挿話2 友人
そいつと会ったのは、桜が終わり新緑が山々を染めはじめたころだった。 |
「ここなら大丈夫だな」 俺はニヤリと笑うと最近できたでっかい家の草むらに身を隠した。 これで今日は・・・・・ 「何やってんだ?」 「・・・っ!?」 押さえきれない笑いを漏らしていた俺の背後からかかった声に飛び上がりそうなほど驚いた。 「なぁ?」 恐る恐る振りかえったそこには俺と同じくらいの年の子供が首をかしげて覗き込んでいた。 茶色い髪を後ろでくくり、チャイナ服を着たそいつは一瞬、女かと思ったが目が違った。 「なぁってば!」 「しっ!!」 「んぐっ!!」 返事をかえさない俺にしびれをきらしたそいつが再び問い掛けてきたのを慌てて手を口元に あて口を閉じさせると「ちょっと静かにしてろ」と注意した。 「・・?」 「「「ナタク様〜〜っ!!ナタク様っ!どこにお隠れになったんですかっ!!!」」」 自分を必死に探す連中の声。 それを息をひそめてやり過ごすと、もう一度確認して、そいつの口から手を離した。 「ったく、驚かせるなよな」 そう言って座りこんだ俺に、そいつは不思議そうに首を傾げた。 「何だよ?」 「何やってんだ?かくれんぼ?」 「違う!」 ・・・いや、違わないが。 「ちょっとな・・・だいたい、塾なんてかったりーもんに行ってられるかってんだ。お前もそう 思わないか?」 「塾・・・?」 「お前は行ってないのか?」 「遊ぶところ?」 「・・・・・違う、その反対だ」 俺の説明にそいつはふ〜んと声を漏らすと、にっこり笑った。 その笑顔が、嬉しそうで・・・・・柄にもなく俺は見惚れてしまった。 「んじゃ、オレと遊ぼうよ!」 「は?」 「引っ越してきたばかりでこのへんに友達居ないんだ。だからオレと友達になってよ」 「・・・・・・・」 父親の威光のせいか、大人たちばかりでなく同級生までも自分にはよそよそしかった。 これまで生きてきてこれほどまっすぐに何かを求められたことは無かった。 はじめてだった。 ・・・・・・・はじめての”友達”だった。 「だめ?」 言葉をかえさない自分にそいつは大きな瞳を潤ませる。 「・・・名前は?」 「え?」 「俺はナタク。お前は何て言うんだ?」 「!!・・・・悟空!悟空って言うんだっ♪」 聞き返した俺に悟空は満面の笑みで答えた。 聞くところによると悟空は両親を亡くしたばかりだったらしい。 全くそんな風には見えなかったので驚いたが。 「だってオレには焔も金蝉も・・・天ちゃんも、ケン兄ちゃんも居るから!」 みんな、大好きなんだ・・・と屈託なく言う悟空が羨ましかった。 自分はとても父親を・・・家族を好きだなんて言うことは出来なかったから。 「もちろん、ナタクも大好きだよっ♪」 「・・・・ばーか」 「ぬぅっ!ばかじゃないもんっ!!」 怒ってじゃれてくる悟空の拳を受けながら、俺は心で思う。 俺もお前が・・・悟空が好きだよ。 そして、7年の月日が経ち。 俺たちは高校3年になっていた。 「悟空、お前はどうするんだ、大学?」 「う〜ん・・・たぶん天竺大学の教育学部に行く・・・と思う」 スポーツ万能な悟空は各大学どころか社会人団体からも引く手あまたなはずなのに、それらを 一切断り、悟空は教育学部に行くという。 何でも教師になりたいとか。 「・・・勉強大丈夫なのかよ・・・・」 悟空の成績はお世辞にもいいとは言いがたいものであることはこの7年の付き合いでわかり すぎるほど自分にはわかっている。 「・・・・毎晩、皆にしごかれてる」 皆で一緒に過ごすのが好きだとう悟空だか、いくら一緒でもテーマが大学受験では素直に 喜べないらしい。 「ナタクはどうするんだよ?」 自分のことより、と悟空はナタクの顔をのぞきこむ。 その悟空の表情に昔とちっとも変わっていないな、と思いつつ自分も成長していない、と 自嘲ぎみに思う。 「俺は・・・・たぶん、防衛大学だ」 「へぇ〜、んじゃ自衛隊に入るの?」 「ああ、たぶんな」 悟空のように自分で望んで入るわけじゃない。 どこまでも、親の意向。 ”由緒正しき軍人の家系”というしがらみ。 それを拒絶できない自分。 いっそ家を出て気ままに生きてやろうかとさえ思う。 けれど。 思うだけで出来るわけじゃない。 ・・・・・・・全く全然成長していないじゃないか。 「そっか〜、んじゃナタクとは大学分かれちゃうんだな」 小、中、高と悟空とはずっと同じ学校だった。 「そうだな」 「寂しいけど・・・家も近いしいつでも会えるか♪」 「そうだな」 違う。 防衛大学に行き、自衛隊に入れば家に帰ってくることもほとんど無くなるだろう。 悟空とも会えなくなる。 「でも、ナタクなら皆も安心できるよな♪」 「は?」 「だってナタクって優しいからさ、自衛隊に入ってもきっと頼りにされると思う!」 「・・・・・・・」 優しい?俺が? 「・・・・ぷっ!悟空、お前って奴は相変わらず変な奴だなぁ!」 俺が優しいだって? そんなわけあるはずが無いだろう。 自分に必要の無い奴なんて簡単に切り捨てることのできるこの俺が! 「何が変なんだよ!」 悟空がダンッと机を叩いて身を乗り出してくる。 「だってさ、俺のこと優しいなんて言うのお前くらいだぜ?」 「だって、優しいもんは優しいんだから!!オレ、ナタクが友達になってくれた日のことずっと 覚えてる・・・・周りに知ってる人誰もいなくて寂しかったオレの一番最初に友達になってくれた 日のこと!すっげー嬉しかったんだから!」 「・・・・・・・・」 俺だって忘れるわけがない。 昔も今も俺の本当の”友達”はお前一人だけなんだからな。 たとえ、お前にとっての友達が俺一人で無いとしても・・・。 「だから、ナタクは優しいんだよ!」 ・・・悟空、お前にだけな。 「ま、そういうことにしといてやってもいいぜ」 素直になりきれない俺に悟空はすねた顔を見せる。 くるくると素直に感情を表現する悟空。 俺はそんなお前に何度も助けられてきた。 生きてるのが嫌で嫌でしょうがなかったときもお前が居てくれたからこれまでやってこれた。 「大好きだぜ、悟空」 だから、たまには素直に言ってやってもいい。 ほら、驚いて大きく見開かれた目が・・・・・満面の笑みに崩れ落ちる。 そんな様子を見るのは本当に楽しいからな。 「俺も!!ナタク、大好き!」 俺がこの世で最も愛している悟空の笑顔。 感謝する。 俺に友達を・・・・・・・・・ 『悟空』と出会わせてくれた運命に。 その数年後。 悟空は無事、教師になり、俺は陸軍士官となった。 |
† あとがき † ナタク編です♪ 何故か、とても楽しみにして下さってる方が多くて・・・ ご期待に答えられたか不安な御華門です(^^ゞ やっぱりナタクと悟空は「親友」ですよねvv こういう関係好きですね〜。羨ましいっ(>_<) きっと二人はこれからも仲良しさんなんでしょう♪ さて、次回は金蝉編。 時間軸でいくとこれが焔編とナタク編の間に入ってきます。 つまり悟空の両親が亡くなるところあたり。 皆が一緒に暮らしている理由なんかが判明する予定・・・(は未定/爆) あまり遠くないうちにUPしたいと思うんですが 絢華跳乱もありますし、比翼もあるし・・・ やはり予定は未定にして決定に非ず・・・といったところでしょう(おいっ) では、ご拝読ありがとうございましたっ(>_<)b |