
〜仮装舞踏会〜
学校帰りにふと、郵便受けを確認すると両親へのファンレターや
依頼書の他に見慣れぬ真っ白い封筒が入っていた。
かなり高価な紙で、細かい透かしまで入っている。
しかも新一宛。
裏を返してみても差出人の名前は記されておらず、小さく薔薇の刻印
が押されていた。
嫌な予感を(こういうのは当たるものだというのが世の真理だ)覚えて
いっそのことシュレッダーにでもかけて隠滅してしまおうかと思った
新一だった。
本当に心底そう思った。
・・・・・が何であれ万が一というものがある。
もしかすると予想していた相手とは違う人物という可能性もある。
新一はため息をつくと、仕方なく手紙を携え家の中へ入っていった。
とりあえず荷物を置き、応接室へと姿を現した新一は机からペーパー
ナイフを取り出すとそれを手紙に滑らせた。
中に入っていたのは一枚の便箋とカード。
カードは何かの招待状のようだった。
日時と場所のみが記された随分そっけないものである。
時間の所にAM2:00・・・・とあるのはPM2:00の間違いではないかと
新一は思いたかった。
そして便箋には・・・・・・
『
夢に見る貴方はいつも私につれない
現にてもそうなのでしょうか。
会えない時が長すぎてそれさえも忘れてしまいました。
貴方に会いたい、ただそれだけを考えて私の心は
貴方のもとへ駆けていく
貴方の崇拝者より
』
ぐしゃっ!
ぐちゃぐちゃぐちゃっっ!
ぽんっっ!!!
「・・・・・・バーローっ(///)」
やはりシュレッダーにかけるべきだった・・・・・。
いったい何なんだ、これは!!
「最近、姿を見せてないと思ったら・・・こんなもの送ってきやがって
何考えてんだ、あいつは!」
新一は顔を真っ赤にしていた。
「ふわぁぁ・・・・」
新一は読んでいた本を横に置いて時計を見た。
12時まであと少しといったところだった。
「そろそろ寝るか・・・・」
目を閉じて布団に横たわる。
ボーン・・・ボーン・・・
柱時計の音が家に響く。
バンッ!!
「・・・・・・!!」
突然、部屋の窓が開き風が舞い込んだ。
バサバサバサッ!!
カーテンが部屋を舞う。
「・・・・12時の鐘が鳴り響く、美しい貴方をお迎えに参上いたし
ました」
白いシルクハットに、タキシード・・・・・窓の桟に器用に立って一礼する。
・・・・・・・・・・・・怪盗キッド。
「・・・・・・・・・何の用だ?」
「おや、お手紙は届きませんでしたか?」
「・・・・・・・・・・・・・あの悪趣味な手紙なら、ほら」
新一は机の横のゴミ箱を指差した。
「・・・・・・・」
さすがのキッドもしばし沈黙。
「シュレッダーにかけなかっただけ感謝しろよ?」
「・・・・・・・ふ、やはり貴方は現でもつれないのですね・・・・」
「な、何ふざけたこと言ってんだよっ!」
「貴方を思って私は眠れぬ夜を幾度過ごしたことか・・・・・この胸の
思い・・・・・・受け止めては下さらないのですか」
大げさに身振り手振りを付け加えて言い募る。
「誰が受け止めるかっ!!それより何だよ、こんな夜中にっ!!
警察呼ぶぞっ!!」
「おや?招待状をお渡ししたはずですが?」
「・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・ああ、あれのこと」
「そのお迎えに参上いたしました」
「・・・・・・・・・・・冗談じゃなかったのか?」
「ええ。貴方に冗談など・・・・・・」
優雅に一礼して雅な微笑みをみせる。
「そんな野暮なまねは致しません」
「あ・・・・・・そう」
「では、お手をどうぞ」
「おいおい・・・・俺はまだ行くって言ってねぇんだけど?」
「・・・・・・行かれないんですか?パーティは仮装パーティで色々な
犯罪者にもお目にかかれますよ?」
「・・・・・・・・。・・・・・・シークレットパーティか・・・」
おそらく裏の取引の場。
何故そんなところにキッドが新一を連れて行こうとするのか・・・。
「そうです。どうします?工藤新一君?」
「・・・・・・・・・この格好でか?」
「行かれるならもちろん私がご用意いたしますよ。貴方にふさわしい
装いを・・・」
「・・・・・わかった。行く」
「では・・・・・」
差し出しされたキッドの手を新一はとった。
「・・・・で、何だよ・・・この格好は・・・・・」
新一はキッドを睨みつけながら自分の格好を見下ろした。
「よくお似合いですよ・・・・」
「バーロォっっ!!そんなこと言われて嬉しい男がいるかよっ!!」
「そうですか・・・・見惚れるほどに美しいですが?」
「だから・・・・っ!!」
新一の額に血管が浮かぶ。
四肢を包むのは漆黒の・・・・・・ドレス。
袖はほっそりと手首に伸び、新一の細さを強調する。
腰はこれでもかというほどくびれ、ふわりとレースが足に向かって
広がる。
胸元には深紅の薔薇。
そして・・・・・・肩に流れる艶やかな銀の髪。
うっすらと施された化粧・・・・。
そこには「美」の化身がいた。
「怒った顔も美しい・・・・」
吐息をついてキッドが新一の顎に手をそえる。
「ああ・・・このままさらって行ってしまいたくなりますね・・・・・」
新一はキッドを睨みつける。
「貴方の瞳に・・・私だけを映す・・・・これ以上はない喜びです」
モノクルの奥からキッドの熱い眼差しが新一を貫く。
ぱしっ!
新一は顎にかけられていたキッドの手を振り払う。
だいたいキッドはそのままというのも新一は気に入らない。
「・・・・さっさと行くぞ」
くすくす・・・・。
「そうですね・・・・遅れてしまうと獲物が逃げてしまいますから・・・
ああ・・・それからこれもつけて下さい」
キッドが差し出したのは目元を隠すためのマスクだった。
かなり細かい装飾が入った金細工のもの。
「お前なぁ・・・・・・いったいどこから調達してくるんだか・・・・・」
新一はキッドが自分と同じ高校生であることを思い出しながら
しみじみと呟く。
「蛇の道は蛇ですよ・・・・・おわかりでしょう?」
「・・・・・ふん」
「では、レディ・・・・お手をどうぞ」
新一はキッドの手にぺしりっと手を重ねた。
キッドの案内のもとにやって来たのはある大使の館だった。
「・・・・マジかよ・・・」
「・・・驚きましたか?こういう場所のほうが警察の手入れがなくて
良いんですよ」
「・・・・・・ったく、お前、俺なんか連れてきていったいどうするつもり
なんだよ・・・俺は犯罪を見逃すなんてことはしないぞ」
「ええ、わかっていますよ。それでこそ工藤新一でしょう?」
「・・・・・・」
「ああ、今はこの名前で呼ばないほうがよろしいですね、どうしますか?
・・・・ミセス・キッド・・・なんていうのは如何です?」
「却下!・・・・・・ウリエル・・・なんてどうだ?」
「いいですよ。おもしろいですね」
裁きの天使ウリエル・・・・「罪深き者たちの魂を、神の掟にそむいたことに
よりて順に引き出し・・・永遠の焔のなかで焼かれたり」・・・
「・・・それよりもしゃべり方を気をつけて下さい、ウリエル・・・今の貴女は
女性なんですから」
「・・・・・・たく・・・・・・わかりました、キッド」
「それでは行きましょう」
闇から闇へ。
大使館の中は足元をともすわずかな明かりのみでお互いの顔を判別
するのも難しいほどだった。
だが・・・・・・予想以上の人の多さ。
「いったい何人いるんだ・・・?」
「およそ・・・500人というところでしょうか」
「キッド・・・・・ここであるのはただのパーティじゃないな?」
「・・・・・ご名答です。ウリエル」
その名前に今の自分の格好を思い出す新一。
「・・・何があるんですの?」
「・・・オークションですよ」
くすくす・・・・。
「宝石の、ね」
「キッドっ!・・・・まさか・・・お前・・・」
「そう・・・・お仕事ですよ」
それで何故俺を連れてくる・・・・・(怒)。
「俺はお前に協力なんかしないぞ」
「わかっていますよ、貴女は居てくださるだけでいいんです」
「・・・・・・・・・・・本当だな?」
「私は貴女に嘘は言いませんよ」
「・・・・・・・・・・・」
「どうしました?」
「・・・・・うるせぇ」
くっくっくっく・・・・。
「貴女は・・・・・・・・美しいですね」
「ば・・・・・っ!」
バカと叫びそうになってキッドに口をふさがれる。
「ダメですよ。ここでそんな口をきいては」
「・・・・お前が余計なことばっかり言うからだろうが・・・・」
新一が照れたような疲れたような声で囁く。
「私は自分の気持ちを素直に言っただけなんですが・・・ほら、まわりも
私と同意見のようですよ」
新一は言われて周りを見る。
・・・・・・・・・・・・何だよ、この視線は・・・・・・
新一のことを上から下までじろじろと・・・まさに舐めまわすような視線が
這う。
「仮面で顔を隠しても貴女の美しさまでは隠しようがないということでしょう」
「・・・・・・・・」
もう新一は何も言わない、というか言えない。
あきれ果てて。
「こちらへ、ウリエル」
ふわりとキッドに肩を抱かれる。
「な、に・・・?」
「そろそろオークションが始まるんですよ。行きましょう」
「・・・・・ああ」
新一はキッドのエスコートを受けながら朱色の絨毯の上を進む。
赤に白に黒・・・・人目をひくに十分な二人である。
「これはこれは・・・・キッド様とお呼びしてもよろしいのでしょうか」
「ええ、そう呼んでくださって構いませんよ」
「美しいご婦人をお連れですな・・・」
仮面に派手な羽飾りをつけた男が話し掛けてきた。
「そうでしょう、こちらは・・・」
キッドが新一の手をとり、口づけながら
「ウリエルとおっしゃる私の片恋の相手・・・・やっと口説きおとして
いらしていただいたんです」
「ほぅ・・・それはそれは。ミス・ウリエル・・・私はエリュシオンと申し
ます。これからもご贔屓に・・・・」
そう言ってこちらも新一の手をとり口づける。
その目が何とも下卑ている。
・・・・ぐえ。
まったく・・・・・・・だから女のマネなんてするのは嫌なんだ。
「今日はこちらの方に・・・・」
キッドの手が新一の首に触れる。
「似合うものを見に来ました」
そう・・・・新一の首には装飾物がなかった。
「ああ、それでしたら・・・今日の目玉にとびきりの物がございますよ」
「それは良かった」
・・・・きっと調べてきているだろうに・・・・しらじらしい。
「・・・・おおっ、そうだ!そちらのウリエル様に・・・」
男がキッドの耳もとで何やら話している。
何なんだ?
「ああ・・・それは名案ですね。是非とも私も見てみたい」
「でしたらウリエル様をお借りしてもよろしいですかな?」
「ええ。喜んで」
おいおいっ!!
二人で勝ってに話を進められて新一は困惑する。
説明を求めようとキッドをほうを見ると、その顔に浮かぶのはいたずらっぽ
い笑み。
・・・・・・・何、企んでやがんだ?
「ウリエル・・・・エリュシオン殿が貴女をモデルに使いたいと仰っているんで
すが如何です?」
「・・・・モデル?」
「ええ。最後のとりを飾るチョーカーがあるんですがそれを着けて下さらないかと・・・・・」
・・・・・・・・なるほど、キッド。
今夜のお前の狙いはそのチョーカーか・・・・。
ならば。
「よろしいですよ。それが私に着けるに相応しいものであるなら・・・」
エリュシオンという男に向かって微笑んでやる。
男はその笑みに顔をだらしなく歪め、必死に肯いている。
俺には好都合だ。
キッド・・・それがお前の狙うものなら俺はそれを阻止してやる。
睨みつけたキッドはそれがわかっているのかいないのか相変わらず
読めない笑みを浮かべていた。
ほぅぅぅぅっっ・・・。
会場に感嘆の吐息が溢れた。
「美しい・・・・」
「素晴らしい・・・」
舞台に現れたのは新一。
首には本日のとりであるチョーカーをつけている。
首周りは純度の高いダイヤを散りばめ、中心で一際強く輝いているのは
ルビー・・・ピジョンブラッド。
かなり大きいものだ・・・・拳よりやや小さな程度。
それが新一の漆黒の衣装と白い胸元に映えて何とも妖艶な雰囲気を
かもし出している。
「さて、本日最後の品っ!レディ・ハート、貴婦人の心臓という名を冠する
ルビーにダイヤを飾ったチョーカーです!!モデルはレディ・ウリエル
まさにこれをつけるに相応しい美しい方ですっ!!」
司会者がオークションをはじめる。
どんどん値がつり上がっていくのをぼんやり見ながら新一はキッドを探す。
・・・・・・・・・いったいどこに行きやがった?
カンッ!
・・・・・・・はっ!
木槌の音に我にかえる。
「では、サー・ミシェルに落札!!」
うわぁっと拍手の渦に巻き込まれる。
その渦の中、黒の燕尾服を着た金髪の男が進み出てくる。
そして俺の手をとった。
「私の幸運の女神に口づけをいただきたい・・・」
・・・はいぃぃぃ??
新一は思わず男の手を振り払いそうになる。
「おおっ!それは素晴らしいっ!!」
司会者の男が余計な合いの手を入れた。
もし、普段の新一だったら蹴りの一発でもいれたところだろう。
だが、会場は今や皆それを待っている。
・・・・くそぅっ何が哀しくて男なんかにキスしなくちゃいけねんだ!
これも全部キッドの馬鹿のせいだっ!!!
新一は頭の中でキッドに悪態をつき蹴りをかまし何とか表に出る衝動
を抑える。
「では、どうぞ!!」
・・・・・・この司会者も絶対刑務所送りにしてやるっ!!
新一は拳をにぎりしめ、ひきつりそうになる顔に何とか笑顔を浮かべ
金髪男の頬に唇を寄せた。
ぐいっ!
「・・・・・っ!?」
な・・・ななななななな・・・・・何ぃぃぃぃっっっ!!!!!!
まさに新一の唇が頬に触れようとしたとき、金髪男が新一の腕をとらえ
体勢を崩した新一の唇に口づけた。
ディープ・キス。
逃れようとする新一を強い力で押さえつけ離れることを許さない。
「・・・んんっっ!!!」
『おおぉっっ!!』
と会場から無責任などよめきが起こる。
今夜訪れた客たちにとって一番の見ものであることは確かだろう。
・・・・こいつっ!!!
急所に蹴りでも入れてやりたいのにスカートが邪魔で足があがらない。
「・・・・っふ・・・」
何で・・・・・・っこんな上手いんだよっっっ!!!!
ひたすら新一の唇をむさぼる男に対して新一は酸欠にともない意識が
朦朧としてくる。
がくっ。
新一の体から力がぬけた。
「・・・・確かに頂戴いたしました、『貴婦人の心臓』を」
その言葉とともに金髪の男は消えうせ、白い魔術師が現れた。
「「「「キッドッッ!!!」」」」
会場中が叫んだ。
「では、紳士淑女の皆様・・・ごきげんよう」
キッドはマントをはためかせ、天井近くの窓まで浮きあげると空へ
飛び立った。
慌てた警備員が駆けつけてくるが時すでに遅し。
キッドの姿は影も形も無かった。
![]()
「・・・・んっ」
腕の中の新一が身じろいだ。
「・・・・・・・新一・・・・」
「・・・・・。・・・・・っっ!!!!」
覚醒した新一が暴れだす。
「じっとしていて下さい。今は空の上ですから・・・貴方と落ちるなら本望
ですが・・・・」
キッドの言葉に睨みつけながらも大人しくなる。
「・・・っお前なぁっ!!!」
「私のキスは気絶するほどに気持ち良かったですか?」
「・・・・っっ!!!!!!」
顔を真っ赤にした新一が再び暴れだす。
「お、降ろせっ!!バーローッ!!」
「お断りします。貴方をこんなに近くで感じることが出来るのは滅多にある
ことではありませんから」
「・・・・・っキッドッッ!!」
・・・・・・くそぅっ!俺またこいつにいいように使われたわけか!!
はっと思い出し首元をさぐる。
チョーカーはまだ身につけている。
「・・・・渡さねーからなっ!!!」
「ええ、構いませんよ。もう用は済みましたから。貴方に差し上げましょう。
よくお似合いです」
「バーローッ!!男がこんなものつけて喜ぶかよっ!!持ち主にかえす
に決まってるだろうがっ!!!」
「どのようにです?それは盗品ですよ。当然入手経路を聞かれるでしょうね」
「・・・・・・・っくそ!」
裏のオークションでキッドに盗まれたものですなどと言えるわけがない。
・・・・・完敗だ、今回は。
キッドの腕の中でこっそりと新一はため息をついた。
だいたい、はじめからいけなかった。
・・・・・あいつのペースにはまっちまったのが・・・・・敗因だな・・・・
「今夜は格別に素晴らしい収穫でした。貴方を盗むなんて・・・・
心が躍りましたよ・・・・」
「・・・・はぁ?俺はついでだろうが・・・・」
「貴方が本命で、宝石がついでですよ」
「・・・・・・・・・・」
「ですから、今夜は楽しみましょう。名探偵・・・・」
耳元で囁かれて背筋が震えた。
・・・・・・ちょっと待て。
それはいったいどういう意味だ????
「夜は長いですから・・・・・」
!!!!!!
「・・・・・・・・・・・は、は〜な〜せ〜ぇぇっっっ!!!!!」
夜の静寂に奇妙な叫び声が響いた。
★あとがき★
ご拝読ありがとうございましたm(__)m
これは666ヒットのスピネル様のリクエストです♪
なかなか終らなくて・・・どうしようかと思いました(^^ゞ
う〜ん、ちょっとラブラブ度が低くて自分で書いておきながら
ちょっと不満(←馬鹿)
まぁ、今回はいかにキッドにたらしなセリフを言わせるかを
目的にしてましたから良しとして・・・・・いいですか???
では、これにて!!!m(__)m