「さ〜んぞっvv」
 ふよふよふよ〜んと髪を揺らしながら悟空がひょっこりと扉から顔を出した。
 その顔にはいつにもまして笑顔が輝いている。
「・・・・・・・・・」
 その笑顔にのまれてしばし見惚れてしまった三蔵は誤魔化すように咳払いをして、ことさらに
不機嫌な顔を装った。
「・・・・・何だ?」
 だが、そんな三蔵の不機嫌な顔をものともせず悟空はたたたっと駆け寄るとにへらっと顔を
崩した。
「あのねっ!!お花見に行こうっvv」
「・・・・・・・花見?」
 まるで理解不能の言語を耳にしたかのような三蔵の反応に悟空が「花見」の意味を説明しようと
したところへ久方ぶりの闖入者が笑顔を浮かべて登場した。
「外は桜が綺麗に咲いてますよ」
「あぁ?」
 それがどうした?と言わんばかりの三蔵に八戒は変わらぬ笑顔を浮かべて答えた。
「桜の下でご飯を食べると美味しいですよ」
「わーっ食べる〜〜っっvvvv」
 きっと今、悟空の頭の中には桜のことなど一欠けらもないだろうことは間違いない。
「・・・・俺は仕事中だ」
「ろくに文面を見ないでも判を押せるお仕事ですか」
「・・・・・・・」
「せっかく悟空のためにお弁当作ってきたんですけどねぇ・・・・」
「お弁当っ!?食うぅぅぅぅっっっ!!!!!」
 八戒の言葉に狂喜乱舞した悟空は八戒のまわりをちょろちょろ”弁当♪弁当♪”といいながら
はねまわりはじめた。
「・・・・あれ?でも八戒持ってないよね??」
「ああ・・・それは・・・・」
 不思議がる悟空に説明しようとした八戒が口を開いたところでもう一人の闖入者がやって来た。
「ったく・・・ふざけんなよっ!!俺を殺す気かっ!?」
 息遣いも荒く現れたのは真っ赤な髪と目が印象的な人物、悟浄であった。
 その背中には下手をすれば執務室の扉をくぐれないのでは?と思えるほどの巨大な荷物が
背負われていた。
「あ、ご苦労様です。悟浄。でもちょっと遅かったですよ♪」
「・・・鬼か、お前は・・・」
 ともに暮らしはじめてからというもの容赦なくこき使われている悟浄の抗議の一言はしかし、
聞こえるか聞こえないかとうほどの覇気しかない。
 ・・・・・・・・・・逆らえばそれこそ馬車馬のごとく、いやそれどころか死ぬまで・・・・いや、やめよう。
 はぁぁぁぁ、何で俺ばっか・・・・。
 悟浄は心の中でふか〜いため息をついたのだった。
「あっこれからすっげーいい匂いがするっ!!!」
「ええ、それがお弁当ですよ」
「うわ〜っvvv」
「・・・おい、俺には挨拶なしで弁当だけ出迎えかよ・・・・」
「だって弁当は食えるけど悟浄は・・・・・・・・食えないよな?」
 ・・・・・俺を食うつもりか!?このバカ猿はっ!!
 さすがの悟浄も返す言葉がない。
「おやおや、駄目ですよ、悟空。こういう18禁指定動物を食べると体に悪いですからね♪」
「うん、わかった!!」
 悟空専属保父と化している八戒の言葉に悟空は素直に頷いたのだった。
「・・・・・・勝手に言ってくれ・・・・」
 悟浄はがっくりと肩を落とした。
「おい・・・」
 そこへすっかり存在を無視されていた三蔵の不機嫌な声がかかる。
「てめぇらそれ以上騒ぐつもりなら・・・・・・・・コロスぞ」
 眼光鋭くにらみつけるが生憎、ここにはそれにひるむ人間(?)はいない。
「どうやら三蔵はお忙しいようですねぇ・・・・残念ですが3人だけで行きましょうか?」
「えぇっ!!三蔵は行かないのか!?」
 八戒の言葉に悟空は目を見開いて叫んだ。
 てっきり三蔵も一緒に行くものと思っていたのだ。
「・・・・三蔵!」
 とててっ!と駆け寄った悟空は上目遣いに潤んだ目で三蔵を見上げた。
「・・・・何だ?」
 聞かずとも用件はわかっているだろうに三蔵はしかめっつらで尋ねた。
「三蔵・・・・どうしても行かないの・・・・?」
「・・・・・・・・」
「・・・どうしても・・・?」
 ぎゅっと三蔵の法衣の端を掴んだ悟空は零れ落ちそうな涙を必死でこらえて重ねて尋ねた。

(・・・・・このバカ猿が・・・・・)

 自覚したくはないが三蔵は・・・・・・この悟空の視線に滅法弱かった。
 滅多に見せない悟空の涙だけに多少の無理でも聞いてやりたくなってくるのだ。


「・・・・ちっ、すぐに帰るからな」
「三蔵!!」
 たちまち喜色をとりもどした悟空はあまりに嬉しくて三蔵に抱きついた。
「・・・・っぐ」
 ・・・・が丁度いい具合に椅子に座っていた三蔵の腹部に悟空の頭がヒット・・・・・・・つまり
頭突きすることになった。
(「・・・ぶっ」)
 それを見ていた八戒と悟浄の二人がこっそり噴出した。
「・・・・・(怒)」
「あっ・・・・ごめんなさい・・・・・」
 しゅん・・・と元気をなくした悟空の頭を撫でると、かなりむかついたが今回に限り許してやること
にした三蔵は、しかし八戒と悟浄には視殺せんばかりの眼光を向けたことは言うまでも無かった。

「それじゃあ、出かけましょう♪」
「うんっ♪」
 そして漸く4人は寺院から出発したのだった。













「うわぁ・・・・・っ」
 八戒の案内で町を越えてたどり着いた場所。
 悟空はそこに咲く桜の光景に歓声をあげ、しばしその場所に足をとめた。
 他の三人も予想以上に見事な桜の咲きように言葉には出さなかったが感動していた。
「すっげぇ・・・・綺麗だなぁ〜〜っ!!!」
 満開の桜の下。
 ひらひらと花弁が舞い落ちる。

「それではシートひいてくださいね」
 悟浄の背から下ろされたお弁当の包みがそのままシートと化す。
「いっぱい作ってきましたから思う存分食べてくださいね、悟空」
「うんっ!!食うっ!!」
「おい、酒は?」
 どうやらこちらは食べ物より酒のほうに興味があるらしい。
「ちゃんと用意してありますよ」
 さすが八戒はぬかりがない。
「んじゃ、いただきま〜・・・」
「とその前に」
 不器用に右手に箸をつかんだ悟空を八戒の手がとめた。
「え〜〜〜っ」
 悟空はまるで『待て』を言いつけられた犬のように悲壮な顔になる。
「まぁまぁ、すぐに食べれますから・・・その前にこれを開けてみてくれませんか?」
「え・・・何?」
 八戒に差し出された一抱えもありそうな箱を悟空は不思議に思いながらそっと蓋を開いた。
 そこには・・・・・・・
「・・・ケーキ??」
 そう、超特大のクリームとイチゴをたっぷり使ったホールのケーキが一個鎮座ましましていた。
 そして中央に置かれたチョコレートには・・・・・・・・


『ハッピーバースデー 悟空』

 と書かれていた。

「あ・・・・これ、八戒・・・・・」
「今日は4月5日・・・悟空の誕生日ですよね。おめでとうございます、悟空」
「あ・・・・・・ありがとうっ!!八戒!!」
 思いがけない出来事にしばし言葉にとまどった悟空だったがすぐに満面に笑みを浮かべて
礼を言った。
「そっか・・・今日はオレの誕生日だったんだ・・・・」
「ぷっ、気づいてなかったのかよ〜」
「いいじゃんかっ!!思い出したんだから!!」
 悟浄のからかいに(その手にはすでにビールが握られている)ぷく〜っと頬をふくらませた悟空が
突っかかる・・・が頬が赤いのは照れているせいだろう。
「ま、・・・何歳になったんだ?」
「え・・・と・・・」
「16だ」
 考え込む悟空に間髪いれず三蔵が即答した。
「さすが飼い主、ペットの年まできちんと覚えていらっしゃる〜〜っって!おいっ!!危ねぇな!」
 答えと同じくすかさず飛んできた銃弾が悟浄の顔すれすれを通り過ぎていった。
「ふん、バカが」
「・・・・てなぁ・・・・もういーぜ・・・。とにかく悟空!16歳おめでとさん!」
「ありがとうっ!悟浄!!」
 つい先ほどからかわれたことも忘れて悟空は悟浄の祝いの言葉に笑顔でこたえた。
 そして悟空は三蔵をふりむく。
 そこには桜の大木を背にビールを傾ける三蔵がいる。
「・・・・何だ?」
「え・・・・ううんっ!!何でもないっ!!」
 本当は三蔵にも何か言って欲しかったけれど・・・こうして傍にいてくれるだけで満足できる。
 それ以上は贅沢だ。
 悟空はそう自分に言い聞かせて”待て”を命じられたお弁当に今度こそ手をつけようとしたところで
ぐいっと後ろに引っ張られた。
「ぅえっ!?」
 

 背中に温かい空気。
 悟空の目の端に金糸が踊った。


「・・・・・」
 そっと耳元で囁かれた言葉。
「っ!?ありがとう三蔵!!」
 悟空は輝く太陽のような笑みを浮かべた。


「ったく、やることがキザなんだよな〜生ぐさ坊主が」
「本当に・・・照れ屋さんなんですから」
「うるせぇっ!!」
 ガウンッガウンッガウンッ!!!
「っっ!!だ〜〜〜なんで俺ばっか・・・!?」
 怒りの銃弾はやつあたりのように悟浄に集中する。
「はははははは」
 

 いつもと同じ騒がしい風景。
 しかし大好きな人たちに囲まれて悟空はとても幸せだった。

 だから、もう一度。


『ありがとうっ!!』
 そう言って、皆に笑顔を振り撒くのだ。










 でも。

 きっと気づいていないだろうけれど。
 君のその笑顔が何より皆を幸せにしているんだよ。








† あとがき †

おっし!悟空誕生日小説は完成!!
・・・で急いで疾風怒濤の終幕を・・(これを書いてる時点でまだ出来てません/汗)

やはり御華門は最遊記の中で何より悟空が大好きで
いつも笑って幸せでいて欲しいんですvv
悟空の幸せは皆の幸せ・・・ということでvv
丁度、悟空の誕生日は桜の咲く時期と重なるんだな・・とこの時期になって
気づいた御華門は改めて4月ていいな〜と思ったのでした♪
・・・色々とあわただしい月ではありますが(笑)

では、ご拝読ありがとうございましたm(__)m






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