ダナ=坊ちゃん
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「そろそろ無理かな、とは思っていたんだ」 上を見上げてダナは呟いた。 その日、ダナは朝からテッドの家を襲撃していた。 訪問では無い。襲撃だ。 「あ、そこの窓にも板打ち付けておいて」 一人ではなく、大工らしき者たちを引き連れて。 「お、おいっ」 呆気にとられるテッドをしりめにダナは次々と指示を出していく。 いったい何なのだ。 「おいこらダナっ!」 「あ、テッド。ちょっと煩いけどすぐに終わるから」 「っじゃなくてだなっ!説明しろっ!何なんだよっ!?」 ドンカン、ドンカン各所から響いている音にただ事では無いとテッドは目を白黒させる。 「ちょっと待って、時間が無いからこれを終わらせてから説明するから。お願い、テッド」 「〜〜っわかったよ!」 上目遣いのダナのお願いはわかっていても、無碍に断ることが出来ない攻撃力があった。 このお願いに抵抗できる者は今のところ、生存して居ない。 「……で?」 「まあ、座って座って」 目を据わらせたテッドに、やりきった感溢れるダナは我が家のごとく、椅子を勧めた。 「テッドは、ハルモニア神聖国。知ってるよね?」 「そりゃあ、まあ……知らない奴のほうが少ないだろ」 「じゃあ、ヒクサクのことは?」 ダナの名を口にするのも忌々しいと言わんばかりの様子にテッドは目を瞠る。ダナが他人に対してこれほど嫌悪を見せるのは初めてのことだからだ。 ハルモニアのことはテッドの長い人生で多少の関わりはあった。ヒクサクという名も知っている。 しかしその姿を直接に見たことは無い。 「神官長だろ」 「そう四百年以上生きてる化石だよ」 一言一言に毒がある。いつもの笑顔を浮かべて言っているところがまた。 「あいつの目的は知ってる?」 「……いや」 「真の紋章を集めること」 テッドの眉が寄った。 「あいつはずっとそれを目的に生きているんだよ。だから、この家の周囲に紋章を気取られないように囲いを作ったんだ。テッドの右手にあるのも真の紋章だからね」 「何で今さら……」 テッドがグレッグミンスターにやってきてかなりの月日が経っている。 「うん、今だからこそかな。皇帝が居た赤月帝国だったからこそヒクサクは手を出してこなかった。けれど、その赤月帝国はいつの間にかトラン共和国なんてものに姿を変えていた。その情報が漸くヒクサクに届いたんだろうね。ふふ、遅いよね」 含みがありすぎるダナの笑いだ。 「覇王の紋章で張っていた結界も破られたし」 「おいっ!」 さらっとダナは重大なことを告白した。 現在覇王の紋章はダナが所持している。それもまた真の紋章の一つである。 つまり狙われるのはテッドばかりでなく、ダナも狙われるということだ。 「今、覇王の紋章が皇帝の元に無いことはバレたと思う。このエリアに他に強い力を持つ紋章があることも。だから、テッドのことがバレないように色々やってみました」 「……」 その結果が朝からの大工事だったらしい。 「ここ、借家だろ」 「大家さんにもちゃんと話は通してるよ。問題無くなったら現状復帰もするし」 そうだろうとも。そのあたり抜かりないダナである。 テッドが悪態をつきたいのはそんなことでは無い。何も知らず、暮らしていたことに。何も言ってもらえないことに。 「……言えよ」 相談しろよ。 それはハルモニアなんて大きな存在に対抗するにはテッドなど小さな存在だろう。 だが、それでも。 「ごめん。でもテッドには、のほほんと暮らして貰いたかったんだ」 「何だそれ」 「のほほん」とはまるで頭にお花が咲いたような表現ではないか。 「僕はテッドに会えて、凄く楽しいんだ。一緒に居られて嬉しい」 「お、おう……」 時に、ダナは意図せず直球の感情を打ちつけてくる。 テッドは受け止めきれずに慌てることしか出来ない。 「ずっと、こうして楽しくいられればいいって思う」 それはまるでそれが「無理なこと」と言っているように聞こえた。 それがテッドが気に入らない。 何もかもわかったような顔をして。未来など誰がわかる?例えダナでも、未来など不確定なものだ。 だからテッドは気に食わない笑顔を浮かべるダナの額を小突いてやった。 「いたっ」 「バーカ。ガキがうだうだ考えてんじゃねえよっ!楽しいなら、素直に今を楽しんでろっ!」 「テッド……でも」 赤くなった額を押さえてダナが恨めしげにテッドを睨む。 「その時はその時だっ!俺はそうして生きてきた。……一人でも」 「テッド」 「そして、今はお前が居る」 ダナが目を瞠った。 「ヒクサクが何だ。そんなもん俺とお前で追い払ってやろうぜっ!」 「……うん」 テッドが握った拳を目の前に上げれば、ダナも了解と拳を打ち付ける。 「そうだね。いざとなったらソウルに食べて貰ったら良いか」 ダナの言葉にテッドの右手が嫌そうに蠢いた。 |
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