失って初めて・・・思いしるもの。

































 なるほど。
 
 三蔵は薄黄がかった空を腕を組んで漂いながら、深く納得していた。
 
「・・・大概、自分が行くのは地獄だろうと思っていたが・・・・」
 目の前にあるのはお花畑で、空(?)には瑞雲がたなびき、妙な音楽も聞こえてくる。
 こんな世界で暮らしていくのは、普通の人間にとっては天国だろうが、三蔵にとっては
 地獄も同じだ。

 1時間もすれば暴れだしたくなるに違いない。

 だからといって、他に行く場所があるわけでもない。
「・・・ちっ」
 舌打ちした三蔵は、後悔していた。
 こんなことなら。




 死ぬんじゃ無かった、と。



















 そう、冗談でも何でもなく三蔵は死んだ。
 間違いない。
 三蔵は自分自身で、自分の葬儀が行われているのも見たし(他の奴らに自分の姿は
 見えていなかったようだが)、悟空がこっそりと自分の遺体を持ち出して、寺院の裏庭に
 こっそり埋めているのも見た。
 それから、どこでどうなったかはおぼろげな記憶しかないが、気づけばここに居た。
 まさに天国というにふさわしい地獄に。

 とりあえず、近くの花に手を伸ばしてみた。

 ・・・・・感触がある。
 ということは、やはり死人でも触れるように作られているのだろう。

「・・・便利に出来ている」
 が、だからどうした?
 
 どうやら三蔵は1時間を待たずにキレてしまいそうだった。
 懐に手を伸ばしてみるが、愛用の銃の感触はない。
 袂も探ってみるが、煙草もない。

「・・・くそ」
 銃はともかく煙草は燃えるのだから自分と一緒に燃やして・・・・
 と考えたところで自分の体は燃やされることなく悟空に埋められたことを思い出した。
「あの馬鹿サルが・・・・生前に愛用してたものぐらい一緒に埋めとけ」
 まぁ、悟空にそんな知恵を期待するだけ無駄だということはよくわかっているのだが
 誰かに八つ当たりせずにはやっていられない。



「おっ、いたな」
 ふと、上空から聞きなれた、聞きたくない声が降ってきた。
「・・・・・・」
「ようやく年貢をおさめたって奴だな、金蝉」
 いつもの露出狂もかくやという薄着の観世音菩薩、だった。

「俺は三蔵、だ。年寄りは忘れやすくて困る」
「ほぅ、俺様にそんな口を聞きやがるとは、自分が死んだ自覚が無いのか?」
「俺が死のうが生きようがてめぇには関係ない」
「死んでも可愛くないな、お前は。どうせならあいつも連れてくれば良かったのによ」
「・・・・あ?」
 すとん、と三蔵の目の前に足を着けた観世音はいぶかしげな視線ににやりと笑った。
「悟空さ」
「・・・・・・誰が連れてくるか」
「連れてくると思っていたがな、お前なら」
「あんな煩せぇ奴を誰が道連れにするか」
「そんなこと言っていいのか?あいつを狙ってる奴はたくさん居るんだぜ」
「・・・・・」
「お前が居なくなったのをこれ幸いと、手出すかもな・・・」
「・・・・・」
「やんちゃな小猿がよくぞあそこまで美人になったよな〜」
「・・・・・」
「ちょっと様子を見てみるか?」
 観世音の言葉を無視し続ける三蔵の目の前の空間が水面のようにゆらいだ。










     『お前は生きろ』









 そう悟空に言ったのは三蔵だった。
 死ぬ間際だったのでおぼろげにしか覚えていないが、悟空が泣きわめいていたこと
 だけは確かだ。


「おっ、あいつだ。ふ〜ん・・・結構元気にしてるじゃねぇか」
「・・・・・・」
「さすがにあいつらは妖怪だけあってお前より寿命が長いみたいだな。・・・ふ、いいねぇ
 一番の目の上のたんこぶが無くなってやりたい放題か。くくくく・・・」

 こいつは本当に神か?
 しかも司るのが『慈悲』と『慈愛』?
 ・・・・何かが間違っているとしか思えない。



  『なぁ、悟浄』


「・・・・なに」
 いきなり耳に入ってきた悟空の声に、顔をそむけていた三蔵が空間に目をやった。
「映像だけじゃつまんねぇだろ?出血大サービスで音もつけてやるよ」



 『オレにもちょうだい、それ』



「おっ、大人だね〜」
 悟空は煙草を吸おうと、悟浄が取り出したパッケージを見つめながら、自分にもと
 ねだっていた。
「・・・・あいつ・・・・っ」

 その光景に三蔵はキレた。


「おい、クソばばぁ」
「何だ、”三蔵”?」
「俺を生き返らせろ」
「・・・・それが、ひとに頼むときの口調か?」
「さっさとしろ」
 どこまでも横暴。横柄。唯我独尊。
 たくましく成長した甥に観世音は笑みを隠しきれない。
「仕方ねぇな。ま・・今度来るときはあいつも連れて来いよ」
 観世音は軽く、手をひるがえした。
「二度と来るか・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・感謝する」
 最後の最後の、三蔵の言葉。
 それに観世音は真なる『慈愛』の微笑みを浮かべた。



















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何なんだ、これは
・・・と思われた方も多いでしょう。
同人誌で出した本編の番外編です。
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