「あっ!」
「おいっ!」
 日吉と信長が同時に叫ぶ。
 そして続いたのは。





 ごんっ!




「っっっ!!!!」
 木に正面衝突した日吉はあまりの痛さにうずくまる。
「バカが・・・」
 そんな日吉を信長が呆れたように馬上から眺めていた。















 遠駆けから城に帰る途中。
 いつになくのんびりと馬を歩かせる信長の様子に、日吉は丁度いいとあるものを
 探すべくしきりに下を向きながら足を運んでいた。
 こんなことは滅多にない。
 普段なら馬に追いつくためにわき目もふらず一心不乱に走るばかり。
 何かを探すなんてとんでもない。

 だからこそ、この機会を逃したくなかったのだ。
 そして熱中するあまり眼前にある木に気づかずぶつかってしまった。


「何やってんだ、てめーは」
「うぅ・・・っ」
 信長の呆れた調子にもかえすことが出来ず日吉は頭をかかえ、信長を見上げた。

「・・・・・っぷ」
 途端に信長が噴出す。
「な・・・何だてめーそれはよっ!ハハハハッ!顔を真っ赤にして本当のサルにでも
 なるつもりか?」
 そのまま信長は馬上で笑い転げる。


 ・・・・・・・酷いです、信長さま・・・・

 恨めしそうな視線で日吉は見上げるが信長には屁でもない。
 
「・・・で、いったい何をしてやがった?」
「あ!そうでした!!」
 信長の言葉に日吉は木にぶつかる前に見つけた・・・探していた「それ」に駆け寄る。
 
「あん?」
「信長様」
 日吉が土の上を指差す。


「四葉のクローバーです」
「・・・・・それがどうした?」
「四葉って滅多に無いんです。だから見つけたらいいことがあるって言われてるんです」
「ふ〜ん」
 神も仏も無い信長にとって迷信も同様に意味がない。
 けれど日吉は違う。
 そんなささいな「出来事」で幸せになれる。

 『信長の共ででかけ、信長と一緒にそれを見つけた』
 それが重要。

 押し花にして大事にしよう。
 そう決心してクローバーに手を伸ばした日吉の脇からひょいっと手が出る。
 その手が・・・・日吉よりも先にクローバーを摘んでいた。


「信長さまっ!?」
「主をないがしろにした罰で没収だ」
 言ったわりにさほど不機嫌にも見えず、むしろ笑みさえ浮かべて日吉の目の前で
 摘んだクローバを振ってみせる。

「よしっ!帰るぞ!」
 馬上にかえり一声叫ぶと信長は鞭を当て、馬を走らせる。
「!?信長さまぁっ!!」
 信長の行動に呆気にとられていた日吉は一足遅れる。
 その間にも信長の背は小さくなっていく。


「お待ちくださいぃっっ!!!」

「とろとろするなっ!置いていくぞっ!!」
 すでに置いていかれている。
 それでも日吉の目が届く範囲にいるだけ、まだ手加減はしてくれているのだろう。
 

 だから日吉は必死で追いかける。
 それ以上に信長と離れないために。
 少しでも近づくために。


「信長さまっ!!」

 青空に日吉の声が木霊する。





















 後日。
 信長の読んでいた書物にこっそりと小さなクローバーが挟まれていた。














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××あとがき××

何やら久々にノブヒヨのほのぼのを書いた気がいたします。
天下取りの間のちょっと一休み♪


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