「こらぁっ!サルっ!!」 いつものように信長の怒声が屋敷に響く。 「は、はいっっ、殿っ!!」 その声にあたふたと日吉が草履を持って追いかける。 そして信長は『遅せぇんだよっ!!』と一殴り。 そんないつもの光景。 ―――――のはずだった。 「おい、サル」 「は、はい?」 信長のいつになく腰を据えた様子につい習慣で日吉はびくびくと構えてしまう。 こんなときは決まってろくでも無いことを言われるのだ。 「休みをやろう」 「・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 普段は察しのいいはずの日吉もこの青天の霹靂とでも言うべき信長の言葉に一瞬時を 忘れた。 「何だ、その返事は!!」 当然、信長は不機嫌になった。 「え・・・だ、だって・・殿っ!!や、休みって・・・え、あの・・もしかして・・・・・・・・・ クビってことですかぁぁっっ!!!!」 「馬鹿が、休みは休みに決まってるだろうが!それともクビにして欲しいのかよっ!」 「と、とんでもないですぅっ!!」 日吉は首をぶんぶん、はずれんばかりに横に振って否定した。 「てめぇ、最近あちこち駆け回ってろくに休んで無かっただろうが、偶には休め」 そんな信長の言葉に日吉は喜ぶより不安になった。 「あ・・・あの・・・殿。もしや・・・・・・何か悪いものをお召しがリになりました・・・か?」 「どういう意味だ・・・サル」 「いえ、だって・・・殿がそんな優しいお言葉を下さるなんて・・・・」 うつむく日吉は信長のこめかみが激しく動いているのには気づかない。 「こう・・・天変地異の前触れとか・・・みたいな・・・・」 「・・・・・・サル」 信長の地を這うような声が日吉の耳に届いた。 「は・・・はいぃっっ!!」 (や、ヤバイィィィィィツッ!!!) 「つべこべ言ってねーで・・・・休めっつたら休めばいいんだよっ!!!」 ドガッバキィィッッ!!! 信長の拳と蹴りがクリティカルヒットした。 「あの・・・・・休みをいただいたのは本当に有り難いんですが・・・・」 信長の言葉により一週間の休みを貰った日吉は蜂須賀家でのんびりと過ごす・・・・・ ・・・予定だった。 「どうして、殿までここにいらっしゃるんでしょうか・・・・?」 そう、何故か信長まで蜂須賀家に居座っていた。 「・・居ちゃぁ悪ぃのかよ?」 「いいえっっっ!!!」 ぶんぶんと首を振って否定する。 そのうち整体にお世話になる日が来るかもしれない。 「俺も休みだ」 「あ・・・そ、そうなんですか・・・」 相槌を打ちつつも日吉は内心、『主が城を留守にしてもいいんだろうか?』と呟く。 「何だ・・・文句あるのか?」 「い、いえっっ!!」 「それより、茶」 「あ、は、はい」 信長の言葉に用意してきた急須から湯のみにとぽとぽとお茶を注ぐ日吉。 お茶うけには葛餅だ。 「おい、どこに行く?」 それらの用意をして部屋を出て行こうとする日吉に信長が声をかけた。 「どこ、て・・・・特に」 「だったら、お前もここで茶でも飲め」 「は・・・はぁ?」 (俺なんかが・・殿と席を並べてもいいんだろうか・・・・??) 「休みなんだ、殿も草履とりもねぇだろうが。いいから座れ!」 「あ・・・では、お邪魔します」 日吉は縁側で座る信長の左隣に腰を下ろした。 「いい天気だな」 「はい」 「明日も晴れるな」 「はい」 「お茶が旨い」 「はい」 「妾になれ」 「はい・・・・・・・・・・・・・・・・・い゛、えぇぇっっ!!?!???」 「冗談だ」 「お、驚くじゃないですかぁぁっっ!!!」 「てめーが返事しかしねーのがいけねぇんだよ」 「そんなこと言われましても・・・・その・・・・殿はこうしてて楽しいんですか?」 「嫌でするわけがねぇだろうが」 「あ・・いや、それはそうなんですけど・・・」 信長の意味不明な行動の連続に日吉は困ったようにうつむいてしまう。 「・・・俺は元来、平和主義者なんだよ」 「・・・は?」 「・・・・何か文句あるか?」 「いいえぇっっ!!」 「偶にはこんなふうにのんびり過ごすのもいいもんだろ?」 「・・・・・。・・・・・そうですね」 信長と日吉はそろって青空を見上げた。 本当にいい天気だった。 後にヒナタは言う。 『あの時の二人って楽隠居した、老夫婦て感じだった』と。 |
■ あとがき ■ フルムーン(蜜月)を通り過ぎすでにシルバーな二人(笑) ・・・・どうも御華門は何か激しく勘違いしているようです(笑) |