静寂と平穏。
 
 その言葉は何と遠くへ行ったことだろうか・・・・・・・・・・・・・


「さんぞーっ!!」
 この騒がしい猿を拾ってからというもの・・・・・・・・。

「うっせーっ!!静かにしろっ!!!」
 
 バシバシバシンッ!!!!

「いってーっ!!さんぞーの凶暴っ!!!」
「誰がだっ!!このバカ猿ッ!!」
 もう一発ハリセンをお見舞いしてやろうとすると悟空は自分の腕からするりと抜け出し、
あっかんべーっとおまけつきで逃げ出した。
「・・・・・・・・・ちっ」
 夕食抜きにしてやる!!!!!
 とりあえず、悟空専用のハリセンを横に置いた俺は腹立ちまぎれにそう決意しながら、
机に戻り、書類に目を通しはじめたのだった。















「なーなーっ!」
「・・・・・・・」
「なーってばっ!!」
「・・・・・・・・」
 しきりに話し掛けてくる悟空を無視して仕事を続ける。
 昨日、罰として夕食を抜いた悟空は朝、いつも以上に・・いや、この表現ではまだ甘い。
 想像を絶するほどの食欲で、寺院の台所の危機を感じさせるほどに食いまくりやがった。
 もちろん、俺が今度から罰で食事抜きを与えるのはやめようと決意したのは言うまでもない。
 そして本日、悟空は俺の執務室に居座り、しばらく静かにしていたと思えば突然机ににじり
寄り、話し掛けてきたのだった。
「もうっ三蔵ってば!!」
「・・・・・・・るせぇんだよ」
 やっと言葉を口にした俺に悟空はきらんっと目を輝かせた。
「なぁ!!三蔵てどうしていっつも怒ってるんだ?」
「・・・・あぁ?」
「だから・・・・」
 そんなことは聞くまでもないだろう。
 悟空がいつも俺を怒らせるようなことをしているせいだ。
「・・・てめぇのせいに決まってるだろうが」
「え?オレ???」
 俺のセリフに悟空は自分を指差し、きょとんとした。
 ・・・・・わかっていない。
 全く全然!!!わかっていない。

「いいか・・・お前が静かにしていれば俺は怒らずに済むし、この仕事も遅れずにすむ。
だが、お前が今しているように邪魔すれば俺は怒るし、仕事も遅れることになる。だから
とっととどこかに遊びに行くか、口を閉じていろ」
 短気な俺にしては、十分にわかりやくすく説明した。
 だが、悟空は・・・・・・・
「ん〜・・・・・無理♪」
「・・・・っ何が『無理♪』だっ!!!黙っていればいいと言ってるだけだろうがっ!!」
 どうやらこいつに言い聞かせようとした俺がバカだったらしい。
「だって〜〜〜っ!!!」
「だってもクソもあるかぁぁっ!!!」
「う〜〜っ!!だってっ!!だって・・・・・・オレ、三蔵の傍がいいんだもんっ!!」
「なら静かにしていろ!」
「できないもんっ!!」
「だからどうして出来ないのか聞いてるんだ、このバカ猿っ!!」
「だって静かにしてたらっ・・・・・・・・・不安なんだもん・・・・・・三蔵が居なくなったみたいで・・・・
オレ・・・寂しいんだもん・・・・」
 先ほどまでの元気な様子が嘘のように悟空は、しゅんと萎れたようにうつむいてしまう。

 ・・・・・・本当にこいつはバカだ。
 正真正銘のバカだ。
 俺は心底そう思った。
 だから、言ってやる。

「バカ猿」
「うん・・・」
 反論しない悟空の頭に手をおく。
「お前には目があり、耳があり・・・・こうして俺のことを見て、俺の言葉を聞いているだろうが。
それが信じられないのか?」
「・・・・・・・だって夢かもしれない」
「何で俺がお前の夢なんかに出てやらなくてはいけない。だからお前はバカだと言うんだ。
俺はここに”居る”んだ。勝手に夢にするな」
「うん・・・」
 それでも納得しかねている悟空の頬を両方から思いっきりつねりあげてやった。
「い・・・・痛ひぃぃいっっっ!!!はにするんだよっ!しゃんぞぅっ!!」
「夢じゃねーだろうが」
「・・・・・・うんっ!」
 どうやら難しい言葉を重ねるよりもこいつには単純なほうがいいらしい。
「三蔵!」
「何だ?」
「ありがとっ!!」
 へへっと笑った悟空に一瞥を向けると書類に視線を戻した。
「あ〜・・・なんか安心したら腹減ったぁぁ」
 サインしようとした手が止まる。
「なぁなぁ、三蔵なんか食いに行こうっ!」
「・・・・・・・・・・」
「なぁってばっ!!」
 ・・・・・・こいつは・・・・・・・・こいつは・・・・・・・・・・・・・
 自分の手が震えるのがわかる。


「この・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ猿がっっ!!!
 俺の話など少しも理解していなかったらしい。
「邪魔するなと言っただろうがっ!!」
「えぇっ!!??」
 いったい何のことだと言わんばかりの悟空に俺は堪忍袋の緒がきれた。


 バシンッ!!!

 渾身の力をこめたハリセンの一撃を悟空にくらわせた。

「いったぁぁ〜〜〜っっ!!!!」
 生理的に浮かんできた涙目で悟空は俺を見上げてくる。
「三蔵・・・・」
「何だ」
 一切の反論は許さんと睨みつけた俺の視線の先で悟空は・・・・・・・・・・・・・・・にこりと
笑いやがった。



「大好きっ!!」



「・・・・・・・・・・・」
「んじゃ、八戒のとこに遊びに行ってくる!!」
「・・・・・・・・・・・」
 悟空はそれだけ言うとぱたぱたと部屋から駆け出して行った。

「・・・・・・・・・・・ちっ」
 腹立たしい気持ちと・・・・・・・妙な・・・・・穏やかな気持ちが混じりあい、怒りのタイミングを
逃した俺は舌打ちして、今度こそ仕事を済ませるべく机に向かったのだった。




 
 



† あとがき †

さて、いったい誰が「傍若無人」だったのか?
やっぱり叱られても三蔵さまを振り回し続けた悟空でしょう!(笑)
悟空なら傍若無人に振舞っても許す!(←御華門は悟空ファン/笑)
しかし、三&空は久しぶり・・・今回は三蔵さまの鬼畜ぶりも
なりをひそめているようです(笑)

では、失礼いたしますm(__)m



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