天には”天(そら)”はない


気だるい空気が漂い、桃色のもやが広がる。
澱んだ空気。


己が狂わずに居られることが不思議だった。

いや。

もしかするとすでに狂っていたのかもしれない。















 神と人の間に生まれた禁忌の存在。
 甘い言葉で天界に誘い、館を与え・・・・・ただ無為に時を過ごさせる。
 気が遠くなるほどの時間。
 何をするのも自由であると言いながら、何もすることは出来ない。


 それは『軟禁』も同じ。






 焔はゆっくりと玉座から立ち上がり、変わり映えのしない庭を歩く。
 季節の移り変わりも存在しない天界では景色どころか花の一輪さえ
 年中同じ風に咲いている。


「まったく・・・つまらな・・・・・っ!」

 どすっ。

 つまらないと続けようとした言葉は突然にぶつかってきた物体によって
 遮られた。

「い・・・・いた〜〜いっっ!!」
 ぶつかった焔に跳ね返され、尻餅をついた”それ”は頭を抱えて叫んだ。
「・・・・・・」
 予想外の出来事に焔は言葉が続かない。
 ただ驚きながらも焔は冷静にその物体を観察する。

 焔の半分の身長ほどの幼子。
 額には妖力制御装置である金環。

 それだけでそれが何者なのか察することができた。
 近頃、天界に連れて来られた大地より生まれし異端の子供。
 自分と同じ忌まわしき金リ眼を有する存在。
 確か、金蝉童子が引き取ったと聞いた。

 問題は。

 ”それ”が何故ここに居るのか・・・だ。


「なぁっ!」
 思考を巡らせていた焔は、くぃくぃと裾を引かれ視線を下げた。

 その瞬間。
 
 己を真っ直ぐに貫いた金色の双眸。
 己と同じであるはずのそれは、一点の濁りも存在していなかった。

「なぁってば!!・・・ここどこっ?」
「・・・・・・・・迷子か」
「ち、ちがうもんっ!!」
 必死で否定しているがどう見ても迷子としか思えない。
「ちがうのっ!!まいごなのは天ちゃんだもんっ!!」

・・・・・・・・・天ちゃん?

 聞きなれぬ単語に焔は、おそらくこの子供の遊び相手だろうと見当を
 つけた。
「どこではぐれた?」
 ここまでやって来るとは余程のことだ。
 誰かが近づくなと注意はしなかったのか?

「え・・・と・・・天ちゃんに本をよんでもらって・・・・それからえっと・・・・・」
 子供は一生懸命に言葉を綴る。
「それから・・・・・・走ってたら天ちゃんが居なくなった!!」

 ・・・・・・・・・・全くわからない。
 焔はそっと溜息をつくと、何故自分がこんなことをしているのかと理不尽な
 思いにかられながらその子供を抱き上げた。

「一緒に探してやろう」
「ほんとっ?!ありがと!!え・・・・とえ・・・と」
「俺は焔だ」
「ほむらっ!!オレ、悟空!!金蝉がつけてくれたんだ!!」
 子供はとびきりの笑顔で答えた。
 それは、大層嬉しげに。
「そうか・・・・」
 そんな純粋な子供の様子に知らず焔の口元に笑みが浮かぶ。

「あっ!ほむらのこっちの目、オレと同じ色だ!!」
 抱き上げられたことで至近距離になった焔の顔をのぞきこむ。


 ああ・・・自分の瞳をこれほどに真っ直ぐに見られたのは初めてだな・・・・

「そう、コレは吉凶を表す不吉な色だ」
「きっきょう?」
「皆に疎まれ、嫌われる・・・という意味だ」
「うそっ!!」
「嘘ではない」
「だって・・・っ・・・金蝉も天ちゃんも・・・捲兄ちゃんも・・・綺麗な色だって
 いってたもんっ!!」

 子供は必死に言い募る。
 その目にはうっすらと涙が溜まっていた。

 焔の胸を襲う罪悪感。

 今まで何に対してさえ・・・・・さしたる感情を持たなかった自分が・・・・。



「・・・・・悪かった。確かにお前の瞳は綺麗だ」
 そう、子供の瞳は焔と同じ”金”色とは思えぬほどに。

「ほむらの目もとっても綺麗だよ?だってこっちはお空の色で、こっちは金色。
 どっちもとっても綺麗だ!!」
「・・・・空の色・・・・か」
 ああ、そう言えばこの子供は地上で生まれたのだったな。

「空の色・・・オレが生まれてはじめて見た色。すっごく綺麗だった・・・・目の
 中にいっぱいひろがって・・・どこまでもつづいてて・・・・それに・・・・・・・・・
 時々ふよふよしてる白いのがすっごいおいしそうだった!!」

 今、天界の濁った空を見上げながらこの子供の目には、青天がひろがっている
 のだろう。
 美しく・・・青い空が。

「青は綺麗か?」
「うん、すっごく綺麗!!」
 全開の子供の笑顔に焔の心に住み着いた曇りが晴れていくような気がした。
 久しくなかった・・・・・”楽”という感情。
「だが、地上にはそれ以外にも青いものがあるだろう?」
「え?ほんとう?」
「ああ、空とは逆の地に存在するもの・・・・『海』という」
「うみ・・・かぁ〜、ほむらは見たことあるの?」
「ああ、遠い昔・・・・な」
「・・・今は、今は見ないの?」
「・・・・ああ、俺はここを離れられないからな」
「どうして?」
 何故ならば自分は存在してはならない『存在』だから。
「・・・・さぁな」
 だが、口を出たのはそんな言葉。





「だったら・・・いっしょに見に行こう!!」




「・・・・・・・・・・」
 それは、ほんの子供の思いつきで出た言葉だったのだろう。
 だが、焔の動きを止めるに十分な力を持っていた。
「ね、いっしょに見に行こう♪ほむらはその”うみ”がどこにあるか知ってるんだ
 ろう?だから連れてってオレを」
「・・・・・・・・」
「・・・やっぱり・・・ダメ?」
 焔の沈黙を勘違いした子供がしゅんとうな垂れる。
「・・・・・・いや」



「悟空ーっ!!」



 その時、子供の名前を呼ぶ声がした。
「あっ!天ちゃんだ!!おーいっ!こっちっ!!こっちだよーっ!!」
 子供は焔の肩に足をかけるとその声に向かってぶんぶんと手を振った。
「悟空っ!!」
 振り返った焔の目に映ったのは・・・・・天蓬元帥。

 ・・・・・・・・・・・なるほど『天ちゃん』なわけか。

「悟空、探しましたよ」
「オレも天ちゃん探したー!」
「すみません、焔太子。悟空がご迷惑をおかけしました」
 にこにこ。
 全く害は無いという顔でいながら、発してくる威圧感は何だ?
「悟空を渡して下さいませんか?」


 ああ・・・・そうか。
 幼子よ・・・・・お前は大切にされているな。


 焔は未だ自分の肩に乗っかっている悟空を下ろすと天蓬の腕へと
 移動させた。
「では、失礼しました。ほら、悟空も」
 天蓬に促されて、悟空が手を振る。
「バイバイ、ほむら!!またね!!」
「・・・・・・・・・」
 また、か。
 俺にその言葉を使ったのはお前がはじめてだ。
 皆が俺とは二度と会わないことを祈るというのに。



「・・・・・・約束だ」
 去り行く悟空に焔が言った。

「いつか見に行こう・・・お前と・・・悟空」
「うんっ!!約束ね!!」






 約束しよう。

 いつかお前と見に来ることを・・・あの美しい海と空を見に。

 そうすれば俺もお前のように心から笑えるかもしれない。



 
「なぁ、孫・・・・悟空」
 















「悟空、約束を果たしに来たぞ」

お前と二人でこの空と海を見るために。

そして




お前を俺のものにするために









Fin・・・



† あとがき †

やっと書きあがりましたー!!
予想外に悟空の口調が難しくて・・・(汗)
何だか自分でも変なところがあると思うんですがどうぞご容赦
下さいませ!!外伝あまり読んだことがないもので・・・(^^ゞ
とにかく焔様が出せて御華門は満足です♪
皆様、ご拝読ありがとうございました!!





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