ダナ=坊ちゃん
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「さてと……」 霧に包まれた廃墟の手まで立ち止まったダナは空に向かって叫んだ。 「ルックーっ!見てるんでしょっ!手伝って!!」 「何やってんだ?」 叫んだ空には何も無い。霧で霞んだ空が見えるだけだ。 「ふふ、覗き魔ってマナー違反だと思わない?どうしようかな……怒りの一撃がいい?」 にこやかに物騒なことを言うダナを見てテッドがわかることは、素直に従ったほうが良いということだ。 「……何か用」 二人の背後から掛かった声は不機嫌そうなルックのものだった。 「高みの見物だけって卑怯でしょ。そこは手伝ってくれないと」 「……君一人でどうにでも出来るだろう」 「使えるものは使ったほうが、お互いに楽だろう?それにちゃんとルックは来てくれたからね」 脅しておいてちゃんとも無いものだが。 「さてと魔物の掃除を始めようか。準備はいい?」 掃除、というのは魔物の掃除だったらしい。 ルックはむっつりと、テッドはへいへいと軽く返事を返した。 それが間違いだとわかったのは廃墟に入ってすぐのことだった。 長年放置されていた廃墟の中は魔物の巣窟となっていたのだ。掃除をするというから二人とも居るだろうとは想像していたが、その数が想像を超えている。 「おい……っ」 テッドの脇をルックが放った切り裂きの風が通りすぎるのをぎりぎりで交わす。 「突っ立ってると危ないよ」 「お前なぁ……っ」 「ほら、喧嘩しない。次が来るよ」 休む暇も無いとはこのことである。一戦終えるとスタンバイしていたように次の群れがやってくる。 普通の人間なら魔力が尽きるか疲労で餌になっていたことは間違いない。 「何なんだよっ多すぎだろっ!」 「んー住み心地が良かったのかな?」 首を傾げるダナは、襲い掛かった魔物を棍の一撃で吹っ飛ばしている。 その細腕のどのあたりにそんな力があるのか、謎である。 「まあ、でもそろそろ打ち止めかな」 ルックの風が最後の群れの一頭を始末したところで周囲から魔物の気配が消える。 「やっと終わ……」 息をつこうとしたテッドは、今までとは比べものにならない邪悪な気配に背筋をのばして慌てて周囲を見渡した。 「最後の親玉だね」 ダナが示した先……崩れかけた壁から巨大な爪が現れる。 「ドラゴンゾンビ……」 「アンデッドになっても元気だよね」 そういう問題か。 凶悪に気持ちの悪いドラゴンゾンビの巨体が三人を踏み潰さんと迫ってくる。 「テッド。僕が足を止めるから、とっとと引導渡してくれる?」 「……仰せのままに」 ソウルイーターで即効始末しろということだとテッドは理解した。 「ルックは万一に備えて治療準備を頼むね」 「君、一人で挑むと?」 「心配してくれてありがとう」 「なっ……勝手にしろ!」 微笑んだダナは棍を構えて迫りくる巨体に走っていく。 掠りでもすれば致命傷にもなりかねない爪の一振りをかいくぐり、床を蹴るとその腕を軽快に駆け上がっていく。 鬱陶しそうにするドラゴンの顔面にいつ用意したのか凍結の魔法を放つと、脳天に棍の重い一撃叩き込んだ。 ドラゴンの巨体がたまらず背後に倒れ、周囲の柱や壁が崩れ落ちる。 魔物をわざわざ一掃するからには、ここを何かに使うつもりなのだろうが大丈夫なのか。 最後にとどめを刺すべくソウルイーターの発動を準備しながら、テッドの顔が引き攣っていた。 無事にドラゴンゾンビを始末した廃墟は魔物の気配も無く、静かだった。 「わざわざ魔物を倒しにきて、ここを何かに使うのか?」 使うにしてもこの廃墟具合からすると、かなり手を入れなければ使い物にならないだろう。 「んーマッシュとオデッサさんに教育のことを頼んだから学校にしようかな。整備は大丈夫。父上に頼んでおくから」 「……。……」 テオ将軍が不憫だと思うのはテッドだけだろうか。 「レパントさんじゃ無いのか?」 「レパントはね……今は普通だけど放っておくと何を作るかわからないから」 何やらダナが遠い目で空を見上げる。いったいこれからレパントに何があるのか。 ダナにこんな目をさせるほどに凄いことがあるのかと他人事ながらテッドは恐ろしくなる。 実はただ単に行き過ぎた英雄狂信者になるだけなのだが、それが一番問題なのかもしれない。 「僕は帰らせてもらうよ」 「ありがとう、ルック。助かったよ。レックナートにもよろしく……覗き見は天誅だよと伝えておいて」 「……。……」 是ともなく微妙な表情を浮かべたルックが風の魔法で姿を消した。 「ルックも困った師匠を持って苦労するね」 「今はむしろお前に困らされてるほうが強いと思うけどな」 「あははは」 笑って終わらせた。 「さてと、それじゃグレミオが世を儚む前に帰ろうか」 「冗談になってないぜっ!」 ダナは高らかに笑いながら、紋章の力を解き放った。 |
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登場人物多すぎると存在忘れるな・・・