最初の犠牲者は五右衛門だった。 「・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・は?」 ヒナタから告げられた内容に忍とは思えぬ呆けた返事を五右衛門はかえした。 「・・・・・・だから、風邪なんだって!」 「・・・・・・・・・誰が?」 「日吉に決まってるでしょっ!」 五右衛門は眉をひそめた。 「・・・・冗談だろ?」 「・・・・・・・・・・・・・・あたしにはどうしてそこまで疑うのかがわかんないんだけど・・・」 「だってあの・・・踏まれても蹴られても殴られても次の日にはけろりとしてるようなあいつが ・・・・・・風邪!?しかも寝込むほどっ!?」 「・・・・・一応、日吉だって人間だし、風邪ぐらいひく・・・・・・・と思うわよ」 「・・・・・・・・・・・・・そうか」 何事かに深く納得したらしい五右衛門は衝撃から立ち直ると、にやりと笑った。 「だったら見舞いに顔出さないとな」 二番目の犠牲者は信長だった。 「サルはどうした?」 いつもならばすでに下に控えているはずの日吉の姿が見えず、一益に尋ねた。 「風邪をひいて寝込んでいるそうです」 「・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・誰が?」 「・・・・・・・木下のことをお尋ねだったと思いますが」 「・・・・・・・お前も冗談が言えるようになったんだな」 「いえ、冗談では無いのですが・・・・」 「・・・・あのサルが風邪!?くしゃみが出て鼻水が出て、熱が出る・・・風邪!? さぼりの口実じゃねぇのか?」 「それは無いと思いますが・・・・」 日吉は一益ほど『生真面目』ではないが、仕事には忠実だ。 「ふむ・・・・・」 しばし顎に手を当て考え込んでいた信長はにやりと・・・それは人の悪い笑みを浮かべた。 「見物に行くぞ!」 第三の犠牲者は所用から戻ってきた秀吉だった。 「・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・は?」 「・・・どうして皆同じ反応するのかしら・・・・」 それほど日吉が風邪をひくというのは信じられないことなのだろうか? 「・・・・・・・・・誰が?」 「だから日吉が」 「・・・・・寝込むほど?」 「ええ」 「・・・・・いつから?」 秀吉が昨夜出かけるときはいつも通り元気だったはず。 「今朝から。いつもならとっくに起きてくる時間なのに姿を見せないから見に行ったら 寝込んでたってわけ」 「・・・医者は?」 「日吉がお金がかかるからいいって・・・薬があるから。今は落ち着いてるみたいだし・・・」 「寝てるのか?」 「うん」 秀吉は草履を脱ぐと日吉の部屋へと向かった。 「日吉、入・・・」 入るぞ・・・と言いつつ障子を開けた日野はそこへ日吉以外の人間たちを発見して 絶句した。 日吉の部屋は広いとはいえない。 そこへ秀吉を加えて7人居れば暑苦しいことこの上ない。 「戸は閉めるな」 信長が我が物顔でいい放った。 その信長の傍には一益と犬千代が従っている。 その信長の前。 寝ている日吉を挟んで五右衛門と小六が座っていた。 ・・・・・・・・・お前らは暇人か・・・・・・・・? あまりの密度の濃さに少々腰をひきつつ、秀吉は五右衛門の隣に腰を下ろした。 「・・・あ、お帰り。秀吉」 起きていたらしい・・・・まぁ、この面々で静かに寝ていることが出来るとは思えないが・・・ 日吉がかすれた声で秀吉に声をかけた。 「おお・・・・風邪だってな。調子はどうだ?」 「うん・・・だいぶ良くなった・・・よ」 「俺の薬が効いたんだろな」 忍に伝わる薬に俺がアレンジを加えたものだと五右衛門が告げた。 「本当に効くのか?余計悪くしてるんじゃねぇか」 スッパの作ったもんだからなと信長。 「殿・・・申し訳ありません」 こほこほっと咳をまじえながら日吉が熱で潤んだ瞳で信長を見上げた。 「ば、馬鹿。どーでもいいから大人しくしてやがれ」 条件反射で日吉を殴りそうになり、慌てて拳を引っ込める信長。 ・・・・・一応、心配はしているらしい。 「だいたい疲れが出たんじゃないのか?」 「そうだ、そうだ。何しろ人使いが荒い誰かさんの下で働いているからな」 「何だとぉ?」 ぴききっと額に青筋を浮かべる信長を慌てて一益がおしとどめる。 「俺もいつ過労で倒れるか・・・」 「心配するな、代わりはいくらでも居る」 「何っ!?」 「お、おい・・五右衛門・・・」 小六が額に汗を浮かべる。 「だいたいスッパが偉そうに過労などという言葉を使うな。言葉が泣くわ!」 「そっちこそいくら日吉が使いやすいからって傍に置き過ぎなんだよっ!」 「何をぉっ!」 「何だよっ!」 ビシビシィィィッッと両者の間に見えない閃光がぶつかった。 こうなってはお互い場所など関係ない。 「こほっこほっ!!」 日吉が激しく咳き込んだ。 「「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」」 おのおの視線を交錯させる。 「ま、まぁ・・・今日のところは大目にみてやる」 相変わらず偉そうな信長。 「日吉に免じて黙っといてやるよ」 つつ・・・と視線をそらしつつ五右衛門。 「・・・・早く良くなれ」 無表情のまま秀吉。 「うん・・・・ありがとう、ございます・・殿。 ありがとう、五右衛門・・。 ありがとう・・秀吉・・」 律儀に一人一人に礼を言った日吉はゆっくりと目を閉じた。 少しばかり息が荒いが・・・穏やかな日吉の寝顔。 |
『 早く元気になれよ 』 |
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++ あとがき ++
急いで訂正。
何を?
日吉が日野の呼び方をです(笑)