■ 運命の輪 ■
++++ If 4
バナーの村でグレミオを回収したらすぐにトランへ向かうつもりだったダナは意外な足止めに 遭い、かれこれ1週間というもの宿に世話になっていた。 その意外な足止めというのが・・・・『ルカが倒れた』という驚天動地の出来事だったのだが。 「こういうのを鬼の霍乱って言うんだろうね」 「かなり衰弱されているようで、当分は絶対安静だそうです」 ルカを見た医者の言葉をグレミオが伝える。 「全くひ弱なんだからさ。僕より二周りは大きいくせに・・・やっぱり王宮育ちは駄目だな」 本人が寝ているのをいいことに、ダナは好き放題に暴言を放つ。 もっとも本人が目覚めていても平気で目の前で暴言を放つだろうが・・・。 「それとも生き返ったばかりってやっぱり体力が落ちてるんだろうか?グレミオはどうだった?」 「私はこれといって何もありませんでしたけど・・・」 「じゃ、やっぱりひ弱で決定」 ルカの知らないところで、何とも情けない決定が下された。 「無理に動かしてまた死なれたら生き返すの面倒だし、仕方ない。ここでしばらく養生させよう」 「そうですね」 素直に心配だと言えないダナにグレミオはにこにこと同意した。 「それにしてもこの村・・・いい加減何も無さ過ぎる。退屈。暇。・・・グレミオ、裏に釣堀があるって聞いた から、そこで暇つぶししてるよ」 「はい・・あ、坊ちゃん。私も連れてって下さい」 「え、ルカ一人になっちゃうだろ・・・て、まいいか。こんなの襲う物好きも居ないだろうしね」 酷い言いようだ。 だが、ここにそれを咎める人間は誰一人として居ないのだった。 何か、外が騒がしい・・・ぼんやりとする頭でルカは目を覚ました。 (・・・ここはどこだ・・・?) 見覚えの無い天井に、スプリングの悪いベッド。 ルカは何故か気だるい体を起こしながら、これまでの過程を思い起こす。 確か・・・保護者を向かえに行くとか言って、バナーに・・・・。 「・・・・・・ダナ」 『ダナ様っ!』 「は?」 窓から飛び込んだ声に、ルカは顔をのぞかせた。 すると、ダナが見知らぬ顔に囲まれ・・・ルカの嫌になるほど見知った顔が川に沈んでいた。 「・・・何で、あいつが・・?」 同盟軍軍主ローラント。ルカの敵であった人物だった。 気配を殺しつつ、様子を伺っていたルカの視界の端にグレミオが慌てて走る姿が入る。 坊ちゃん坊ちゃんと煩いほど叫びながら走ってきて・・・・ダナに殴られる。 ・・・・どこか見たような光景に、あの二人にとってはこれが日常茶飯事なのだろうかと呆れた。 とりあえず、今度は殴り力が弱かったのか気絶しなかったグレミオは、ダナに何かまくしたてる。 ぴりぴりと皆の間に緊張が走った。 ダナが愛用の棍を握り締める。 ふと、ルカが覗いていた窓に視線が向いた。 『あとで』 音にはならなかったダナの言葉は確かにルカに届けられたもの。 何が起こったのかは知らないが、駆け出したダナにわらわらとついていく一同。ただ一人、グレミオは 取り残されたのか、宿のほうへと帰ってくる。 「ああ!良かった、ルカさん起きられたんですね!本当にすみません、もう少し養生していただかないと いけないんですけど、大変な事になってまして、私もすぐに坊ちゃんを追うつもりですが、ルカさんは先に トランへ行っていていただけますか?」 「はぁ?」 「たぶん、坊ちゃんはこのまままっすぐにトランへ向かわれると思いますので」 ああ、それで『あとで』という伝言を残したというわけか。 「俺一人で、トランのどこへ行けと?」 「ああ、それは大丈夫です。坊ちゃんがここに、クレオさんに当てた手紙がありますから、これをトランの マクドール家に行って、出てきた女性に渡していただければ全てうまくしてくれると思います」 「・・・・・・」 どこまでも用意周到なことだと、苦笑しつつグレミオからその手紙を受け取る。 「何があったんだ?」 「この宿の男の子が山賊に攫われまして、それを助けに」 「・・・山賊か、あいつには物足りない相手だな。わかった、先にトランへ向かおう」 「では、トランで」 「ああ」 グレミオは宿に置いてあった荷物をまとめると、一目散に出て行った。 「では、俺も行くとするか」 しかし、勢いよく立ち上がったルカはまだ知らない。 己が、国境で途方に暮れることを。 |
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ひ弱かぁ・・・どんどんイメージが崩れていくなぁ(笑)