ダナ=坊ちゃん

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 昨日のこともあり、何やら顔をあわせにくいと感じたテッドは家で朝食を作っていた。
 別にいつもマクドール家に食べに邪魔している訳でも無いしなと言い訳しながら。

「卵焦げてるよ」

「ああ、サンキュ……っておいっ!何でお前が居るんだよっ!」
 ダナがテッドの横でフライパンを覗き込んでいた。
「おはよう、テッド」
「……おはよう」
 気配が無いとか、家の鍵はどうしたとか……ツッコむだけ無駄なことは言わない。
「相変わらず料理の才能無いね」
「ほっとけ!」
 坊ちゃん育ちのダナに言われたくは無いが、やれと言われば無難にこなしそうな相手だ。
 そして普通に作ればまともなものを作れるくせに、わざと酷い料理を作って相手に食べさせ喜ぶに違いない。
「はい。サンドイッチ」
「……まさかお前が作った訳無いよな」
「グレミオだよ。僕の手料理が食べたかった?テッドが食べたいなら作っても良いけど……」
「やめろ。俺はまだ死にたくない」
 色々な意味で。料理よりも嫉妬で殺されたくない。
 言葉にしなくても言いたいことがわかったのか、ダナはくすりと笑う。
「今日はちょっと付き合って貰いたいんだよね」
「どこに?」
 有り難くサンドイッチを口に運びながら尋ねる。
 最近のダナの動きからすれば、ろくなところでは無さそうだ。
「んー……廃墟?」
「は?」
 ふと思い出したんだよね、とダナは言う。
「古い城があってね。辺鄙なところにあるから今は誰も使ってないんだけど……」
 放置して、誰か知らない相手に知らない間に占拠されてしまうのも問題だ。
「それはそうだろうが、お前が住むんじゃないよな?」
「もちろん。管理はレパントにして貰うつもりだけど」
 自分で管理するつもりは無いらしい。
「で、それはどこにあるんだ?」
「湖の上」
 簡単に言うダナにテッドは額を押さえる。辺鄙なところすぎるだろう。
「どうやってそこに行くつもりだ?橋でもかかってるとか?」
「ううん。橋は無いよ。でもカクに行けば船を出してくれる当てがあるから大丈夫」
 いい笑顔で言う。こういう笑顔の時のダナは何かしら企んでいる時だ。
 伊達にテッドもつるんでいない。









 カクの街についたダナは迷いなく酒場に入っていく。
「昼間から酒場かよ」
「ここにその当てがあるんだよ」
 まあ見かけはともかく、成人はしているのだから文句を言われる筋合いは無い。
 ダナの外見なら絡まれる心配をしたほうが良いだろう。
 しかしさすがに昼間っから飲んだ暮れている相手は……居ないことも無いが、沈没中だ。
 ダナは主人らしき相手に声を掛けると、テッドの手を引いて地下に下りて行く。
「ここの地下は賭博場になっているんだ」
「おいおい」
「僕の当てはその元締め。勝負に勝てば船を出してくれる」
「勝てるとは限らないだろ」
 階段を下りていたダナはテッドを振り返り、不敵に笑った。
「僕が負けるとでも?」
「……無いな」
 勝負は時の運。だがその運さえも味方につけているダナに『負け』る未来は無い。
「つーか、お前賭けごとなんかしたことあるのかよ」
「一応。……あ、こんにちは〜」
 いかにもな、おっさんが酒を抱えていた。
「あぁ?何だ、ここはガキが来るところじゃねえぞ」
 そう言うわりには追い出す姿勢さえ見せない。ダナもダナで笑って、おっさんの前に平然と座った。
「船を出して欲しいんです」
「船だと?」
「はい。湖の上の古城に行きたいんです」
 胡乱げな眼差しでダナを見ていたおっさんは、抱えていた酒瓶をテーブルに置いた。
「ここがどこだかわかって来たんだろ。なら俺と勝負して勝てば、船を出してやろう」
 これで相手の運命は決まったも同然だった。
 ダナは笑顔で頷いた。
 テッドには相手が自ら罠に嵌りにやってきた生贄に見えた。








 ダナとの勝負で抜けガラのようになったオヤジが操る船に乗って大丈夫なのかと心配になりながら、ダナとテッドは無事に古城のある場所までやって来た。
「ありがとう、タイ・ホー。助かったよ」
「……男に二言はねー」
 そう言いながらも文句がありそうだ。
「こんなところに何の用があるのか知らんが、城には相当な魔物が居るって話だ」
「それを掃除に来たんだ。心配してくれてありがとう」
 何故か……は問うまでも無いけれど頬を染めたタイ・ホーは舌打ちして櫂を握った。
「迎えはどうする?」
「それは大丈夫。帰りは紋章使うから」
「「……は?」」
 テッドとタイ・ホーの声が重なった。
「……ダナ」
「ん?」
「お前、最初からそれで来れば良かったんじゃないのか?」
「それだとタイ・ホーと勝負できないでしょう。
 何の含みもありませんとあっさり言うが、言われたタイ・ホーは……頭を掻き毟っていた。
「僕はね、タイ・ホーの心意気が好きだよ。侠気って言うのかな」
 だから、と微笑む。
「タイ・ホーと勝負できて嬉しかったよ」
「……。……」
 顔を真っ赤に染めたタイ・ホーの彫像が出来上がった。















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タイ・ホーは好きです。金づるです(笑)