今日も今日とて城内は騒がしかった。 「くぉらぁっ!!サルっ!!さっさと来いっ!!」 「は、はいっっ!!」 信長の怒声と日吉の追いかける声。 「・・・ふぁぁぁ〜〜〜」 ところが一箇所・・・その喧騒の届かぬ場所があった。 天守閣の屋根の上。 黒装束に身を包み、大きな口を開けてあくびを一つ。 ただいま、織田家に・・というよりは日吉にくっついている石川五右衛門だった。 「ったく、あいつも毎度のことながらよくやるね〜・・」 呆れ8割、感心2割。 そして、きらりと目を光らせた五右衛門はすっと手をあげた・・・ように見えた。 一瞬後。 日吉の背後でカカカッ!!と音を立てて壁に突き刺さる手裏剣3つ。 日吉はそれに気づかず、信長の馬の世話をしている。 そして、日吉から少しばかり離れた・・・手裏剣が突き刺さったすぐ傍では身を固めた 侍姿の人間が3人。 どこからか飛んできた手裏剣に呆然として立ち尽くしている。 「俺が居る限り、日吉・・・と今は籐吉朗か・・には手は出させねぇての!」 にやり、と含み笑いを浮かべた五右衛門は誰も聞く者も居ないながら、満足げに 言い放った。 「殿」 「あぁ?」 難しい顔をして現れた一益にいつものように返事をかえしながら、信長は心中・・ 『どんな面倒事が起こったんだよ』と苦々しく思っていた。 「殿はご存知でいらっしゃるでしょうか?」 「何がだよ?」 「最近、城中で・・・・・・大量の手裏剣が発見されていることを」 「はぁ」 それがどうした、と言わんばかりに信長は驚くこともなくぽりぽりと頭をかいている。 「落ち着いている場合ではございませんっ!!城中に得体の知れぬ忍が入り込んでいる 様子っ!!ただちに捜索隊を組み、見つけ出して処罰を!!」 「あー・・・・・処罰、てもなぁ・・・」 信長は煮え切らない。 そんな主の様子に一益は首を傾げた。 信長は直情径行。 こんなことを報告されればすぐさま『俺の城に入ってくるとはいい度胸だぁっ!見つけて 真っ二つにしてやらぁっ!』ぐらいのことは言いそうなのに。 「もしや・・・」 一益の頭にある考えが過ぎった。 「殿のご命令で・・・?」 「いや、そうじゃねぇんだけどな・・・・知らんこともない」 信長らしくない、口調である。 「いったい・・・?」 「まぁ、害はないから放っておけ。・・・・丁度いい害虫除けにもなるしな」 「はぁ??」 事情の呑み込めない一益は困惑を深めたのだった。 「あ!五右衛門!」 蜂須賀の長屋に帰る途中、道端で出会った五右衛門に日吉は笑顔を浮かべて 駆け寄った。 もちろん、偶然なんかでなく、五右衛門は待ち伏せしていたのだが・・・。 「今、帰りか?」 「うん!五右衛門も?」 「ああ」 「だったら一緒に帰ろう♪」 日吉は疑うことなく、素直に誘った。 どうせ五右衛門も同じ場所に世話になっているのだから、と。 「・・・これだから、放っておけないんだよな」 ぼそりと呟いた五右衛門の独り言は日吉には届かなかった。 そして、城中では相変わらず手裏剣が飛びつづけた。 |
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++ あとがき ++
五右衛門・・保護者みたいだ・・・(笑)