「お仕置きだよ?」
 そう言って笑った五右衛門の顔は・・・妙に嬉しそうだった。























 人間以外の・・犬や猫や鳥・・・その他の生き物を見ていると、ふと妙な感慨が胸に
 沸いてくることがある。
 
 何でこいつらは生きているんだろう?
 何でこんな仕草をするんだろう?
 妙な動きに、妙な鳴き声。
 
 こいつらはいったい何を考えているのか?
 自分がどんな生き物かわかっているんだろうか?

 俺がちょっと力をこめれば死んでしまう。
 そんな生き物のくせに。

 人間の考えていることは、どんなに隠そうとしてもすぐにわかる。
 それ以外の生き物は・・・本当にわからないことだらけで不思議だった。













「あ・・あの・・っちょ・・・っ」
 近寄っていくとじりじりと後退する小さな体。
 よく見ると冷や汗なんか浮かべている。
「大丈夫、大丈夫♪」
 自分でも何が大丈夫なのか、わからないけれどそう囁いて、小さな体を壁に追い詰めていく。
 小さな体に小さな手足がわたわたとせわしなく動いている。
 その動きは小動物に似ていて・・・ああ、確かにあいつの言う通り『猿』に似ているかも
 しれないと思ってしまう。
「ご・・五右衛門、何を・・・?」
「だからお仕置きだって」
 ちゃんと言っているのにどうして伝わらないのだろう?
 普通、わかるだろう?
 こいつは馬鹿じゃないんだから。
 それなのに。

「五右衛門!」
 叫んでいるのに、真っ直ぐに自分を見つめてくる瞳はどこまでも澄んでいてこの状況でも、
 まだ自分を信じているのだ。
 何でそんなことができるのか。
 俺には全く信じられない。
 俺なんか、いつだって誰だって信用できないというのに。

「だから!お仕置きって何だよっ!」
「お仕置きって言ったら普通、悪さをした子への罰だろ?」
「俺が何したって言うんだよ!」
 そんなの決まってる。
 俺を揺さぶって、その瞳で雁字搦めに捕らえやがった。
 絶対に、誰かのものになどなるつもりは無かったのに。
 自分は自分だけのもの。
 ・・・そう思っていたのに。
 
 お前はそんな俺をあざ笑うように、虜にしてしまった。

「だからお仕置きなんだよ」
「わかるかっ!」
 そうやって真っ赤になって怒る顔も嫌いじゃない。
 いや、むしろ好き。


「藤吉郎・・」
 ちょっと薄汚れた壁まで追い詰めて、両腕をついて胸の中に閉じ込めてやる。
 すっぽりおさまる小さい体。
 それでも、いつかきっと・・近いうちにこいつは天下を揺さぶる大きな事をしでかすのだろう。
「ごえ・・」
「愛シテル」

 藤吉郎の大きな目が口といっしょにぽか〜んと開いた。

「好きだよ、愛してる。だから俺のもになって?」
 大概の奴はこれであっさりと俺の手の中に落ちてきた。
 けれどこいつは・・・


「・・・駄目」

「何で?」
「だって俺は・・・殿のものだから」
 そう言うと思ったよ。

「ごめん」
 本当に申し訳なさそうに謝ってくる。
「どうしても・・ダメ?」
 その優しさにすがって言ってみる。
「・・・・ごめん」
 つらそうに、瞳が潤む。
 ああ、わかってたさ。
 お前が絶対に頷かないことなんて。

 でもね。
 わかっていても諦められないものがあるんだよ、この世の中には。


「それならさ、体だけでもいいからくれよ」
 そして、いつかはお前の心も貰うから。
 お前の大事な殿サマが死んだ後にでも。


「五右衛門・・・・それはもっとダメ」
「どうして?」
「だって・・・嫌だから」
「俺のことそんなに嫌い?」
「違う!そうじゃなくて!・・・・そうじゃ・・・・」
 ためらうように握り締められていた手が俺の服にかかった・・・すがるように。

「だって、俺なら嫌だ!好きな人が・・・自分を選んでくれなかったからって体だけで満足
 するなんて、体だけ貰うなんて・・・そんなの・・・悲しすぎるよ。・・・五右衛門のこと・・・
 好きだから・・・だから体だけなんて、ダメ」

「・・・・・・。・・・・・」

 うわ、参ったよ。
 どうしよう?
 何で、お前はそんなに嬉しいことばかり言ってくれるんだろう。

「ご・・五右衛門?!」
 顔を覆ってしゃがみこんでしまった俺に、藤吉郎の慌てた声が上から降ってくる。

「・・・ん」
「え?」
「・・・降参」
 本当に、参りました。
 お前には敵わないよ。
 お手上げだ。

 これでも相当な覚悟を決めて来たはずなんだけどな〜。
 絶対にお前を抱いてやる、て。

 それなのに、接吻も出来ずに終わるとは・・・・・・忍者失格。


「・・・ぎゅっしていい?」
「・・・は?」
 意味が通じず呆けた声をあげる籐吉朗を問答無用で抱きしめた。
「五右衛門!」
「これだけだから。あとは何もしないから」
「・・・・・・・。・・・・・うん」
 今はこれだけで満足してやるから。


 ああ。本当にどうしてやろう。
 どうしてお前みたいなのが人間なんだ?
 俺の先読みを悉くに打ち砕いて・・・それなのに失望させない。
 ますますのめりこんでいく。

 きっと俺はもう抜けられないだろう。
 籐吉朗という存在から。




 思い知らせてやるつもりで来たのに結局は俺のほうがお前への「想い」を思い知らされた。
 
「籐吉朗」
 俺にとって、お前は唯一大事なもの。
 大事な大事な宝物。








 俺はお前のために命をかけよう。
 









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久々の短編(笑)
しかも書いていてこんなにしっくり来たゴエヒヨは初めてです(笑)
やっぱり日吉は元の世界で成り上って欲しかったですv
(・・まだ言うか/笑)


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