夢と現と
「お前なんか、いらない」 「やーい、男女ーぁ」 「気持ちわりー」 「どっかいけよ!」 心に突き刺さる トゲ |
日吉は物心ついた頃から、一人だった。 村の子供たちは、誰一人として日吉と遊ぼうとはせず、大人たちも相手にしなかった。 そして・・・親で、さえ。 まるで、汚いものでも見るように日吉を見た。 だから、いつも一人。 いつも孤独。 それが『普通』だった。 春。 小鳥がさえずり、花々が咲き乱れ。 空には花びらが舞い、小川のせせらぎが心地よい眠りを誘う。 陽気に子供たちとその親が、農閑期のささやかな花見に興じている。 そんな長閑な光景の広がる、少し離れた場所で日吉は膝小僧を抱えて、風に揺れる 名も無い草をぼうっと見つめていた。 「どけーーーっ!!!」 そんな日吉に唐突にかかった声。 「・・・・・っ!?」 振り向けば、目前に迫った・・・・・・・・大きな馬。 ブラックアウト。 ばしゃっ! 「・・・・ぅっ!」 冷たく濡れた感触に日吉は目をしばたいた。 「あ・・う・・・・・え??」 「やっと気がつきやがったな」 状況のよく飲み込めない日吉の顔を、このあたりでは見かけない子供が覗き込んでいた。 「てめーは馬に蹴られそこなったんだよ」 「う、馬っ!?けられ・・っ!?」 そう言えば確かに肩のあたりが何だか・・・痛い、ような気がする。 「まぁ、命に別状はなかったんだ。よかったな」 「はぁ、ありがとう・・・ございます」 身なりはそこらの悪がきのようだが、その生地は日吉たち農民が着られるようなもの ではない。たぶん・・どこかの武士の子供なのだろう。 ついつい丁寧な口調になってしまう。 だが、ちょっと待て。 「えーと、あの馬は・・・」 「隼人だ」 「・・・隼人、は・・・あなたの馬?」 「当たりまえだろうが。おれが乗ってんの見えなかったのか?」 「・・・・そうです、か」 ということは、だ。 日吉は幼い頭で一生懸命に考える。 そもそも・・・・・馬が自分にあたるようなことになったのは・・・・・・・・ 「・・・あんたのせいじゃないですかぁぁっっ!!」 「うるせぇっ!てめぇが避けねぇのが悪いんだろうがっ!」 二人は最悪の出会いを果たした。 「まったく・・当たりどころが悪かったらどうするんですか・・」 「うるせぇな、別にたいしたことなかったんだからいいだろ」 「そういう問題ですか!」 「おれが法律だ!」 「・・・・・。・・・・・・」 呆れてものが言えない・・・日吉の顔がそう告げていた。 「ところでお前」 「・・・日吉です」 「サルに似てるな」 「サ・・・・っ!?」 「よし、これからお前をサルと呼ぶ!いいな!」 「よ・・よくないですっ!」 「おれは、『吉法師』だ。ちゃんと『様』をつけろよ」 とことん、ゴーイングマイウェイ。 人の話なんて聞いてやしない。 日吉はがっくりと肩を落とした。 「よしっ!ついて来い!」 「えぇっっ!?」 どこに!?何でっ!! 日吉がそんな疑問を浮かべる前に吉法師は馬の背にのり、日吉の手を掴み・・・ 「はぃよっ!!」 馬に鞭を当てた。 「な・・・・うわぁぁぁっっっ!!!!!!!」 泣き叫びつつ、日吉は風になった。 それからというもの。 吉法師は何日か置きに、日吉の村へやってきては・・遠駆けの共に連れ出し。 やりたい放題し、とことんいじめて帰っていく。 どんなに日吉が、逃げても隠れても、いったいどうやって探し出すのか見つけ出す。 最初こそ、必死で逃げ回っていた日吉もだんだん無駄な努力をするのは諦めて 吉法師が馬に乗ってくるのを街道沿いに待つようになった。 「はじめはすごく嫌だったんだけどな・・・」 こちらのことなど一切気にせず、やりたい放題。気のむくまま、思うがまま。 武士の子供とはこれほどに我儘なのかと日吉を呆れさせた。 吉法師は乱暴者だ。 しかも口も悪くて、容赦もない。 けれど・・・・。 真っ直ぐだ。 ちょっとした(どころじゃない)悪戯はするけれど、これだけはという一線は越えない。 人に後ろ指をさされるようなことはしない。 そして、信じられないことに・・・優しいところもある。 二日間飯を抜かれた日吉に・・・ぶっきらぼうだったが、握り飯を差し出してくれた。 その大きさ不ぞろいで、お世辞にも美味しそうには見えなかったが、日吉には・・・ 本当に嬉しかったのだ。 人の親切なんて初めてだったから。 優しくされるのなんて初めてだったから。 ・・・忌み嫌われた白眼で見られなかったから。 日吉はずっと孤独だった。 これまでも・・・これからもずっと一人だと思っていた。 それなのに。 「・・・おい」 もの思いにふけっていた日吉の頭の上から声がかかる。 そういえば、今日も吉法師と一緒だったんだと思い出す。 「サルのくせにぼうっとしてんじゃねぇよ」 「・・・どういうりくつですか・・」 「いいからおれと居るときに他のこと考えてんじゃねーよっ!」 ・・・ちょっと頬が赤い。 「・・・・は、はぁ」 「何だ、その気の抜けた返事は!」 がこっ! 「・・・っ〜〜っっ!!」 吉法師は力が強い。その力で殴られると・・・しばらく声が出ない。 「行くぞ!遅れるなよ、サル!・・・・・・・・・・・・・・・と、何だ?てめぇら・・」 走り出した吉法師の前にずらりと並ぶ年もまちまちな子供たち。 質素な着物に身を包んだ彼らは・・・・・日吉と同じ村の、子供たちだった。 「・・そいつがなんだか知ってんのか」 「はぁ?」 一番リーダー格らしい、大柄な男の子が日吉を指差した。 「あいつは忌み子だ」 「女でも男でもない」 「バケモノだ」 子供たちが口々に言い出す。 嫌だ。やめて。言わないで。 ・・・聞きたくない・・っ!! それまで、幾ら言われても平気だった言葉。 自分に向けられる・・・酷い言葉。 平気だったのに・・・。 吉法師には知られたくなかった。 知らないままで、居て欲しかった。 その背中を見ていた日吉はぎゅっと眼をつむり、己の耳を塞ぐ。 ・・・・そして、身を翻して駆け出した。逃げ出した。 吉法師にあんな目で見られるのは耐えられなかった。 「・・・・・・てめぇらは、馬鹿だな。救いようのねぇ馬鹿だ。自分の物差しでしか人を はかれねぇやつは、ずっと下で這いずりまわってろ」 日吉は森の中でうずくまる。 これでまた一人。 ・・・・寂しくなんかない。元通りになるだけだ。 「・・・平気。平気だ・・・」 「何が、だ?」 「・・・・っ!?き・・吉法師、さま・・・」 二度と会うことも口をきくことも無いと思っていた吉法師が目の前に立っている。 日吉は驚きで目を見開いた。 「どう・・して・・・」 どうして。 自分の体のことを知ったのに。 信じられない。 「何が、『どうして』だ!飼い主を無視してどっかに行くんじゃねぇっ!」 ばこぉっ!! 「っっ・・・痛いじゃないですかっ!!」 「ったく、サルが手間かけさせんな」 「・・・・・・・・」 日吉は殴られた頭を押さえた。 ・・・吉法師は優しい。優しいから・・・・・・・・・自分に同情する。 だけど。 日吉なんかにかかわって吉法師にいいことなんて一つも無いのだ。 「吉法師さま・・・おれはいいんです。慣れてますから・・・無理しておれのこと相手に してくれなくても・・・大丈夫です」 精一杯の笑顔で吉法師に告げた。 「・・・大丈夫だという奴がそんな辛気臭い顔をするかよ。てめぇの嘘なんかばればれだ」 「嘘じゃありません!本当に・・・大丈夫なんです!」 「うるせぇっ!おれはおれのやりたいようにやる!てめぇの意見なんか聞いてねぇ!」 「吉法師さま・・・」 呆然と日吉は吉法師を見上げた。 「馬鹿サル!男だ?女だ?この戦国の世界でそんな違いなんぞ何の意味もねぇっ! あるのはいかに生き、いかに死ぬかだ。それが全てだ!」 「・・・・・・」 「言っただろうが、おれと居るときは他を向くな。おれのことだけ考えていればいい。 ・・・・わかったか?」 「・・・は、い・・・・」 幼い身に宿る、強烈なカリスマ。 眩しくて眩しくて・・・・・何も考えられなくなる。 「吉、ほうし・・・さま・・」 「お前はおれのものだ。誰にもやらん」 はじめて、日吉を望んでくれた人。 この人のために・・・・・・・・自分は・・・・・・・・・・・・・・ 「ふーん、器量はあまりよくねぇが・・・まぁ、いいだろう」 何が? 「お前は借金のかたに売られたんだよ」 ・・・売られた? 「今日からここで働くんだ。逃げようなんて思ったら酷いからね」 義父の借金のかたに売られ、日吉は遊郭に身を置くことになった。 幼いときの唯一楽しい思い出。 それを、日吉は記憶から消し去った。 |
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※あとがき※
というわけで幼かりし頃の吉法師と日吉でした♪
終わってるのか続いているのか謎な終わり方ですが・・・
本編に続いているということでご容赦をv