アゲハ蝶


作: キアラ様




ヒラリヒラリと舞い遊ぶように
姿見せたアゲハ蝶
夏の夜の真ん中 月の下
喜びとしてのイエロー 憂いを帯びたブルーに
世の果てに似ている漆黒の羽
















愛する人を取り戻す為、一人で挑んだ敵地で無残にも愛する人を目の前で失った『猪悟能』
取り戻したい一心で殺した妖怪の数・・・・・・・千人。
愛する者を失った上妖怪の血を浴び人間から妖怪になった『猪悟能』
愛する人を映す為に存在した目をいとも簡単に敵に捧げ片目となった『猪悟能』
俺の知っている『猪悟能』はそれだけ。
その後どうなったかは知らないが、次に会った時は『猪悟能』から『猪八戒』になった八戒だった。
『猪八戒』になった八戒はよく知っている。


ずっとずっと見ていたから。


ずっとずっと考えていたから。


岩牢から助け出してくれた三蔵には悪いけど、俺の中の一番が三蔵から八戒に変わったから。


ずっとずっと想っていた


ずっとずっと一緒に居たいと思った。


遠い昔に会った様な気がして、その時から愛していた様な気がして。
そう愛している。俺は八戒、貴方を愛しているんです。
でも、俺は男で八戒も男だから、伝えなきゃ良いと、ひっそり想っていれば良いと、そう思った。
ひっそりと貴方を想う哀れな俺を許して下さい。
気付いてほしいけど、気付かないで下さい。












あなたに逢えた それだけでよかった
世界に光が満ちた
夢で逢えるだけでよかったのに
愛されたいと願ってしまった
世界が表情を変えた
世の果てでは空と海が交じる















それから暫くして、西行きの旅が始まった。
嬉しかった。毎日一緒にいられるから。
でも、それは思った程安易で、簡単なものではなかった。
一緒に居れば居るほど、想いが募って、一緒に居れば居るほど苦しくなった。
そう、愛し愛されたいと、我侭な心が叫んでしまった。
それから、俺の中の世界が表情を変えてしまった。
想いを伝えたいけれど伝えられない相手が目の前に居る。
俺だけにそっと向けられる笑顔が痛い。
貴方の作る料理が俺の体を蝕むように、俺の心も闇に蝕まれた。
一緒に居たいのに居たくなかった。
一緒に笑いあいたいのに笑いあえなくなった。
一緒に時を過ごしているのに、それが嫌になった。
貴方が憎くなった。殺したいほど憎くなった。
だからさ、俺の為に死んで?八戒・・・・











久しぶりの一人部屋。俺にとっては好都合。オマケに三蔵と悟浄は酒を飲みに外に出て行ってしまった。
俺にとっては最高だった。荷物を置いて俺は八戒の部屋へと向かった。
トントン・・・
「八戒、いる?」
いるのは解ってる。八戒の気配がビンビン伝わってくるから。
ガチャ・・・
「どうしました悟空?」
「ん・・・ちょっと・・」
「まぁ、ここでは何ですので、中、どうぞ?」
「ありがとう・・・」
三蔵や悟浄にはそんな簡単には入れないのに、何で俺なら簡単に入れるの?子供だから?
それとも・・・?
「お腹でも空きましたか?」
「いや、違う。」
「おや・・じゃあ、どうしました?」
死んで?なんてすぐには言わない。だって最後だからゆっくり話したいでしょ?
この際、この歪みきった貴方への想いを打ち明けようか?きっと気持ち悪がられるよね。
男同士だし。きっとまだ『花喃』が忘れられないんでしょ?
でもさ、このぐらい言ったてバチは当たんないよね?
「あの・・俺・・・気持ち悪いかもしれないけど・・八戒が好きだ・・」
「・・悟空・・?」
やっぱり。いいんだよ。嫌われようが何しようが、だってもうじき死ぬんだもん・・・ね。
「あの・・・それはどういう意味で・・・」
「好き。一人の男として、八戒が好き。」
「本当・・ですか?」
何その反応。迷惑とも嬉しいとも取れるような態度。気持ち悪いってはっきり言えばいいのに
どうはぐらかすか考え中ってやつ?
「嬉しいです。悟空。僕もあなたが好きです。愛してます。」
「・・・・マジ?」
「はい。」
どうしよう。正直嬉し過ぎる。嬉し過ぎて涙でそう。
さっきまで殺そうと思ってたのに、そんな事言われたら殺せなくなっちゃうじゃん。
「・・・・は・・・かい・・」
「!どうして泣くのです?」
「だって・・・うれし・・すぎるから・・・気持ち悪がられるって・・思ったから・・」
「僕もそう思っていました。だから何も言えなかった。だから何も言わなかった。
 けど、それがあなたを却って悲しませていたのですね。ごめんなさい。」
そう言って優しく抱きしめてくれた八戒。一生忘れないだろう。この温もりを。










≫HAPPY?       ≫UNHAPPY























                               







でもね、もう遅いんだよ。

俺は用意していたナイフで八戒の腹を思いっきり刺した。

「!?!?!?!?」

「ごめんね。八戒。俺、八戒の事好きだよ?でもね、遅いんだよ。」

「な・・に・・が・・?」

一度ナイフを抜き、違う場所にナイフを突き刺す。

「つっっ!!!ご・・・う・・」

「好きになりすぎて、愛しすぎて苦しんだよ。」

「・・・・・ん・・・で・・・」

「だからさー、死んで?」

八戒からゆっくり離れるとドサリと倒れる音がした。

鼻に手をかざしたらまだ少し息があった。やっぱり腹じゃ妖怪は死なないか・・・・。

足で八戒を仰向けにして、心臓目掛けて思いっきりナイフを下ろした。多分これで死んだ。

そう思ったら心が軽くなった。

「八戒・・・俺もすぐに傍に行くからね・・・」

八戒を刺したナイフで自分の心臓を刺した。

不思議と痛みは感じなかった。何故だろう?

残る力を振り絞って八戒の傍まで行き、手を繋いだ。まだ温かかった。

「生きている間に繋ぎたかったね。」

目が霞む。眠くなる。意識が遠くなる。

バイバイ・・・三蔵、悟浄。俺、おれ・・・・






三蔵と悟浄の居た酒場に一匹のアゲハ蝶がヒラヒラと舞い降りた。

「「ちょう?」」

悟浄の飲んでいたグラスに止まると、五回ゆっくりと羽を広げたり閉じたりした。

その後もう一匹アゲハ蝶が飛んで来た。一匹目より少し小さめだった。

その蝶も先程の蝶と同じで三蔵のグラスに止まると五回羽をバタつかせた。

『さようなら』

そう言ったように聞こえた。

急いで戻った宿屋の一室で、八戒と悟空は安らかな顔で一生の眠りについていた。








●後書き

  曲は言わずと知れたあの曲です。
  この曲を聴いてて、八戒が悟空に対して暴走(?)するのはよく見ますが
  悟空が八戒に対して暴走するのはあまりと言うか全然見ないなぁ〜と思って
  未熟ながらに書いてみました。




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「悟空。」

八戒の顔が近くなる。何をされるのかは分からないが八戒が目を閉じているから自分も目を閉じた。

一瞬後に感じた自分の唇に触れる温かい何か。薄目を開けて見ればすぐそこに八戒の綺麗な顔。

(あ・・・おれ、キス・・・されてるんだ・・・。)

息を止めていたせいか段々と苦しくなってきた。

空気を取り込もうと少しだけ口を開けた。

すると突然生温かい何かが俺の口の中に入ってきた。

(な!何!?)

それが八戒の舌だと気付いたのはしばらくしてからだった

雑音の無い、静かな部屋でくちゅくちゃといやらしい音だけが聞こえてくる。

どちらのとも言えない唾液が口端を通り首筋へと流れる。

八戒の唇がゆっくり離れていく。

離れたくなくてギュッとしがみ付いた。

「悟空・・・」

「俺・・・俺・・よくわかんねーけど、八戒となら後悔しないから。」

「・・・悟空・・。そんな事言って、後で本当に後悔しても知りませんよ。

そのまま俺は八戒に身を任せた。

でも、何があったかはよく覚えてない。

余りにも気持ち良過ぎて、何も考えられなかった。・・・・・でも覚えている事もある。

フワフワ ヒラヒラ フワフワ ヒラヒラ

この感覚だけは覚えてる。何故こう感じたかは分からない。でも感じた。

フワフワ ヒラヒラ フワフワ ヒラヒラ

なんか、蝶みたいだ。

そう・・・蝶なんだよ。大きく綺麗な花(八戒)に誘われて、大きく羽を(足)を広げたアゲハ蝶。

貴方の蜜は俺の時には特別甘く。薬の様に麻薬の様にしみ込んでいく。

でも他の蝶(人)にはあげないで、だって貴方は俺のモノ。そして俺も・・・・貴方のモノだから。













●後書き

  曲は言わずと知れたあの曲です。
  この曲を聴いてて、八戒が悟空に対して暴走(?)するのはよく見ますが
  悟空が八戒に対して暴走するのはあまりと言うか全然見ないなぁ〜と思って
  未熟ながらに書いてみました。




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