた八戒はいつもならば悟空を探して遊びにでも連れ出すのになぜか今日に限って三蔵の執務室に現れた。

「余計なこと、ですか?」
「ああ、俺が死のうと生きようと俺の勝手だ」
「・・・・そう言うと思いました。でも悟空には言わないでくださいね。泣きますから」
「はっ・・・泣く?そんな細かい神経は持ち合わせてねーな、あいつは」
「本気で言っているんですか?それとも照れているんですか?悟空が誰よりも深い感性の持ち主であることはあなたが一番よくわかっているはずですよ?」

「・・・・・・お前のところから帰ってきたあいつが鬱陶しいわけがわかった」
 悟空が三蔵の傍をうろちょろするのは日常茶飯事のことながら、ここ2,3日という
ものそれ以上に三蔵の一挙手一投足に悟空の視線がついてくる。


『・・・何だ?』
 我慢しきれなくなり、尋ねてみたが。
『え・・う、ううんっ!!何でもないっ!!』
 と慌ててあたふたと視線をはずす悟空。
 それは己の想像つかぬ悟空の行動で、その度にいらいらは募っていった。



「悟空の世界は全て三蔵でいっぱいなんですね・・・」
「・・・・・・」
 八戒の言葉は的を射ているようでいるが、正確には違う。
 悟空の世界は”三蔵でいっぱい”なのではなく”三蔵しかない”のだ。
「実のところ・・・・・・・羨ましくて仕方ありませんでした。改めて、悟空はあなたの
ことが好きなのだと思い知らされて・・・・・」
「・・・・欲しければ持っていけ」
「本当にそうしてよければ喜んで」
「・・・・・」
「でも、わかっているんでしょう?悟空がそんなことに肯くわけがないと」
「・・・・・・・・何が言いたい」
「悟空を悲しませないで下さい。それだけを言いにきました」

 八戒は三蔵が無視したことも気にせず頭を下げて背を向けた。









「・・・・八戒」
 扉に手をかけた八戒に三蔵の静かな声音が追いかけた。
「妖怪の寿命がどの程度なものなのか俺は知らん。だが、悟空は岩牢の中で500
年という時を生きてきた」
 
 全ての雑音が消えた。


「あいつが俺より先に死ぬことも、死なれることも嫌だというのなら・・・・・・・・・・・・」



















 『連れていくさ』
 



 








† あとがき †

三空?・・・てな感じですね(笑)
八戒さんは相変わらずでばってます♪
「死が二人を分かつまで・・・」なんて文句をよく聞きますが
この二人の絆は死さえも分かつことのできない強いもの。
それはきっと皆様納得されることとは思いますが
では、実際に二人に死が迫ったとき、二人はどうするのか?
今回は『死なばもろとも』バージョンです(笑)
御華門としては悲劇的な結末は嫌いなのでこれ以上は
書きませんが・・・・他には『お前だけは生きろよ』バージョンも
いいな・・・と思わないでもありません(笑)

では、ご拝読ありがとうございました!



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