お正月だった。 お祭り好きの殿様は、家来を集めて無礼講の宴会を開いたとさ。 |
「よしっ!野球拳だっ!!」 下戸でもざるでも今日ばかりはお構いなしに、飲めや歌えの大騒ぎ。 老いも若きも、身分の上下も気にせずやんややんやと盛り上がり、出来上がった信長がそう叫んだ ころには、すでに皆も出来上がっていた。 つまり誰も止める者なく、おしっやったるで〜っ!と気合を入れるばかり。 「勝った奴はどんな褒美も思いのままだっ!」 という叫びにさらにヒートアップする一同。 きっとこの中で素面でいることは誰にも出来なかったのだろう。 一同、円陣を組むとその中心に我こそは、という者が進みでる。 もちろん、この時点で全員参加であることは暗黙の了解で・・・逃げ出す者には容赦なく信長から 天罰が下される。 壮絶なる勝ち抜きバトル・・・負けた者は一同の前で素っ裸にならなければならないというそれは それは恐ろしいゲーム、それが野球拳。 第一回戦第一のカードは 『柴田勝家VS蜂須賀小六』。 見るだけで暑苦しくなること請け合いなこの対戦カードは『んなもんっ見たくねーっ!』『脱ぐなーっ!』 などとの野次が盛んに飛び、勝負は拮抗したが・・勝ったのは柴田勝家だった。 さすがに衆目のある中素っ裸になるのだけは嫌だったらしい勝家の執念の勝利だった。 第二のカードは 『明智光秀VS竹中半兵衛』。 美濃衆同士のこの対戦は、大方の予想どおり竹中半兵衛の見事なストレート勝ち。 さすが、最凶の男との名をほしいままにする明智殿だと打ちひしがれる本人をよそに回りは大いに うけた。 第三のカードは 『万千代VS犬千代』 。 幼馴染対決となったこの大戦は・・お互いに気心も知れ相手の性格もしりつくしているせいか、あいこ を連発し、いい加減にキレた信長に一刀両断された。・・・というわけでどちらも負け。 その後も一益や勝三郎など、多くの家臣たちが勝ちあがり、敗れ去り・・・ついに一回戦最後の カードがやってきた。 場は異様に盛り上がる。 『待ってました〜っ!』 『いいぞっ!やっちまえ〜っ!』 『***てくれぇ〜っ!』などと放送禁止 用語なども盛んに連発される。 その対戦カードとは・・・・ 『石川五右衛門 VS 木下藤吉郎』 「くっくっくっ、日吉。今日こそはその玉の肌をおがましてもらっちゃうよ〜んっ!」 やる気満々な五右衛門は全く酔ってなさそうに見える。 だが、その日吉へと突き出したはずの指は何故か天井をむいていた。 もちろんそんなところに藤吉郎は居ない。 対する藤吉郎は五右衛門の言葉に寒気を感じ、ぷるぷると体を震わせた。 (あ・・厚着してきて良かった・・・・) 今日は寒いからと半兵衛や弟に厚着させられた藤吉郎。 まさかそれがこんなところで役に立とうとは。 そして勝負は始まった。 『や〜きゅうぅ〜すぅるなっら〜!こういうぐあいぃにぃっ!しやしゃんせぇっ!』 男たちのドスのきいた低い声が大合唱すると、部屋中がびりびりと震える。 震度観測機があれば『震度4』程度は感知したかもしれない。 『あうとぉっ!せーふっ!よよいの・・・・・・よいっ!』 五右衛門が出したのはチョキ。 日吉は・・・グー。 「ありゃ?負けちまったぜ〜。あ〜んもぅ〜ちょっとだけよ〜〜〜ん♪」 普段の五右衛門が五右衛門だけに、冗談なのか・・・はたまた酔っているのか・・・たぶん酔っている のだろう・・・気色の悪いシナをつくりながら五右衛門が一枚服を脱ぐ。 「・・・・て、いきなりフンドシかいっ!!」 いつもの忍装束を脱いだ下にあったのはすでに裸。 「いやだってさ〜、忍なんて身軽じゃねぇとやってられねぇっつーの!」 唖然とした一同だったが、たった一度でついてしまった勝負にブーイングが飛ぶ。 だが、勝負は勝負。 無事勝ちぬいた藤吉郎はほっと胸を撫で下ろしたのだった。 そしてやって参りました、決勝戦。 残ったのは。 竹中半兵衛。 そして 木下藤吉郎。 二人ともこれまでの戦いで一度もその服を脱ぐことなく勝ち上がってきている。 脅威の強運の持ち主同士である。 「藤吉郎様、私はあなたの家臣ですが・・・今日ばかりは勝たせていただきます」 不適に微笑む半兵衛は策士の名にふさわしく不気味だった。 「半兵衛、俺だって遠慮しないから! どこからでもかかってこ〜いっ!と気合を入れる藤吉郎・・・ただし千鳥足。 こんな人目の多い場所で素っ裸になど・・・・絶対になりたくない。 藤吉郎には人様に見せたくないものが体のあちこちにあるのだ。 ・・・・何が、とは尋ねてはいけない。 そして決戦の火蓋は切って落とされた! 最初は 半兵衛は『パー』、藤吉郎は・・・・『グー』 ここで初めて藤吉郎は負け、一枚脱ぐことになった。 『ぬ〜げ、ぬ〜げ』のコールが起こる。 とりあえず羽織を一枚脱いだ藤吉郎だったが、それだけで何だかとても小さく見せる。 腕の中にすっぽりおさまりそうなその体躯は、いやがおうにも男たちの妄想を膨らませた。 次の勝負は半兵衛の負け。こちらも本日初めての脱ぎに入る。 藤吉郎と同じように羽織を一枚脱いだ半兵衛だったが、藤吉郎と違うところは見かけはほっそり していても、やはり女性とは違ってどこががっしりとした感はいなめない。 どちらも強運の持ち主であり、また先のことまで察する能力も長けているだけあってなかなか いい勝負を繰り広げる。 あちらが勝てば、次はこちらが。たまにはあいこになってみたり、と。 一同を盛り上げる。 そして。そして!! ついにやってきました!決着の時がぁぁっっ!!!! 半兵衛も藤吉郎もあとは襦袢を一枚着ているばかり。 藤吉郎など油断すると前が開きそうなのを不器用そうに必死で抑えている様は微笑みを誘いつつも 可愛いというか、刺激的というか・・・・・・犯罪である。 あと一枚。取られればあとはふんどし姿をさらさなければならない。 「藤吉郎様、ご覚悟を」 「半兵衛こそ!」 両者、拳を出す手に力がこもる。 周囲の緊張も高まった。 『よよいの・・・・・・・・・・・・・・・・・よいっ!』 「・・・・・・・・・・あ」 藤吉郎は自分の手を・・・チョキを出した自分の手をぼーぜんと見つめた。 ちなみに半兵衛は・・・・・・・・・・・・・・・・・グー。 つまり。 つまりつまり!! 藤吉郎は負けただのだ。 たら〜〜と藤吉郎の頬に汗が流れる。 (うわ・・・・どうしようっ!!!!) 「私の勝ちですね、藤吉郎様」 「・・・そ、そ・・・そうだな・・・」 この人だからりの中で裸にならなければならないのかっ!!!!! 「さて、上様」 「あ〜、何だぁ?」 普通ならここで信長が先に暴れ出してもよかろうに、半兵衛と藤吉郎の勝負を静観していた信長は 半兵衛に胡乱な眼差しを向けた。 「勝った者には望みのものを何でも、と仰いました」 「ああ、言ったな」 「では・・・」 半兵衛は呆然としている藤吉郎に上着をかけると、信長に笑顔で宣言した。 「木下組は本日より一週間お休みを頂きます」 そして、信長の返事を聞くよりも早く、脱兎のごとく城を後にした。 |
え?中途半端でした?
『いい湯だな!』に続く予定です・・(は未定という)
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