ダナ=坊ちゃん

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 ダナはグレッグミンスターの城を訪れていた。
 遠征に出ていたテオ将軍が戻ったのだ。もちろん勝利をおさめて。
 家で待っているつもりだったのだが、レパントに頼まれ……頷かなければ泣いて縋りつかれそうだったので……こうしてレパントの傍でテオたちを出迎えた。
 言っておくがただの(・・・)子供であるダナにはどんな肩書きも無い。事情を知らない人間が見れば、何故ここに子供の姿があるのかと疑問に思うだろう。
 しかし残念ながらこの場にはそれを誰も疑問に思うものが居ない。良くも悪くもダナが普通で無いことを知る者たちばかりだ。そしてその半数以上が心酔している。
 ダナにはいい迷惑でしか無い。何が嬉しくていい年したおじさん方のきらきらしい眼差しを受けなければならない。
 多少の……あくまで多少の責任感を感じているから我慢している。
 いきなり王政が廃止され、戸惑っているのは両者とも同じだ。
 しかし元に戻すことを許すつもりは無いので慣れて貰わなければならない。

 そんなちょっと微妙な空気が漂う中、レパントとテオ以下将軍たちは凱旋の報告を受けていた。
「さすが音に聞こえた猛将でいらっしゃる」
 嘗て玉座があった場所は高段を破壊し、全てがフラットになっている。
 レパントとテオは同じ位置で互いに向かいあい、握手をかわした。
「お疲れのことでありましょうが、是非今宵の祝勝会へご参加下さい」
「お気遣い感謝する。この国を守ることが我らの勤め。当然の義務を果たしたまで」
 確かに、王が国を傾けていた時もテオは将軍として対外的にその強さを誇示して、国防に勤めていた。
 そこでちらりと伺うようにテオはダナを見た。
 知らない人間なら気難しい顔のテオが父親の威厳を示しているという風にも見えたかもしれない。
 しかしテオの背後に控えていたアレンとグレンシールは知っている。テオの本当の心の裡を。

 父はしっかりやったぞ!どうだ!褒めてくれ!……これで許してくれるよね?

「さすが父上。父上の武勲は私の誇りでもあります」
 その心中もしっかりと汲み取っているダナはにっこり笑って褒めていおいた。
 飴と鞭はしっかりと使いわけなければいけない。
 テオ将軍は厳しい顔で内心狂喜乱舞していることだろう。
「アレン、グレンシールも父上をよく支えてくれた」
 そう声をかけたダナにアレンは感無量で涙ぐんでいる。
 グレンシールは穏やかに微笑み、会釈を返した。
「卑小なる身が幾ばくかの助けになりますれば幸いにございます」
「ふふ、グレンシールは遠慮深いな。グレンシールには本当に感謝しているよ」
 グレンシールが居なければ暴走するテオとアレンを誰も止められない。戻ってくるのもまだ先になっていただろう。
「ダナ様のそのお言葉だけで報われます」
 その隣で相棒のアレンがダナが一人だけ声をかけられたグレンシールに嫉妬の視線を向けている。
「……アレンも」
「はいっ!」
「あー……元気そうで何よりだl」
「はいっ!」
 え?今の褒め言葉だったか?
 そう疑問に思った者も居ただろうが、脳筋のアレンは気づいていないのだからそれでいいのだ。
 そこで横からも視線を感じていたがダナは無視した。
 何でレパントにまで声を掛ける必要があるのだ。

 ……おかしいな。奥さん誘拐イベントは回避したのに。

 テッドが居たらなら肩を叩きながら言ってくれただろう。
 お前は自分を知っているようで知らない。いくら逃げてもなるべくしてなるものは、結局なるのだと。
「では、私はこれからマッシュと共に学校について話さなければなりませんので失礼致します」
 学校の建設には最終的にはレパントにも加わって貰うが最初から居ると話が進まない。
「ダナ。祝勝会には……」
「もちろん参加致します。父上」
 内輪だけのものならダナは無視しただるう。どれほど懇願されても。
 しかしこの祝賀会は同盟を破り、赤月帝国改めトラン共和国が始めて手にした勝利の祝い。
 他国からの使者も招かれている。
 トラン共和国、侮りがたしと国力を示す場所でもあるのだ。
 それはこれからの国の行く末を定めるものでもある。

 誰にも介入はさせない。
 ……ハルモニアに隙は見せない。













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ここまで来ると1の本編が全く関係なくなってきますね。