「あっ!」 いつものように秀吉との二人一緒の蔵整理という仕事中、藤吉郎は唐突に気づいた。 すぐさま手にしていた巻物を棚の上に返し、さささっと秀吉に忍び寄る。 秀吉としても藤吉郎はほとんど空気のような存在で警戒すべきものでは無いのか、そんな藤吉郎 の行動も気に留めず作業を続けている。 藤吉郎はそんな秀吉をじぃぃぃっと穴が開くほどに見つめ、やはりと心の中で頷いた。 「秀吉っ!」 「うわっ!何だ!急にでかい声を出すな!」 持っていた茶碗を危うく取り落としそうになった秀吉は目をくわっと開いて藤吉郎を睨みつけた。 この茶碗一個で二人の一年分の給金の倍の倍・・・・無理もない。 「いったい何だ?妙なもんでも見つけたのか?」 「違うっ!・・けど、違わない!」 「・・・・。・・・・は?」 訳が判らんと眉をしかめる秀吉に藤吉郎は起こったような顔で、ずるいっ・・・と責めた。 「・・・はぁ?何が?」 秀吉はますます混乱を深める。 藤吉郎にずるいと言われることなど何も心当たりは・・・・確か、無かったはずだ。 先日、信長の使いのついでに寄り道をして団子を買ったのももう時効のはず。だいたいあのときは 藤吉郎に大福を土産に買って帰ってやったし・・・・・ 「ずるいっ、ずるいっ!」 「だから!何がだっ!」 全く心当たりが無いのに責め立てられて秀吉もむかつきはじめる。 ついついどちらの声のトーンも大きくなっていく。 蔵の中でこもって外に響かないのが唯一の救いだ。 「だって・・・・」 藤吉郎は拳を握る。 「だって・・秀吉のほうが高いっ!」 「・・・・高い?」 給金が?・・・いや、そんなことはない、と秀吉は思う。 こいつと自分が貰っている給金にそんなに違いは無いはず。 「う゛〜・・会ったときは同じくらいだったのに・・・っ」 だから何が・・・と再度問い返そうとした秀吉に藤吉郎は言い放った。 「身長が高くなってる!」 「あ・・・・・・あー・・・・・・そうか?」 何だか呆気にとられた秀吉が尋ねれば藤吉郎は大きく、うんっ!と頷く。 「半寸(1.5cm)は違う!」 「半寸てなぁ・・・そのくらい同じようなもんだろうが・・・」 秀吉にとってわざわざ騒ぎ立てるほどのものではない。 「全然違うっ!それは秀吉は俺より高いからいいかもしれないけど!秀吉だって低いより高いほうが いいだろっ!?」 「それはまぁ・・・」 ぽりぽり、と秀吉は頬をかく。 確かに想像してみると・・・藤吉郎より身長が低い自分、というのは何だか嫌だ。 「・・あーっもうっ!どうして秀吉だけっ!?食べるもん同じなのにっっ!!」 悔しいっずるいっ、と首を左右上下に振りまくる藤吉郎。 身長なんて思い通りにならないものにいちゃもんをつけられても困る秀吉。 必然的に二人の手は止まった。 仕事も進まない。 「・・・・て、それどころじゃ無いだろうが!ここの片付け今日中に終わらせないといけないんだぞ!」 「あっ!!・・・秀吉っ!それこっち!」 「ほら・・・ったく、くだらねぇことで時間とらせやがって・・」 「くだらなくないっ!・・・・あ、これそっちね!」 「くだらないことだろうが、・・・あー、それは上だ」 「あ、そう!だった俺だってすぐに秀吉に追いついて抜かしてやるんだからな!・・・はい、これ!」 「おう、・・・ほぅ、それなら俺だってお前が追いつけないぐらい高くなってやるよ!」 「な・・・っ!?」 「ま、せいぜい頑張れよ?」 「〜〜〜〜〜〜っ!!!!秀吉の馬鹿っ!!!」 悪態をつきつつも二人の作業は流れるように進んでいく。 ”喧嘩するほど仲がいい”・・この言葉がこれほどぴたりと当てはまる二人も珍しい。 後日、身長を延ばすべく励んでいる藤吉郎が目撃されたらしい。 ・・・が、未だに藤吉郎の喜びの声は聞こえないのであまり効き目は出てないようだ。 頑張れ、藤吉郎!負けるな秀吉! ・・・・・どちらもあまり望みはないぞ!(酷/笑) |
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やっぱり男の子だから、身長は気になりますよね。
うんうん、仲良きことは美しきかな(・・・?)