■ 運命の輪 ■
++++ If 5
山賊を倒して一足先にトラン入りしたダナたちを後から追う形で、ルカは国境まで来ていた。 商人や一般人が出入りするのをぼんやりと見ながら立っている。 グレミオに、グレッグミンスターで世話になるための手紙を預かったルカだったが・・・ その手紙は、つまり。 グレッグミンスターに居なければ意味がない。 ・・・代物であるわけだ。 ルカは悩んでいた。 この国境をどうやって越えるのか、と。 トランとハイランドはあまり仲がいいとは言えない関係にあった。しかも一度死んで生き返ったルカである。通行証なんてものを持っているわけが無い。 用意周到なくせに、こんなところでダナはボケている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、待て。 (あいつのことだ・・・・・・・・絶対にわかっていて、知らないふりをしてオレが困っているのを楽しんでいるに違いないっ!!) ルカは確信した。 そして、その確信は真実だった。 「貴様・・・っ!!」 国境でどうするべきか迷うこと二日。 警備が手薄になった夜陰に紛れて国境破りをし、土地勘の無い土地に彷徨うこと二日。 漸く辿りついたグレッグミンスターで、薄汚れた風体を晒して胡散臭く周囲に見守られながらマクドール邸に到着すると、ダナはルカを出迎えることもなく、優雅に応接室で茶を飲んでいた。 それを見たルカの発した言葉である。 「やぁ、ルカ。遅かったね」 「・・・・っ!!」 あくまで穏やかなダナの言い様にルカの握り締めた両の拳が震える。 もちろん怒りのためだ。断じて喜びでは無い。 「無事に国境を越えられて何より」 とダナの視線がルカの姿を上下する。 「・・・・汚い」 ブチッィィッッ!! ルカの中で何かがキレた。 「き・・貴様っ!!」 腰の剣を引き抜いて、ルカはダナへと振り下ろす。 それをひょいっと避けたダナは『もうルカは気が短いな〜』と朗らかに笑う。 「気が短い長いの問題かっ!!」 「うん、そうだよね。・・・本当に」 叫んだルカに応えたダナの声が、・・・妙に沈んでいた。ルカは肩透かしをくらったように、振り上げた剣をそのままに、ダナの様子を伺った。 「・・・本当に来ちゃったんだね、ここまで」 「・・・おい」 来い、と言ったのはお前だろうが・・・と眉を潜める。 「だって。・・・・ルカはもう自由なのに。どこにでも行けるだろう?」 それだけ言って、ダナはルカの視線を恐れるように俯いた。 「・・・・馬鹿か、お前は・・・」 びくり、とダナの肩が震える。 「オレを地獄の底から連れ戻しておいて、今さらなそんなことを言うのか!?」 「だって!・・・・僕に、ルカをどうこうする権利なんて無い・・・」 未だ嘗て見たことが無いような、ダナの弱気にルカは衝撃を受けた。 偽者では無かろうかと、思わずじろじろと見てしまった。 「・・・・・・・・・・・・・何?」 「いや・・・・・お前でもそんな弱気な口をきくこともあるのかと感心していた」 「ルカ・・・・・それ、感心するとこじゃないよ」 シリアスな雰囲気が台無しである。 あれほど激していたルカの怒気もどこへやら。 「・・・傍に居ろと言ったのはお前だ」 「・・・・・・・うん」 「一緒に生きろ、と」 「・・・・・・・うん」 「俺はそれを受け入れた」 「ルカ・・・」 「ダナ・・・」 そろそろとダナがルカの顔を見上げ・・・・・・・・・・・・・・・・・にっかりと笑った。 「よしっ!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『よし』? 固まるルカに、ダナは手元から何やら突起物のある丸い物体を取り出した。 「これね、ジュッポていう人に作ってもらった簡易記憶装置なんだ」 ・・・・記憶、装置? 「これでルカの言葉はバッチリ録音しておいたから!」 ほらほら、とダナは突起物の一つを押した。 すると、『・・・傍に居ろと言ったのはお前だ』・・・とルカの声が聞こえてきた。 「な・・・っ!?」 「ふっふっふ、これで言い逃れは出来ないからねっルカ!!あはっ、目覚まし時計に組み込んで毎朝再生しちゃおうかなっ!!」 「き・・・・・・・・・貴様ぁっ!!!!」 剣を振り回すルカに追われながら、ダナは楽しそうに屋敷を駆け回る。 それをグレミオとクレオが穏やかな眼差しで見守っていた。 |
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心配していたとは素直に言えない坊ちゃんです。
坊ちゃんはルカと居るときが一番年相応な感じです。