流れ出る

ほとばしる


赤き鮮血








この世で最も禍禍しい


アカ




































『情』?
 何だ、ソレは・・・。

 ソンナモノは知らない。
 腹を満たすものでも――――
 虚栄心を満たすものでも―――――

 無い。

 全く役に立たない・・・・・・・・・・無駄なもの。











 そう・・・・・・・・・・・・・・・・・・思っていた。
 あいつに会うまで。































「秀吉ーっ!」
 底抜けに明るい声が自分を呼んでいた。
 振り向けば、大きく手を振りながらこちらへ駆けて来る小さな姿。
 

 おい、足元見て走れよ・・・・・てコケてるしな。


「・・・・秀吉〜〜」
「・・・情けない声を出すな!」
 俺と同じ顔で。
 
 俺は肩をがっくりと落として歩み寄ると、地べたに倒れこんだそいつの手を掴んだ。
「ほら、起きろ」
「ありがとう!」
 笑顔を浮かべたそいつはばしばしっと袴の砂埃を払う。

「・・・・どじ」
「むっ!」
 ぷく〜と膨れた顔は驚くほど幼くなる。
 ・・・自分と同じモノとはとても思えない。


「で、何の用だ?」
 問えば、そいつは首をかしげる。
 おいおい、今の衝撃で忘れたとか言うんじゃないだろうな?

「用なんか無いけど?」
「・・・・・・・・・」
 あっさり言われた言葉に・・・・・絶句した。
「だって目についたんだから、用が無くたって声かけるだろ?」
 当然のように言う。


 今は戦国。
 弱肉強食の時代。
 自分以外は全て、敵。
 何者も信頼するな。
 誰にも心をさらすな。
 信じられるの己だけ。

 それがこの時代の”常識”

 だが、この『もう一人の自分』は違うらしい。
 


「なぁ、何してたんだ?」
「お前こそ、こんなところで何をしている?あいつについてなくていいのかよ」
「だって・・・・・今は濃姫様とご一緒だし、俺居ると邪魔になるだろ?」
「・・・・・あ、そう」
 また余計な気をきかせている。
 ・・・あいつが一時でもこいつを傍から離したいなどと思うわけがない。
 どうせ、またすぐに怒声が城内に響くに違いない。

 俺は目を閉じると、振り返り元の道を進む。
 
「あ、待てよ!秀吉!!」
 それなのに慌てて追いかけてくる、こいつ。
 いったい何だって言うんだ?

「何か用事がある?」
「・・・・・・別に」
 嫌な予感がして俺は気のなさそうに返事した。

「だったら一緒に昼飯食おうっ!!」
 だってさー、一人で食うのって寂しいだろう・・・とぶつぶつ言いつつ、懐から笹の葉に
 包まれたものを目の前に出してきた。
「ヒナタに作ってもらったんだ。秀吉のぶんもあるんだよ」
「・・・・・・・」
 再び絶句した。
 こいつは俺と会えないときのことを考えなかったのだろうか?

「・・・お前、俺と会えなかったらどうしたんだよ・・・それ?」
「え・・・・・別に考えてなかったけど。だって秀吉とはいつも毎日会ってるし・・」
 ・・・・・・。
 確かに・・・・・思い返せば。
 ・・・・・こいつに会わない日は・・・・・・・・・無い。

 何故だ?
 俺はこいつに会うつもりなんか・・・・・無い。
 こいつだってあいつの相手で俺に会う暇なんか、無いはずだ。

 いったい・・・・・・・。
 これはどういうわけだ?



「・・・・血、かな?」
 ふと、聞こえたセリフに心臓が鳴った。
 体が固まる。

 




 ・・・・・・・・これまで、俺は何人を殺した?
 どれほどの血を浴びた?
 この手は
―――――――――――



 赤い血にまみれている。





 その匂いを・・・・嗅ぎつけたのか・・・こいつは・・・・・・・・・・・・











「ほら、俺と秀吉って他人・・・じゃないだろう?こんなに似てて、こんなに近い。
 誰よりも血が近い気がするんだ。だから・・・いつも傍に居る気がする・・・・・・て
 何しゃがみこんでんだよ?立ちくらみでもしたのか?だからきちんと食事はしないと
 ダメだって言ってるだろ」
 勘違いに勘違いを重ねるこいつの言葉に眩暈がする。




 こいつ相手に真面目になるのは馬鹿をみる。
 
 ・・・・・本当に。
 ・・・・・馬鹿らしい。
 

 ――――――――――――笑い出しそうなほどに










「馬鹿・・・・・・・藤吉郎」
 心配げにこちらを伺っていたこいつの顔が瞬時に真っ赤になり、目じりがつりあがった。
「馬鹿秀吉っ!!」
 負けずに言い返したらしい言葉は何とも子供じみていて・・・・

「・・何笑ってんだよ!!」
 
 おかしくて・・・おかしすぎて。
 肩まで奮える。
 腹を抱えて笑いたくなる。


「もう・・・何なんだよ・・・・・・・・ぷっ・・・・・・あははっはははは!!」
 怒っていたはずの藤吉郎が笑い出す。
「ははははっははははっ」
 そして俺も声を出して笑う。

 
 つられた笑いは・・・お互いに止まらない。
 どこまでも。
 どこまでも――――――――――――
















 最後に声を出して笑ったのは・・・・・・・・いつだったろう・・・・・
































「ひーはぁ・・・・」
「・・・・・・・・」
 やっと笑いがおさまった頃には互いに疲れ果てていた。
 地面に横たわり、空を見上げる。

 空には雨雲がわいていた。


「あー、ひと雨きそう。どっかの軒先借りて飯食おう!な?」
 隣に横たわっていた藤吉郎が顔だけ俺に向けて笑う。 
 どうやらこいつの頭の中では”一緒に昼飯を食う”は決定事項になっているらしい。

 そして、俺は。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌ではなかった。
 誰かと・・・・こいつと・・・・・藤吉郎と一緒に居ることに。




 
 足を振り上げ、勢いで素早く起き上がった俺はいまだに横たわってこちらを
 見上げている藤吉郎を見下ろした。




「・・・・・・・さっさと行かねぇと雨が降るぞ」
 藤吉郎は満面の笑みを浮かべて頷いた。




 















 近くの納屋に入った途端、雷鳴がとどろき忽ち雨が降りだした。











 激しい雨。
 大量の水。

 だが、それでも俺の手のアカは落ちはしない。
 これは禍禍しい罪の烙印。
 永遠に消えることなき鎖。




「はいっ、これ秀吉のぶん!」
 見つめていた手元に藤吉郎がぽんっと笹に包まれた昼飯を乗せた。

「・・・・っ!?」
 一瞬、姿を消したアカ。
 それに驚愕する。

 あまりに驚きすぎて、隣の藤吉郎の顔をまじまじと見つめていた。

「え?なに?少なかった?」
 藤吉郎は変わりない。
 変わらない。


 だが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 こいつの周りは変わるのかもしれない。
 そんな不思議なものを・・・・・・感じた。










「・・・・ありがたく貰っとく」
 俺の言葉に目を見開き、一瞬後には笑顔を浮かべた。







 それは雲間に隠れた太陽の如く。
 明るく全てを照らし出す。







 そう、激しい太陽の光の下では全てが――――――――――――
















 白に染まるのだ。













 血のアカでさえも―――――――――――――

























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◆ あとがき ◆

・・・流れてないじゃん(とつっこんでみました/笑)
昔は話を頭の中で考えてある程度進んだところで
タイトルを考えてたんですが、最近はタイトルを先に考えて
内容を浮かべるため・・・よく『題名に偽りあり』みたいになります(おいっ)
それにしても今回やけに日野が語ってくれました(笑)
・・・・御華門、実はコミックスのほんのちょこっと出てきただけの
秀吉しか知らないんですけどね・・・(笑)
・・・・不安だ(汗)

少々修正。呼び方を日野から秀吉へ変更。




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