「さんぞーっ・・・ど、どうしよう〜〜っっ!!」
滅多に泣くことのない悟空がぽろぽろと涙を流して三蔵に縋ってくる。
「どうしよう・・・・て」
だがいつもならハリセン一発で事をおさめる三蔵の様子が違う。
「・・・・どうすりゃいーんだ・・・・・?」
呆然と呟く三蔵の頭の中は混乱の真っ只中にあった。
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遡れば、大本の原因はふらりと旅に出た先で岩牢に閉じ込められた少女を三蔵が 寺院へと連れ帰ったこと、だったろう。 だが、今さらそんなことを言っても連れて帰ったものは仕方が無い。 元の場所へと戻すわけにもいかず、少女は三蔵と共に寺院で暮らすことになった。 少女の名前は『悟空』 何故、岩牢にいたのか? 誰が閉じ込めたのか? 自分はいったい何なのか? そんなことは一切、知らない――――――いや、覚えていなかった。 ただ、額にある金鈷が悟空が「人間ではない」ことを伝えていた。 牢から開放された悟空はそれはそれはガキでチビで・・・いわゆるお子様だった。 身長も三蔵の腰のあたりまでしかなく、髪は伸び放題で手入れもしておらす、 服はぼろぼろ・・・・・それこそ目もあてられない、という表現がぴったりとあてはまる 様子だった。 だが、素直で元気・・・・天真爛漫な様子は何にも変えがたく・・・排他的な寺院の僧達もそんな悟空を微笑ましく見守っていたのだった。 が、しかし。 季節が移りかわり、葉が落ち・・・・・再び花を咲かせるように、”お子様”な悟空も いつまでも”お子様”なままではいなかった。 言動は昔とちっとも変わらないくせに・・・身体はしっかりと少女から女性へと移り変わっ ていたのだった。 バタバタバタッッ!!! ダンッ!!!! 三蔵の執務室の扉が凄まじいいきおいで叩きつけられるように開かれた。 「うるせぇっ!!廊下は走るなと言ってるだろ・・・・・」 が!!・・・・と続けようとした三蔵はそこに立っている悟空の涙まじりの蒼褪めた顔を 見て・・・・・・目を見開いた。 「三蔵・・・・っ!」 勢いよく入ってきたはいいが、悟空は三蔵の名前を呼んだままそこで固まってしまった。 「・・・・どうした、悟空?」 三蔵にしては驚異の穏やかさで悟空に問い掛ける。 それほど悟空の様子は尋常ではなかった。 「オレ・・・・・」 女なんだから”オレ”はやめろと言うのだが一向に改まらない悟空の口が、震える。 「オレ・・・・」 「だから何だ?」 短気な三蔵はすでにキレそうだった。 「オレ・・・・・・・・・死んじゃうんだっ!!!!!」 「・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・寝言は寝て言え」 いったい何かと思えば・・・・・・くだらん。 朝に5人分の食事を軽く食べていた奴が死ぬ? それなら俺のほうが先に死んでいる。 「寝言なんかじゃないんだってばっ!!!」 だが、悟空の様子は変わらない。 「オレ・・・・オレ・・・・・・」 言葉の続かない悟空がついにぽろぽろと涙をこぼしはじめた。 三蔵は・・・・認めたくはないが・・・・この悟空の涙に弱かった。 「何を泣いている?詳しく話さないとわからねーだろうが」 そして、こちらに来いと手招くが悟空は首を振って動こうとしない。 「悟空?」 「ダメ・・・・ここから・・・動けない・・・・」 「動けない?この部屋まで走ってきただろうが」 「でも・・・ダメ・・・・動いたら・・・」 「動いたら?」 「・・・・・・・・・・・・ふ、ふぇーんっっ」 「・・・!?」 ・・・・・これは確かにおかしい。 三蔵はやっと重い腰を椅子からあげ、悟空に近寄る。 「いったい何があった、悟空?」 「ひっく・・・え・・・っ・・・さんぞ・・・・っ・・・・・」 嗚咽のせいで言葉をつづれない悟空の髪を落ち着かせるように優しく梳いてやる。 「どうした、悟空?」 「オレね・・あの・・・・・いつもみたいに・・・っく・・・遊んでたら・・・っ・・・・」 「・・・・・・木登りはやめておけと言っただろうが」 「だって・・っ!すっげー景色綺麗なんだもんっ!!」 話がずれいている。 「・・・で、遊んでたらどうしたんだ?」 「でねっ・・・遊んでたら・・・・・ここ・・・足のところ・・・・・血が出てたからね・・・・っ・・・・ どっかで擦りむいたんだ・・・て思ったんだけど・・・・ねっ・・・・でも・・・っ」 三蔵はちょっと嫌な予感がした。 「足じゃなくて・・・オレの・・・オシッコとか出るあたりから・・・・・血が・・・っ出てて・・っ それがねっ・・・・ずっとね・・・ずっと・・・止まらないん、だ・・っ」 ああ、そうか・・・悟空も一応”女”だったんだな・・・なんてことを頭の片隅でなんか 三蔵は思っていたりした。 「こ、このまま・・・オレ・・・体中の血が出て・・・・死・・・死んじゃうんだ〜〜っ!!」 「・・・・・・・。・・・・・・・・・」 「さんぞ〜っ、どうしようっっ〜〜〜っ!!!!!」 ・・・・・・・・・・というわけで最初に戻るわけである。 えぐっえぐっと泣きつづける悟空を三蔵は冷静に見つめる・・・・・ように見えたが、頭の 中では・・・「何がだ?どうする?何をだ?血?それはアレだろ?だが何だ?アレはアレだ。 アレだからアレなんだ、悟空も女だってことだ・・・だが、何をどうするんだ?」 ・・・・・・・・・・・・かなり混乱気味なご様子だった。 何ぶんにもここは寺院。 隅から隅まで男所帯である。 そんな珍事が持ち上がったことなど1度としてなかった。(当たり前だ) 「さんぞ・・・・やっぱオレ・・・死んじゃうの・・・・・?」 黙ったままの三蔵に(実は固まっていた)悟空は不安な眼差しで見上げてくる。 そっと悟空に気づかれないように、深呼吸を(まず己が落ち着かなければならない)し、 威勢良くはねている悟空の髪の毛をくしゃり、と掻き混ぜた。 「大丈夫だ」 「・・・・・・」 「これは”生理”という・・・・・・まぁ、健康だという証だ」 「・・・・健康・・・?・・・・証・・・・?・・・・・・・・・ホントっ!?ホントにっ!!!?」 悟空が信じられないっ!!と三蔵にしがみつく。 「俺がお前に嘘をついたことがあったか?」 「ううん、ない」 悟空の全幅の信頼の眼差しが三蔵を見つめる。 「じゃぁ・・・・・・三蔵とかもなるのか?」 「・・・・・・・・・・」 ・・・・・・・・んな馬鹿なことがあってたまるものか。 「なぁなぁ?」 「これは女だけの・・・・・・・・・・特権なんだよ」 「とっけん・・・?」 「そう、特別なんだ」 「特別!・・・・オレ、特別なのっ!?」 三蔵の言葉に悟空が目を輝かせた。 「・・・・・ああ」 嘘は言っていない・・・・・・・・全てが正しくはなくとも。 「そっかー、特別なのかぁ〜vv」 『特別』の二文字が余ほど気にいったのか悟空は嬉しそうに何度も繰り返す。 「とにかく・・・・それをどうにかしねーとな・・・・」 悟空の着ている服の裾は血のせいで赤く染まっていた。 「どうする、て?」 「”生理”てのは一日や二日で終るものじゃねーんだ。その間どうにかして服が汚れない ようにしおかなければいけないだろうか」 「・・・・・え!?すぐに終わんないのっ!?」 悟空の驚いた顔に三蔵は苦笑した。 「ああ、残念だがすぐには終らないんだ」 「う〜〜〜〜・・・・やっぱ特別いらないっ!!」 そう答える悟空が愛しく・・・・・・・まだまだ幼いままだと三蔵は思った。 たとえ体は大人への成長を向かえたとしても精神はまだまだ子供―――――― 「さーんぞっ♪」 ちゅっv 「・・・・・・っ!?」 「これすると三蔵が喜ぶ・・て言ってたけど・・・・・・嬉しかった?」 「・・・・・・・・」 下から覗き込む悟空の表情がまるで子悪魔のように見えた。 まだまだ子供だと思っていたがそろそろ訂正しなくてはならないらしい。 だが、その前に。 「いいか、悟空。これは俺としかするな、わかったか」 「三蔵とだけ・・・?うんっ!」 こうして悟空の洗脳は完了である。 今日のところは許してやるが・・・・・・・・・・・・・・悟空が成長するまで我慢できるか どうか・・・・・・・・・・・・。 目の前ではしゃぐ子羊を眺めながら狼は舌なめずりをしたのだった。 |