頬を濡らすのは・・・・・・・・雨?








 静かに、静かに
 天から雨が降り注ぐ。
 
 空は灰色。
 地は漆黒。
 透明な滴は吸い込まれて同化する。



「ふぅ・・・・」
 吐き出した息は白く大気に溶けていく。
 


 その静けさで古い傷をうずかせる。
 

 静かな
 静かな
 雨の・・・・・・・・・・ある日・・・・・・・・・・・














「さーんぞぅっっ!!!!!」
 窓からひょっこりと顔を出したのは、先日拾った小猿。
「さんぞうっ、さんぞうっ!!」
「あーうるせぇ、この馬鹿」
「ばかって言うなっ!!」
 小猿はぽかぽかと必死で抗議している。
 その様子をじっと見つめながら考えた。
 この子供を拾ってからというもの自分には過去を思う時間さえない。
 日々、追いまわされ怒鳴りつける。
 騒々しくて、煩い。
 泥のついた格好で平気で部屋へと上がりこむ。
 汚い。
 その度ごとに僧たちから自分に苦情が押し寄せる。
 面倒ばかりが増えている。

 それなのに自分はどうしてこの子供を放り出さないのか。

「さんぞう?」
 いっこうに返事を返さない自分に子供が首をかしげて顔をのぞきこむ。
 金色の眼差しは、一切の迷いを含まず自分への信頼を浮かべる。


 今、ここで。
 

 この子供の首に手をかけたとしても、こいつは何とも思わず自分を見つめ続ける
 のだろう。
 殺されるなんて思わない・・・・いや、それさえも受け入れるのだろうか。
 
「・・・・・・・・・」
 何故、それほどまでに自分を信頼できる?
 ただ、岩牢から連れ出しただけの自分を。

「さんぞう・・・」
 金色の瞳が、心配そうに揺れた。
 いつまでも答えない自分に子供は、しゅんとうな垂れる。





「・・・悟空」
 途端にぱぁぁと輝きだす顔。

「・・・・・単細胞め」
「・・・?何それ?うまいっ?!」
「・・・・・・・・食いもんじゃねぇ、お前みたいなのを『単細胞』というんだよ」
「俺?・・・・じゃあ、さんぞうは?」
「俺はお前とは違う」
「じゃあ、何?」
「・・・・・・・・」
 無知ゆえの、真っ直ぐで純粋な疑問。


「・・・・・・・・そうだな、俺も・・・・・・単細胞なのかもしれないな」
「じゃあ、さんぞうと一緒だっ!!」
 この子供と一緒だと言われると、それはいささか抵抗があるにはあるが。
 

「ほら、登ってこい。もうすぐ昼飯だぞ」
「うんっ!!」
 子供はばんざいをするように自分に手を差し出した。
 普段なら容赦なくハリセンでぶっ叩くところだが・・・・
「ったく・・・・」
 自分も甘くなったものだ。
 華奢な子供の体を抱き上げる。

 体にかかる重みが、首にまわされた腕が・・・・・・心地いい。
 





 そして二人は部屋を後にした。
 パタン・・・と閉じた扉は、
 静かに
 静かに
 



 
 雨は止んでいた。




 戻る