「よしっ、これで完璧だぞ、悟空!」
 観世音菩薩は自分の前に立つ悟空に向かって満足げに大きく肯いた。
「お前もそう思うだろうが、二郎神」
 上司に同意を求められた二郎神は返答に困って顔をひきつらせる。
「いや、素直に似合うと言っていいのやら悪いのやら・・・・」
「何を悩む?素直に似合っていると言えばいいんだ、なぁ悟空」
「うーん、これ・・・動きにくい・・・」
 袖は悟空の手を覆い隠してしまうほど長いし、裾は危うく踏みつけてこけそうに
なる始末。
 元気いっぱいに駆け回る悟空としては文句の一つも言いたくなるところだった。
「そう言うな。せっかく玄女に借りてきたんだからな。やはりあそこの女官の服が
 天界で一番凝っているからな」
 観世音菩薩は自分の手柄でもないのに至極えらそうだ。
 確かに極上の絹は薄紅色に染められており、袖や裾には控えめでいて精緻で
美しい刺繍が施されている。
 腰にまかれた帯はふわふわと軽く、朱色に金糸が映えている。
「うん、これほど似合うとは思わなかったな俺も。よしっ、金蝉に見せて来い、悟空」
 心中”面白い見ものになるぞ”との思いは表情には出さず慈愛の微笑を浮かべて
観世音菩薩は悟空を送り出す。
「うん、わかったー♪」
 それにころっと騙された悟空は裾を踏んで転びそうになりながらも駆け出して行った。









「こんぜーんっ!!」
 バァァァンッッと悟空は勢いよく金蝉の執務室の扉を開け放った。
「悟空・・・あれほど扉を開けるときは・・・・・・・っ!?」
 ノックしろと注意しただろう・・・と続けようとした金蝉は目に入った悟空の出で立ちに
絶句した。
 あの仏頂面で有名な金蝉がまさに鳩が豆鉄砲をくらったような表情になっている。
「・・・・・・・」
「こんぜんー、どうっ??」
 裾をひきつつ金蝉の目の前に立った悟空はその場でくるっとまわる。
 そしてにっこり☆

「どう・・・・て・・・・・・・」
 そりゃあもう文句なしに可愛い。
 本当に可愛い。
 このまま閉じ込めて誰にも見せてやりたくないほど可愛い。
 だが、次の悟空の言葉に金蝉は机から肘を落しそうになる。
「ね、かっこいい??」
 がくぅっ。
 違うだろう、それは。
「・・・・かっこよくない・・・・?」
 何も言わない金蝉に悟空の顔が曇ってくる。
「悟空・・・あのな、そういうのは普通『かっこいい』とは言わないんだぞ」
「え・・・・そうなの?でもおねえちゃんがそういってたんだもん・・・・」
 悟空語録によるとおねえちゃん=観世音菩薩、である。
 
 ちっ、やはりあのババァの差し金か。

「悟空、こっちに来い」
 金蝉の言葉にわーい♪と喜ぶと、駆け寄る・・・・・・・・・寄ろうとして・・・・・・


 どべしゃっ。


 ついにコケタ。
 しかも床に顔面直撃。

「・・・・っひ・・・ひ〜んっっ、いたいぃぃっ〜〜」
 悟空は床から起き上がると打って真っ赤になった額へ手をあてて泣き出した。
「・・・・・・・・ばか猿」
 呆れた金蝉はそんな風に言い放ったが、椅子から立ち上がると悟空に近寄り、うずく
まっている幼子を抱き上げた。
「そんな服を着ているからこけたんだぞ」
「う・・・だってぇ〜、おねちゃんが〜」
 金蝉にだっこしてもらって高速で機嫌を回復した悟空は必死に言い訳をはじめる。
「ババァがどうした?」
「”こういうふくをぬがせるのがオトコのマロンだ”て言ってたんだもん〜」
「・・・・・・・・・・ロマンだ、馬鹿。ったく・・・くだらねーことばっかり教えやがる」
 一応、悟空の言葉を訂正し、金蝉は悟空の教育環境に頭を悩ませる。
「・・・・?マロン?」
「ロマン、だ」
 よくわからない、と言った表情で再び繰り返した悟空の言葉を金蝉も馬鹿丁寧に訂正
した。
「それ、おいしいの?」
「・・・・・・・食いもんじゃない」
「えーっ!!ちがうのぉっ!!?」
 大ショック★と悟空の顔に浮かぶ。
「知らない単語をすべて食い物にするんじゃない・・・・」
「だって”アンパン”はくいものだったもんっ!」
「たまたま食い物だっただけだっ!」
「う゛〜」
 不満そうに悟空がうなる。

 
 きゅるるるる〜〜〜〜

「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・こんぜん、腹へった」
「・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・はぁぁぁぁ」
 まったくこれのどこがロマンだというのか。
 そういうセリフはもう少し育ってから言ってもらいたいものだ。
 金蝉は大きく溜息をつきながらそう思うのだった。

「・・・・もうすぐ天蓬の奴が菓子を持ってくるそうだ。それまで我慢しろ」
「え、天ちゃん来るの〜♪」
 天蓬&菓子は悟空の頭の中ではワンセットと化しつつある。
 餌付けは順調だ。
「ただし、元の格好に戻るまでお預けだ」
「えぇ〜っ!!!」
 めんどくさい〜と悟空。
「また、こけるほうが面倒だろうが。つべこべ言わずに着替えて来い」
「・・・は〜い」
 しぶしぶ、と床におろされた悟空は自分の部屋へと戻って行った。



「誰が見せてやるか、他の奴に」
 そんな格好を、な。
 見送る金蝉のそんな呟きは空気に消えた。







「くっくっくっ・・・・」
 そして、甥のそんな様子を面白おかしく見つめる観世音菩薩がいたのだった。










●あとがき●

悟空の女装が書きたかったんです(笑)
いや、髪の長い悟空、てそのまんまでも女の子でいけそうな
くらい可愛いですよね〜〜〜vvv(←末期・笑)
それが、まんま女の子の格好をしたら・・・と思いまして(^^)
御華門なら攫うな・・・・・・フッ★



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