ダナ=坊ちゃん
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ダナの容姿を見ればわかるように、ダナの母……つまりテオの妻という人は非常に美しい人だった。 ただ佳人薄命という諺の通り、ダナの幼いうちにこの世を去っている。 「だから僕は構わないと思うんだよ」 「何をいきなり」 最近あちらこちらに顔を出して忙しいダナがテッドの家に菓子を土産に顔を出した。 別に珍しいことでは無い。一昨日も来た。 しかし来て早々に「だから」で話をされてもテッドにはわからない。 とりあえずグレミオ作らしい……シチュー以外もちゃんと作れる……菓子を口に入れて尋ねてみる。 「父上の再婚」 ぶっとテッドの口からクッキーの欠片が飛び出した。 もちろんダナは余裕で回避した。 「な……っさ、再婚っ!?」 「うん。息子の僕が言うのもなんだけど優良物件だよね」 財力も権力も名声もある。 息子のダナの前でさえ無ければ、将軍らしく男ぶりも良い。 「最大の障害は僕かな」 ダナは非常に良くできた、出来すぎたご子息である。 その母親になろうというのはテオの妻になるというよりハードルが高いのでは無いか。 「いや、そもそもテオ様にそんな相手が居るのかよ……」 テッドの見る限り、テオは割と……いやかなりの戦闘馬鹿である。 「居るよ」 「へー……てっ居るのかよっ!」 テッドが驚きで飛び上がる。 「驚くよね。あの不器用そうな父上が、やることはやってるんだから。男って」 「……」 お前も男だけどな……テッドはその台詞を呑み込んだ。 「あーまあ、でもお前が反対してないってことはその相手ってのは悪く無いんだろ?」 ダナのお眼鏡に適わないのならば人知れず存在を消されたはずだ。 話題にさえしない。 「僕は悪くないと思っているよ。父上の老後を見てもらうには最適じゃないかな」 「老後って……本当にお前、テオ様に容赦ないな」 「これでも一人息子として父親のことを考えてあげているんだけど」 一人息子に愛人の存在を知られていて、老後の心配もされているなど知ったらテオ将軍は泣くだろう。 「で、その相手って誰?俺も知ってる人?」 「ソニアさん」 「え?」 「ソニア・シューレンだよ」 再びテッドは絶句した。 ソニアといえばテオと同じ帝国六将軍の一人。ただのソニアなら別人の可能性もあっただろうがダナがわざわざフルネームで言うということは間違い無い。しかもテオとはかなりの年の差がある。 何がどうなってそうなった……テッドは男女の関係について行けず頭を抱える。 「テッド、それとなく父上に言ってみてくれない?」 「無茶ぶり過ぎるぜっ!」 無理である。 「そうだよね、ここはソニアさんに言ってみようかな……いざとなった時の決断力は父上よりありそうだし」 「お前なあ……」 何故そうもいい大人の二人のことに口を出そうとするのか。 「ソニアさんには、父上の跡継ぎを産んでもらいたいんだよ」 今までの会話と同じように軽い口調でダナは聞き捨てならないことを口にした。 「跡継ぎ?」 「そう。だって僕はマクドールを継げないから」 「……どういうことだ」 テッドの声が低くなる。 「どういうことも何も、僕では血を繋げていけないから」 バンッ!とテーブルが大きな音を立てた。 「ダナっ!」 その理由を察したテッドは眦を吊り上げる。 「落ち着いて、テッド。僕はそれについて不満も不安も抱いてはいない。予定調和と言われると少々腹は立つけれど、それなりに結果としては満足している」 「紋章を外せば……っ」 「その気は無いよ」 ダナの手にあるのは覇王の紋章。真の紋章は宿主に永遠の命を齎す。 テッドはダナの言葉に腹を立てながらも、どこかで喜んでいる自分を見出し拳を握った。 「テッドが駄目なら……誰に頼もうかな」 葛藤するテッドをよそにダナは新たなる犠牲者を探し始めた。 海上訓練から帰って来たばかりのソニアは突然に訪れたカシム・ハジルに戸惑っていた。 そして当のカシムも戸惑っていた。 いきなり訪ねて来た親友の息子に仲人のような真似事をしてくれと頼まれたのだから。 「カシム様?」 ソニアと同じ帝国六将軍という立場のカシムだが、歴戦の英雄であるカシムは尊敬に値する相手である。 自然と対応も丁寧になる。 「あー、いやソニア……実はだな」 非常に煮え切らない。 いつも飄々としたカシムからは想像できない態度だ。 「テオの……息子のことを知っているか?」 「それは、はい」 一瞬、テオの名にどきりと心臓が脈打ったソニアは素直に頷く。 「よく出来たご子息だと伺っています」 「……ちょっと出来すぎた奴ではあるな」 「はあ……」 それがどうしたのか。カシムの来訪の趣旨が理解できない。 現在すでに帝国は崩壊している訳だが指揮系統の混乱を最低限に抑えるために軍属への情報が制限されている。 カシムにはすでにそのことが伝えられているが、グレッグミンスターを離れていたソニアはまだ知らないのだ。 テオの親友であるカシムはもちろんダナのことも幼い頃から知っている。 文武両道の出来た息子であるとテオが自慢していたのも知っていたが、暫くぶりに顔を合わせたダナは別の何かに化けていた。 そうとしか思えないカシムだった。 しかしそれは悪では無い。 手を貸して欲しいと真摯に頭を下げる姿は本物だった。 だからカシムも協力することにしたのだが、どうやって話を切り出せばいいのかわからないのだ。 「お前、テオと付き合っているのか?」 「!?」 そして結局、単刀直入に聞くだけになった。 名将カシム・ハジルとは思えない仕儀である。 「……それはいったい誰から、テオ様が何か……?」 「あー、いや……つまり、それだ」 「それ?」 「テオの息子、ダナから話を聞いた」 再びソニアの目が見開かれた。 「テオは男やもめだ。ソニアさえ良ければあいつと一緒になってくれないか?」 「は……」 ソニアは混乱する。 テオが言うならまだしも、何故カシムから。しかもテオの息子であるダナ経由で。 「テオと話してくれ。あいつも待っている」 そのへんのお膳立てはダナがすると太鼓判を押していた。いい笑顔で。 「とにかくよろしく頼む」 それだけ伝えてカシムはさっさと逃げるように去っていく。 残されたソニアは混乱したまま、テオを思い浮かべていた。 (よろしく頼むと言われても……) ぼっとソニアの頬が朱に染まる。 テオのことをソニアは慕わしく思っている。 互いに忙しいので、そう頻繁に会える訳では無いが偶の逢瀬で大人としてそれなりな関係を築いている。 しかし結婚となると二の足を踏むのだ。 ソニアにはソニア・シューレンとして家を守っていく義務がある。 ただすでに三十を越えているソニアが家を守ると言っても今さら遅いと周囲から言われるだろう。 テオの方だとて立派な息子もおり、余計な火種を抱え込むことも無い。 だから互いに暗黙の了解で今のままの関係で居たのだが……。 「テオ様……」 カシムは言った。 テオが、待っている……と。 半ば諦めていた女の幸せを追い求めても良いのだろうか。 |
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ソニアさんは割りと嫌いなキャラでした。
だってねえ、坊ちゃんを問答無用で罵ってくれたし。
でもこの話ではテオ様死なないし、違う関係を築くのではと。