ダナ=坊ちゃん
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ここは赤月帝国……否、トラン共和国首都グレッグミンスターにあるお洒落なレストランである。 天井から下がるシャンデリアの光が眩く、上品にテーブルを照らしている。 男と女が黙って見つめ合っている。 少々曰くありげな二人を見つめる視線は無い。 ここは余人に知られない個室なのだから。 「……ソニア」 「テオ様」 二人はそれぞれにグラスを手にとって気まずそうに乾杯した。 「今日は……突然にすまない」 「いえ……」 そのまま二人の間に沈黙が落ちる。 何故二人がこんなところで顔を合わせてしまっているのか。 それは全て、テオの息子ダナ・マクドールの仕業である。 この席をセッティングし、二人を強制的にここに招待した。 テオとソニアは、男女の関係である。それは周囲に周知していなかった。殊更隠すことでも無かったが。 しかし、まさかダナに知られているとは夢にも思っていなかった二人である。 気まずい。ひたすらに。 こういう場をセッティングされるということは反対されていないということなのだろうが。 「ご子息は、何を……お考えなのでしょうか?」 「ダナは、あれは……」 テオは黙考する。 「変わってしまった……否。あの子は」 変わっていない。 テオを真っ直ぐに見つめ、誤りを突きつけた姿は……否応無く亡くなった妻を思い出させた。 『父上、母上との約束を……覚えていらっしゃいますか?』 ここに来る前にダナはテオに対してそう言った。 テオは妻との約束のことなどダナに話したことは無かった。 何故知っていたのか。 『僕は……私は母上の裔です。父上』 悩むテオをソニアは何かを覚悟したように見つめていた。 何故愛してしまったのか。親子ほどに年の離れたこの目の前の男を。 二人の関係は誰も祝福しない。意味の無いものだから。どこにも利益を齎さない。 しかし戦場で生きる姿に、戦場外の不器用な姿に惹かれてしまった。 だからこそ己でエンドマークを記さなければならない。 変わり行く……変わってしまったこの国のために。 「別れましょう」 「結婚しよう」 真反対の言葉がぶつかり合った。 「恋のキューピッドをしてみたんだ」 「はぁ?」 城でのセレモニーの後、テッドを尋ねてきたダナはそんなことを言った。 「お前なあ……自分が恋もしかたことねえ奴が恋のキューピッド?片腹痛い」 「そういうテッドはあるわけ?」 ダナに放ったブーメランが即座に戻ってきた。 「そ……そのくらいあるっ!」 「へえ。相手はどんな子だったの?可愛かった?」 ダナがどんどん突っ込んでくる。この話にこれほど食いつくとは予想だにしていなかった。 「お前、そんなことに興味がある奴だったか?」 「だってテッドのことだもん。知りたいでしょ?」 「……っ俺の反応面白がってるだけだろっ!」 「それもある」 テッドは手元にあった変な像を投げた。ちなみにこれもダナが無断で持ち込んだものだ。 もちろんダナはあっさりと避ける。 「……で?」 「ん?」 テッドの促しに、ダナは首を傾げる。胡散臭い。 真意の覗かせない微笑をテッドは睨んだ。 |
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