ダナ=坊ちゃん
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マクドール家の食堂には珍しく主であるテオとその息子であるダナが揃っていた。 テオは仕事柄忙しすぎてなかなか家に居ないし、ダナは最近神出鬼没になりつつある。家人でさえ行方がわからない。 グレミオが反抗期なのかとクレオに相談していたが、寧ろお前が子離れをしろと諭されていた。 そんな二人が食堂に揃うのは……一ヶ月ぶりくらいになるだろうか。 「父上」 グレミオが腕を振るった料理に手を付けながら、次の料理が運ばれてくるまでの間にダナがテオに話し掛けた。 するとテオがびくりと体を震わせ、そっと視線を逸らす。 何やったんだ、この人。 クレオは同じテーブルに付きながら遣り取りをそっと見守っていた。 「父上」 しかしそんな様子がおかしいテオに構うことなく、ダナは満面の笑顔で話しかける。でもちょっと怖い。 「父上、良い返事はいただけましたか?」 「うむ、いや、その……」 言葉を濁すテオにダナの笑みが深くなる。 「まさか、まだ言ってないなんて仰いませんよね?」 あそこまで自分がお膳立てしたのに、と言外にダナは詰め寄る。 「いや、言ったっ……言ったのだ」 何やらテオがしょぼんとした空気を醸し出す。 もしや、とクレオは大人の女性としてある推測を立てた。 「はいっお待たせしました!メインディッシュのほろほろ鳥のディアボロ風でございますっ!!」 ばーんとグレミオが料理を持って現れた。相変わらず空気が読めない男である。クレオが額を押さえた。 「ソニアさんにふられたんですか?」 あ、言葉の剣がテオ様に突き刺さった。 ダナの直球にテオが瀕死のダメージを負っている。 「そうですか。やはり年が離れ過ぎているのが駄目だったんでしょうか……ソニアさんほど美人なら幾らでも相手は居るでしょうし、こぶ付きのバツイチをわざわざ選ぶ必要はありませんよね」 ぐさぐさとダナの言葉がテオに突き刺さっている。 容赦が無い。最近のダナは本当に父親に容赦の欠片も無い。 「それで、父上はどうされたんですか?あっさりとそれをはいそうですかって頷いて帰って来られたのですか?」 「……彼女の、決意がそうで、あるなら、ば……」 「馬鹿ですか」 「「……。」」 クレオはともかくさすがのグレミオも皿を運んできたままの姿勢で固まっている。 テオなどもう風前の灯火のごとし。 ダナの手がトントンとテーブルを叩く。 「こんな父上に今まで付き合ってくれたソニアさんが父上を嫌っている訳が無いでしょう。そんなこともわからないなんて、男って本当にどうしようも無い生き物ですね」 貴方も男ですけどね。 クレオは心の中で突っ込み続ける。 「そんな一度断られた程度で諦められる、その程度の想いだったのですか、父上」 すっとダナの笑顔が消え、冴えた表情を見せる。そんな顔をするとダナの美しさがいや増して、圧倒される。 「どんな覚悟でソニアさんが父上と付き合っていたと思っているんですか。お互いの立場、そして私という存在。一生日陰の身として生きていく覚悟さえしていただろうあの人が。何故、身を引こうとしているのか」 「……」 テオがまじまじと淡々を言葉を綴るダナの顔を見ていた。 「全て、貴方のことを思ってこそでしょう」 ダナはそれを告げると、ナプキンで口を拭って立ち上がった。 「グレミオ、悪いがそれはお前たちで食べておいてくれ」 「ぼぼぼ坊ちゃんっ!?」 「僕は用事が出来たから。夜には帰る」 「ちょっ……坊ちゃんっ!!何処に〜〜っ」 颯爽と出て行く後姿をグレミオが慌てて追いかける。 「……」 「……」 気まずい。 非常に気まずい空気が残されたクレオとテオの間に流れていた。 ダナは予想通り、ソニアの家を襲撃していた。 「単刀直入に申し上げます」 夜分のダナの訪問にソニアはいったい何事かと訝しみながら居間に通すや、座る暇もあらばこそ。ダナは告げた。 「父と結婚して下さい」 「く……っ」 ソニアの目が大きく見開かれる。 「貴方の想いなど全くわかっていない不甲斐ない父ですが、貴方の父へ向ける想いは本物です」 「……」 ソニアの顔色が青い。 「貴方が何を柵に思い、父の求婚を断ったのか理解しているつもりです」 「っ子供が何を……っ」 ふ、と嘲るようにダナの片頬が上がる。そんな表情も麗しい。 「父にとっての貴方だって、子供同然ではありませんか?」 「……っ」 「それでも二人は大人として関係したのでしょう?外見だけの年齢で事を考えないで下さい」 「……すまない」 そこで素直に己の非を認めて謝ってしまうところがソニアだった。 「私は父の後を継ぐつもりはありません」 「何を言ってっ」 「物理的に不可能なんです。私は不老の身となりましたから」 「なっ!?」 「父を看取ることも難しいかもしれません」 「っ!」 ひゅっとソニアが息を呑む。 「私と父の道はそれほどに分かたれたのです。父を支えることは出来ない」 「何故っそのようなことを言うっ!テオ様がどれほどお前を自慢に頼りにしていたことかっ!」 「そうですね。私も父は誇りでした。ですが、それよりも譲れないものがあるんです」 「そんなものがっ」 「誰にも侵すことは許さない」 それは絶対者の言葉だった。誰にも否定はさせない。否、出来ない。 ソニアも唇を震えさせるだけで、何も言葉にすることが出来なかった。 「ですから」 ダナが瞼を閉じ、開けると重い空気が取り払われた。 「老後を一人寂しく送ることになるかもしれない父を憐れと思うなら、父と結婚してくれませんか?」 お願いします、とそこだけ子供らしく首を傾げて上目遣いで手を合わせるダナに、ソニアは絶句した。 |
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ソニア嫌いだったんですが、書いてて楽しくなってきました。
・・・・・・坊ちゃんが楽しそうにいじめているからか?(おい)