「・・・っ痛ーーーーっ!!!」 突然の信長の叫び声に日吉はまさしく飛び上がった。 「な・・・なな何ごとですかっ!?」 あやうく取り落としそうになった花瓶を持ち直す。 時価いくらになるのか想像するだに心臓に悪い一品である。 割ったらただではすまない。 日吉が冷や汗を拭きながら主人のほうを見ると何故か人差し指を天に向かって 立てている。 「棘が刺さりやがった!!」 ガク。 いったい何事かと思ったら・・・・・日吉は信長にばれないようにため息をついた。 「俺は棘が嫌いなんだよっ!くそ・・・っ取れやしねーっ!!」 乱暴に指をつつく信長。 「殿・・・・棘は小さいんですから・・・・」 「そんなことはわかってんだよっ!!」 信長のこめかみにぴきぴきと血管が浮かぶ。 ・・・まずい。 このままではまずい。 「あの・・・殿。お取りしましょうか・・・?」 そっと伺う信長の顔。 棘といっても侮るなかれ。 運が悪ければ中で腐って大変なことになる。 「・・・・・・」 無言で差し出す人差し指。 「・・・では、針を用意してきますのでちょっと待っててください」 日吉は裁縫道具が入っている箱から針を一本拝借し、沸きたての湯で消毒した。 「殿・・・取りますからこちらに座っていただけますか?」 珍しく素直に日吉の差した所へ腰をおろす信長。 ・・・・・態度は相変わらず偉そうだったが。 「ちょっと見せていただきます」 信長の手を両手で掴んで光に向ける。 (ああ・・信長さまの手て大きいな・・・・) そんなことを思いつつ棘の刺さっている場所を探る。 「あ・・・ここですね」 「・・・っ!」 どうやら日吉の触れた場所がベストヒットしたらしい。 「えーと・・・それじゃあ取ります」 「・・・ああ」 ちょんちょんっと針でつついて棘を表面へと押し出す。 「・・痛くないですか?」 「大丈夫だ」 怒らせていないか・・・と伺うと信長は無表情で頷く。 (・・・こいつ、俺をガキ扱いしてねぇか?) まるで聞き分けのない子供を相手にしているかのような日吉に信長は眉を ひそめる。 「次はちょっと痛いかもしれません」 (サルの分際でっっ!!) 内心で怒りつつも無言で頷く信長。 「んしょっと・・・・あ・・・・取れました!」 良かったぁ・・簡単に取れて・・・・・・・、日吉はほっと安心したのもあって笑顔全快で 取れた小さな棘を信長の前に差し出した。 「あ・・・ああ、手間をかけた・・・・・・・・・っ!?」 珍しく・・・・本当に珍しく信長がねぎらいの言葉をかけようとして、日吉の次の行動に 絶句した。 日吉の口が。 ぱくりと。 信長の人差し指を。 くわえていた。 「お・・お・・・・」 いきなりそんなことをされると思っていなかった信長は言葉が続かない。 その間も指に何やら柔らかい感触が這っている。 ・・・・日吉の舌だ。 ・・・・・てめぇ、自分が何やってんのかわかってのか!?あぁっ!? ・・・誘ってんのか?・・・誘ってんだろっ!! それは信長にとっては気の遠くなるような時間だったが、はかればわずか数秒の 出来事。 日吉は何事も無かったように指から口を離すと、にこりと無邪気な笑顔を信長に 向けた。 「こうすると早く治るそうなんです」 それ以外に他意は無いという日吉の顔。 見ればわかる。 だが。 一度外れた箍はそう簡単に元には戻らないのだ。 「・・・・・サル」 「はい?」 信長の腕ががしっと日吉の腰にまわる。 「・・・・・・・。・・・・・・・・殿?」 「相手しろ」 「・・・・・・・・は???」 信長の単語だけの命令に日吉の頭に疑問符が飛ぶ。 そんな日吉に構わず信長は腰にまわした手に力をこめると抱き上げた。 「と・・殿っ!?」 さすがに慌てはじめる日吉。 「誘ったのはお前が先だ・・・・・・なぁ、日吉。責任はとれよ」 「・・・・・え・・・え?・・・・・えぇっっ!??」 混乱したまま寝所へと運ばれる日吉の後ろでぴしゃりと障子が閉められる。 「殿〜〜〜〜っっ!!!」 叫んでも助けなど来やしない。 その日、日吉の姿を見たものは誰も居なかった。 |
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++ あとがき ++
無意識に誘う日吉が・・・・フフ(妖笑)
いいなぁ。殿・・・(おいっ/笑)