知りえる未来。
 そんなものに、どんな意味があるだろう。















「殿、もし未来がわかったらどうしますか?」
 雨が降り、いつものように外出もできず中で信長と将棋をさしていた日吉がぽつり尋ねた。
「あぁ?」
 信長がぱちり、と歩を進めた。
「いえ、これから起こることがわかったら便利じゃないですか?」
「はぁ?馬鹿か、てめぇは。わかったらつまんねぇだろうが」
「それはそうですけど・・・もし、災害とか起きるんだったら先に対策が取れますし・・・」
 信長に命の危機が迫ったとき、真っ先に助けに行くことが出来る。

「だったらてめぇは、自分が死ぬのがいつか知りたいか?」
「え?」
「あと何年経ったら死ぬ、あと数時間経ったら死ぬ。あと数分、あと数秒。そんなことを
 気にしながら生きていたいか?」
「・・・・・・いいえ」
 考えるだにぞっとする。


 風が吹き、煽られた雨が障子を打つ。


「未来なんてものは見えないから面白い。知らないから何でも出来る。そんなもんだろ?」
「・・・・・ですね」
 日吉は自分で振った話題ながら、予想された答えに苦笑する。

「だいたい、何でそんなことを聞く?」
 聞かなくともわかるだろうが、と察しのいい日吉の不似合いな問いに信長が尋ねかえした。
「ヒカゲが・・・」
「・・・また、何か言われたのか?あのオカルト女に」
 信長が顔をしかめる。
 とことんヒカゲとは相性が悪いらしい。
 そんな信長に苦笑しながら日吉は応える。
「オレのことを・・・・日本の王になる、なんて言ったじゃないですか」
「冗談だろ。サルが王なんてな」
 これだから予知なんて胡散臭いものは当てにならないと、鼻をならす。
「オレも、冗談だと、思うんです・・」
 思いたい、そうで無ければ・・・・。

「でも、もし、もしですよ」
「なんだ?」
「もし、それが本当に起こることで・・・・オレが王なんてものになったとしたら・・」
「したら?」
 信長が将棋の手を止め、面白そうにとつとつと語る日吉を眺める。


「・・・・殿はどうなるんでしょう?」
 日吉は真剣に心配しているらしい。
 
(はっ、馬鹿馬鹿しい)
 
「てめぇが王なら俺は神になってるよ。で、ばんばんこき使ってやるから覚悟しろ」
「神、さまですか・・・凄いですね」









 そんな、ある日の信長との語らい。





























 ―元亀元年 四月―


「浅井長政殿、裏切りにございますっ!」
 早馬でやってきた使者が信長に報告する。
「浅井には市をやったが・・・・裏切ったか」
 信長は慌てた様子もなく、にやりと笑う。
 裏切り、それさえも楽しんでいるように。 
 ・・・いや、楽しんでいるのだ。
 脇で控えながら日吉は、そんな信長を観察していた。

「では、引き返すぞ!」
「・・・・は?」
「武将たちが予想外の信長の言葉に呆けた声をあげた。
「このままではこちらの分が悪い。誰がしんがりを勤める?」
 残すことの出来る兵は少ない。
 その少数で、浅井・朝倉の連合軍を待ち受ける。
 まず、生きて帰ることは出来ないだろう。

 けれど。
 日吉は信長の前に進み出た。


「殿、その栄誉。この籐吉朗に賜りたく思います」
 武将たちが息を呑む。
 知っているのだ。
 信長の草履取りとして仕え、だんだんと出世していった日吉を、信長が誰よりも
 気に入っていることを。

「サルか。では、まかせるぞ!」
 だが、信長は了承した。
「はっ!有難き幸せ、命に代えましても」
 誓ったのだ。
 信長の天下を見るために、この身を犠牲にすることを。
 そためになら、何でもすると。


「骨は拾ってやらん。自分の手で持ち帰れ」
 だが、命を捨てる覚悟の日吉に信長は言う、『生きて帰れ』と。
 
 目頭が熱くなる。
 それで十分だった。


 自分はここで死ぬかもしれない、死なないかもしれない。
 未来のことは、わからない。
 だから・・・命を掛けられる。

 自分が信じた主君のために。




「ご武運を、信長さま」
「てめぇもな、サル」
 笑いあう。





 もう一度、あなたに会うために。


 














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+あとがき+

日吉健在(笑)
ええ、日吉はいつまでも殿のお傍を離れませんとも!!
死が二人を分かつまで・・・
・・でも、死んでも一緒に居ること希望(笑)
きっと天国でも殿は暴れん坊で日吉を振り回しているのでしょう♪

(・・・てこれ、作品のあとがきじゃないし・・・/笑)

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