ダナ=坊ちゃん
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「坊ちゃん。何処かへ行かれるなら私もついて行きますからね」 夕食をとって、テッドを見送ったダナの背中にグレミオがそう言った。 「グレミオ。何処かへって……さすがにこの時間に出かけないよ」 おどけたようにダナは言ったがグレミオは難しい表情を浮かべたまま動かない。 「坊ちゃん。グレミオは何処までも坊ちゃんと一緒です」 ダナは額を押さえた。 「グレミオ」 ダナの従者、死ぬまで仕えると心に決めている男。その決意はダナの命令さえ受け付けない。 従者と言うくせに全く従順では無い。 「僕はもう成人した一人前の男だよ。もうお守りが必要な子供では無いのだけど……」 「わかっていますよ。グレミオはよくわかっています。坊ちゃんにお守りが必要だったことなんてありません」 そうだろう。この家でダナが手のかかる子供だったのはほんの僅かの間だけだ。 「これはグレミオの……私の我侭です」 ですから、と続ける。 「もし坊ちゃんが私を残して行くというのならば、勝手について行きます」 そう宣言したグレミオは、へらりといつもの情けない表情に戻った、……が。 「許さないよ」 その一言にグレミオの表情が固まった。 凍りつきそうな気配がダナを取り巻いている。 「坊っ……」 「僕は従者の我侭を許すほど優しい主人では無い。 息を呑むグレミオの顔からどんどん血の気が失せていく。 虐めたい訳では無い。だが主従を言うのならば、それを諌めるのが飼い主の役目だろうとダナは思う。 「グレミオ。お前は何?」 「 「そう。僕の唯一の従者だ。他の誰でも無い。お前一人が」 それ以上を望むというのならば覚悟しなければならない。一歩を踏み出すことを。 安穏とした場所で甘えさせてなどやらない。勝手は許さない。勝手に決意することは許さない。 緊張を孕んだ空間には、時を刻む音だけが無常に響く。 王は一人。 「私、は……」 グレミオは膝をつく。 ……ついてしまうのか。そんな失望と共に金髪を見下ろす。 「確かに……」 「主に従うのが従者の務め……坊ちゃんの、ただ一人の従者とお認め下さるなら……共にあることが勤め」 そうでは無いのか?とうな垂れていた頭を上げたグレミオの目には狂気と信念があった。 ダナは笑う。 「グレミオ」 そして身を屈め、頬に手をそえ囁いた。 「お前があくまで従者たれとするならば、心得よ」 |
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影の薄かったグレミオ登場!
……実はあまりグレミオ好きじゃない。凄く嫌いでは無いのですが…
だって勝手に死ぬなんて酷いじゃないですか!?