『ニセ者が!』
 そう言われたとき。

「ああ、そうか」
 と思った。













それは兄弟愛・・・・・?


















 いつの頃からだったか忘れてしまったけれど。
 何となく、自分は他の人間とは少し違う・・・と感じていた。
 何故そんなふうに感じてしまうのかわからない。
 でも・・・・・・そう、言うなれば『異端』。
 
 養父に虐待されればされるほど。
 疎まれれば疎まれるほど。
 その思いは強くなっていった。

 自分はここに居てはいけない人間なのでは無いか?
 何故、自分はここに存在しているのか?

 いつしかそんな疑問ばかりが頭の中を駆け巡っていた。




 そんな中に出会った・・・・・『片割れ』




 ――――――― 日野秀吉。

















「秀吉ーーっ!!」
 自分と同じ後姿に声をかけた。
 仕事を終えて、城から足軽長屋に帰る道のり。
「秀吉っ!」
 何だか嬉しくて、声をかけずにはいられなかった。
「何だ?」
 俺の声に振り返る、しかめっ面。
 何でこんな時まで怒ったような顔をしているんだろう・・と思いつつ秀吉の隣に並んだ。
「どうせ帰る場所は一緒なんだからいいだろ?」
「・・・まぁな」
 秀吉は俺に比べてずっと無口だ。
 ・・とは言ってもしゃべるときには凄くしゃべるけど。
 特に相手に喧嘩を売るとき。
「今日の殿の様子はどうだった?」
「・・・あ?お会いして無いのか?」
「うん、犬千代様の御用で町に買出しに出かけてたから・・・」
 自分は織田家の人間しか知らないけれど、皆、優しい人ばかりで・・・農民あがりの
 自分に対してもよくしてくれる。
 今日も買出しに言った残りのお金は自由に使っていいと言われた。
 右手に持っている袋はそのお金で買った・・・・甘いもの。
「・・・なるほどな」
「??何が?」
 何が『なるほど』なのか?
「お前が居ないと殿の機嫌が悪い」
「・・・・まさか」
 自分がいないくらいで、あの殿がどうこうするわけが無い。
 と思っていたら、隣で秀吉がほぅっと大きな溜息をついた。
「・・??」
「籐吉朗、お前・・・鈍いな」
「っ!?何だよ・・・俺が鈍いならお前だって鈍いだろ!」
「は・・なんで俺まで」
「だって・・・っ」
「言っとくけどな。お前と俺は『同じ』かもしれないが・・『同じ』じゃない。俺は
 お前じゃないし、お前も俺じゃない。他人なんだ」
「・・・・・・っ」
 
 『同じ』じゃない・・・・。
 その言葉は予想外に籐吉朗を打ちのめした。

 足が止まる。
 
 歩き続ける秀吉は先に行き、取り残される自分。
 わずか数歩の距離。
 でもそれが・・・。
 
 それがこそが・・・『違う』という何よりの証拠。

 同じでありながら、『違う』自分たち。
 違うのに『同じ』時を生きてきた自分たち。

 何なんだろう・・・俺は。俺たちは。
 何で俺たちは生まれてきたんだろう。いや、俺は。
 同じ人間は二人もいらない。
 それなのに・・・・何故、『二人』も居るのだろう。

「・・・・・秀吉・・・」
 
 わからない。
 わからない・・・・・わからない。




「籐吉朗。何してる、とっとと帰らないと日が暮れるぞ」
「あ・・・」
 
 秀吉が立ち止まる。
 立ち止まって、俺が追いつくのを待ってくれる。



 縮む距離。
 近づく自分たち。
 0(ゼロ)になる距離。



「・・・・へへっ」
「・・?何笑ってるんだ?」
 秀吉が訝しげに俺の顔を覗き込んだ。
「嬉しいんだ」
 そう、嬉しい。
 何で気づかなかったんだろう。
 俺たちは別人。他人。違う人。
 だから、こうして二人で歩いて・・・・・待っていてくれる。

「今日のお前は何だか変だな」
「そうかな?」
「・・・・何がそんなに嬉しいんだか・・・」
 秀吉が呆れたように呟いている。
「・・・秀吉、だから。秀吉が俺と一緒に居てくれる・・・からかな?」
「・・・・・・。・・・・・・ばぁか」
「何だよっ!」
「はぁぁ。これだからお前は鈍いっていうんだよ!」
「何がだよっ!秀吉のほうが鈍いよっ!」
 この嬉しさがわからない、なんて。
「お前に鈍いなんて言われたくない」
「俺こそ秀吉に鈍いなんて言われたくないっ!」
「「・・・・・っふんっ!!」」
 同時にそっぽを向いた。


 こんな喧嘩も・・・・『違う』から出来る。
 
 秀吉に腹を立てながら、それを嬉しいと思う自分が居る。


「・・・・・・・秀吉」
 だから、今日のところは俺から折れてやることにした。
「・・・・・何だ」
「お饅頭買ったんだ♪帰って食べよう!」
 好物は『同じ』。知っている。
「・・・・・。・・・・・ああ」
 しぶしぶ頷いた秀吉。
 
 くすくす。
 くすくすくす。

 ああ、何だか凄く嬉しい。
 
 こんなことで幸せになれる自分。
 俺は・・・・・凄く。


 幸せだ。














世の中は他人が思うほどに優しくは、無い。
力弱い者には生きにくく、つらい世界。

だから、強くなりたいと思った。
強くありたいと願った。

絶対に、誰にも馬鹿にされないように。

そのために自分以外の誰が犠牲になっても構わない。
誰を踏み潰していこうと気にしない。
それが強者の論理だったから。



それなのに。


俺は今、弱いこいつの傍に居て。
弱いこいつの力になって。
何の得にもならないことを続けている。

何故なのか。
何故なのか。
ひたすらに問いつづける日々。

けれど、ある日突然、それは閃いた。

こいつは、弱い『俺』。
弱かった『俺』。

他人だとわかっているのに・・・・・自分と同化させてしまう。

『違う』けれど『同じ』
『同じ』だけど『違う』

それが俺とこいつ・・・・・。





―――――――――――木下籐吉朗













「ふんっ!とっとと帰るぞ!」
「何だよ、偉そうにっ!饅頭買ったのは俺なんだからな!」



 畦道を歩く・・二人に、二つの影。
 





 いつか一つに重なる日もあるかもしれない。













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† あとがき †

明るい話を書く予定だったんですが、何やら暗いのやら
明るいのやら・・・よくわからない仕上がりになってしまいました(^^ゞ
ジパングのラストは綺麗に無視(笑)
日吉と秀吉は仲良しさんで暮らしております(笑)


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