本日も天気は快晴。 空には眩しい・・・激しいほどの太陽が輝いていた。 「よしっ!今日も一日頑張るぞ!」 日吉は気合を入れる。 「雨が降るわ。それも土砂降り。傘を持って行ったほうがいいわよ、日吉」 とその気合をそぐように冷静なヒカゲの声が横から響いた。 「・・・・え、こんなに天気がいいのに?」 「ええ、間違いなく降るわ」 ここまで断言されては持って行かないわけにはいかない。 日吉は城までの道のり人々の不思議そうな視線を浴びつつ那古野城にたどり着いた。 「・・・おい、サル」 「はい」 信長の視線が日吉の左手の傘に向く。 「何で傘なんか持ってきてやがるんだ?」 「今日は雨が降るみたいなんで・・・」 日吉の言葉に信長は空を見上げた。 「お前・・・・」 そして日吉に近づくと。 バゴッ!! 「降るわけが無いだろうが!この天気で・・・馬鹿がっ!!」 「で、ですが・・・っ」 ここでヒカゲが言ったとは言えない。 なにしろ信長は徹底的な無神論者で、そんなことを言ったが最後、さらに殴られることは 間違いない。 「おらっ、つべこべ言ってないで行くぞっ!」 「は、はいっ!!」 信長の日課の遠駆け。 一瞬、左手の傘を置いていくか迷ったものの、そのまま持って走ることにした。 持って普通に歩くには軽い傘も全力疾走の共には少しばかり重たかった。 いつもより息切れするのが早い。 それでも日吉は必死に遅れまいと走った。 「・・・っあ!」 しかし、お約束に足元の石につまづいた日吉は盛大に地面をスライディング。 それにも関わらず、日吉はしっかりと傘を左手に握ったままだった。 「・・っ痛〜〜」 右手で支えながら起き上がると、袴から砂埃がおこる。 ずきんっと足に痛みが走り、どうやら擦りむいたらしい・・・とわかった。 だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。 こんなところで突っ立ていると信長に置いていかれる。 「・・・何やってんだ、てめーは」 と、先に行ったとばかり思っていた信長の声が頭上から響いた。 「と、殿??」 「余計なもんを持ってるからだろうが」 「・・・す、すみません」 「・・・おい」 「は、はい??」 「掴まれ」 「・・・は?」 「掴まれって言ってんだよ!」 言う間に信長の手が日吉の腕を掴んで馬上へと引き上げた。 「あ・・あのっ・・・殿っ!?」 「うるせぇ、黙ってろ!」 乱暴な怒っているような口調だが、僅かに頬が赤い。 ・・・信長は存外に照れ屋だった。 「・・・ありがとうございます」 だから、日吉もぼそっと聞こえるか聞こえないかでお礼を告げた。 信長は鼻を鳴らしただけで、馬の綱を取った。 ぽつり。 日吉の頬に何かが当たった。 「・・・??」 指で触れると・・・濡れている。 「あ・・・・」 「ちっ!降ってきやがった!」 そう、空は晴れているのに雨が降る。 狐の嫁入りだ。 そう思っている間にも雨はどんどん強くなる。 信長は馬を止めた。 「近くで雨宿りだ。どうせすぐやむだろ」 「は、はい」 日吉は信長の手を借りて馬から下りると、綱をとった。 そして、近くの木の陰に移動する。 ぽちょん。 ぴちょん。 ぺちょ! 「・・・・・・(怒)」 「・・・・・・(汗)」 木の陰に来たのはいいもののどうやら葉が少ないらしく隙間をとおって落ちてくる。 隣に立つ信長の機嫌が雨粒が顔に当たるたび、不機嫌になっていくのを感じた。 「あ・・・あの・・・・殿・・・・」 「あぁ?」 「・・・その、傘を・・・ど、どうぞ・・・」 「てめーが差せ」 「あの・・俺は別に気になりませんから・・・・殿が・・・」 これ以上不機嫌になってもらうと八つ当たりは日吉が受けることになる。 「ちっ!」 そんな日吉に信長は舌打ちすると差し出された傘を掴み・・・・・差した。 ぽんっ。 とんっ。 こんっ。 信長と日吉の上の傘の油紙に水滴があたって小気味いい音をたてる。 雨はだんだん小ぶりになっている。 もうすぐ止むだろう。 (ヒカゲ、ありがとう・・・・傘、役に立ったよ) 日吉は空を見上げて笑顔を浮かべた。 |
■ あとがき ■ 凄まじく晴れた日に雨の話はなかなか妙な気分です。 そして、この話の裏タイトルは、ずばり。 『相々傘』です(笑) この時代に御華門が想像するような(江戸時代、浪人内職風/笑) 傘があったかどうかはよくわかりませんが まぁ、あったということで(^^ゞ |