■ 運命の輪 ■  

++++ If  3  






「そこの者、ちょっと待て」
 国境を守る兵士の声に、フードを深くかぶった背の高い人影が足を止めた。
「フードを取って、顔を見せろ」
「・・・・・。・・・・」
 一瞬、逡巡した人影はぱさりとフードをはずす。
う゛
 その出てきた顔に兵士が思わずうめき声を漏らした。

 ウエーブがかった長い金髪に、ブルーの瞳。彫りの深い顔・・・・・・・と部分部分をとれば問題は無い。
 だが・・・濃い。あまりに濃すぎる。
 こんなに濃くてごつい女が居ていいものか?
 いや、待て。だからこそフードをかぶっていたのではないか?己の不細工を隠すために・・・いや、それに
 しても酷い・・・・哀れな。
 
 以上、兵士の心の呟きである。

 そして、兵士に思わず哀れまれた目の前の濃い女・・・・ルカの女装姿である。
 半ば脅し・・・いや、ほとんど脅されて不本意にもこんな格好させられているため、口もへの字に曲がり、
 眉間の間には皺が寄っている、子供が泣いて逃げそうなご面相だ。


「あ、あの・・姉が何か・・・っ!?」
 そこへ誰かが走りよってきた。
「・・・・・・・っ!」
 兵士は再び絶句する。

 金髪さらさらヘアーに、ブルーの瞳。これは目の前の女性と同じである。
 だが、この少女の・・・何と美しいことっ!
 これまでの兵士の人生の中で・・・いや、一生かかってもお目にかかれないようなまさに、絶世の美少女。
 不安げに眉を寄せる様など、何ともいえぬ庇護欲をかきたてる。

「すみません、姉は口下手で・・・何かご無礼をいたしましたでしょうか?」
 うるうるとした瞳で見上げられ、兵士は慌てて首を振る。
 そのままどこかに飛んでいきそうな勢いで。
「ああ、良かった・・・では、私たちは参らせていただいてもよろしいでしょうか?」
 こくこく。
 兵士は何もいえず、ただ頷く。
 淡くほころぶ花のような笑顔が少女の顔に浮ぶにいたって、兵士はただ二人を呆然と見送るだけだった。









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「ああ、もう驚いた。バレたのかと思ったじゃないか」
「・・・・・。・・・・・それはかなり嫌な状況だな」
 ルカが実は生きているということがバレるより、女装していたということがバレるほうが痛手は深い気が
 する。
「そうだよ。せっかく僕までルカに付き合って女装してるんだから・・・苦労が水の泡だなんて冗談じゃない。
 ま、これで国境は越えたしあとはトランまで邪魔は入らないかな」
 ね?とルカに首を傾げる様は、どこからどう見ても美少女。
 素がいいと、仕上がりも最高級品が出来るらしい。ルカも見惚れた。
「ここからちょっと行ったところにバナーの村があるから、そこで僕の保護者を拾って小休憩してからトランに
 向かうけど・・・・当分はその格好しておくように」
「・・・・・・・・当分・・・・・・」
 ダナの言葉に何だか目の前が暗くなってきたルカである。
「はいはい、元気出していくよ〜っ♪」
「・・・・・。・・・・・・・・」
 お前、何か性格変わって無いか・・・・・?
 あまりに元気すぎるダナとは反対に、ますます体が重くなるルカだった。








「そういえば、このあたりはお前と出会ったところじゃなかったか?」
「そうだよ。よく覚えていたね。ルカって三歩歩いたら忘れるタイプだから、絶対忘れてると思ってたのに」
 人を鶏か何かと勘違いしている。
「・・・他の奴ならともかく、お前と会った場所を忘れるはずがなかろう」
「なかなか心くすぐる口説き文句だ」
 くすくすと笑う。・・・笑われてはそのつもりで言ったルカが報われない。
「でも、世間一般で言うとルカが僕にやったことって、脅迫にはじまって、拉致監禁・・・・犯罪者だねv」
「・・・・・・・・。・・・・・・・・悪かったな・・・」
「悪いと思ってるんだ?」
「・・・・・・・・・。・・・・・・・・後悔はしておらんが、な」
「良かった。後悔してる、なんて言われてたら速攻黄泉送りだよ」
「・・・・・・・。・・・・・・・」
 ダナの悪いところは本気と冗談の区別のつかないところだ、とルカはしみじみ思うのだった。
「それにしてもルカ、もうちょっと速度あがらない?これだとバナーに着く前に日が暮れる」
「・・・仕方なかろう。こんな歩きにくいものを着て、素早く動けるか」
 あまりいい道とはいえない街道である。
「動けるよ」
「・・・・・・。・・・・・・・」
 言葉どおりダナは普段と変わらぬ速度で歩いている・・・が、それを普通と思われては困る。
「・・・・世間一般の男は、こういうものを着て歩くのに慣れていないんだ」
「これは一本取られたね。確かにその通りだ。・・・・仕方ない」
「??」
「これに着替えて」
「・・・・・・・・。・・・・・・・・・・あるならさっさと出せ」
 ダナが麻袋から取り出したのは、平民が切る簡素な木綿服。
「だって、ルカは自覚ないかもしれないけどその長身で、その目つきの悪さ・・・目立つんだよ。それを
 カモフラージュするには女装するのが最適だったんだから・・・用心のためにもう少し女装のままで居た
 ほうがいいんだけど、これ以上遅くなると面倒だし、疲れるから」
「・・・・・・・・。・・・・・・・」
 ルカは無言で、ダナから服を受け取り着替えた。
「さ。さっさと先に行こう」
「・・・・・・・」
 ルルノイエを居た頃には、平民がする服装などしたことも無く、したいとも思ったことは無かったが・・・
 女装するよりは遥かにマシだと、しみじみ木綿服に感謝したルカだった。
 ありがとう、木綿服。俺はお前を心の友と呼ぼう・・・。
「ルカ〜早く〜」
 しみじみと木綿服と親交を深めていたルカにダナの声が呼んだ。








「やっと着いた。・・・久しぶりだけど、全然変わってないな・・・グレミオ居るかな〜」
 突然何も言わずに姿を消したダナを探してどこかに行ってしまったかもしれない。
 まぁ、その時には放ってトランへ行こう。そのうち嗅ぎ付けて戻ってくるだろうし・・・。
 (坊ちゃんっ!私は犬ですか!?)
 ・・・とグレミオが居れば叫んでいたかもしれないが、きっと似たようなものだと皆証言してくれることは
 間違いない。
「おい、ダナ・・・」

「ぼぼぼ・・・・・坊ちゃん〜〜〜っ!!!」
 涙ぐしょぐしょの顔で、向こうのほうから駆けてくる人影あり。

「ん〜、なつかしい呼び方だ・・・だけど」



 ぼぐっ。


「はうっ」
「・・・・・・。・・・・・・・いいのか?」
 ダナに殴られ、地面に沈んだグレミオをルカが指差す。他人事とは思われず、放っておけない。
「だって煩い。目立つのは困るんだっていつも言ってるのに学習しないのが悪い」
「・・・・。・・・・とりあえず途中で拾うといった保護者はこれか?」
「うん、これ」
 拾うよりはトドメをさしに来たのでは・・?と心の中で思ったルカだが、懸命にも言葉にはしなかった。






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漫才コンビご一行のような・・・(笑)
本編が暗いぶん、こっちは明るくということで・・・