ダナ=坊ちゃん
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テッドは呆然とした。 紋章を宿している本人では無く、ただ単に呪文を唱えただけのダナが何故『冥府』を発動させることが出来るのか?そんなことが出来るならば、紋章を『宿す』という行為自体が意味を成さないものとなる。 いったい何なのだ。どういうことなのだ。 ぐるぐると疑問符はテッドの頭を猛烈な速さで駆け巡るが、その回答を得る暇は無かった。 何故ならば。 「邪魔者も消えたことだし、レッツゴーっ!」 だからどこにだよっ!!!!!! テッドの叫びは音となる前に、その姿とともに空気に消えた。 「到着!と」 軽やかに地に足をつけたダナとは対照的にテッドは地面と素敵にキスしていた。 そんなテッドを気にすることも無く、ダナは周囲を見渡している。 「・・・見てないで出てきたら?」 誰かに向かってそう言ったダナに反応して、鋭い風が二人を襲った。 「うわっ」 身を起こしかけていたテッドは仰け反って尻餅をつく。 「敵か味方かもわからないのに、問答無用で攻撃するっているのはどうかと思うけど。 知り合いか? 「 少年が不機嫌そうな表情を浮かべて木の陰から現れた。 「僕?」 ダナは己を指差し、にっこりと笑った。 「ただの坊ちゃんです」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 ルックと呼ばれた少年は更に胡散臭そうな表情となり、テッドも遠く目をそらした。 「そっちのやつ、死の匂いがするよ」 どうやらダナの発言はスルーすることにしたらしい。 「ソウルの気配じゃない?真の紋章持ち同士、仲良くして欲しいな」 「・・・そんなものと一緒にしてもらいたく無い」 「んなっ・・・ぶへっ!」 文句を言いかけたテッドの顔面に手を押し当ててだ黙らせる。 「ルック。真の紋章に良いも悪いも無いんだよ。あるのは『属性』だけだ」 「・・・それは身近の者の魂を喰らう。君も喰らわれるよ」 「ご忠告ありがとう。でもソウルが僕も喰らうなんてことは無いよ。ソウルは僕に絶対服従だからね」 「意味不明だね」 「ルックにわからなくても僕にわかっていれば良い。・・・ところで、そっちにウィンディが逃げて来なかった?彼女が逃げるところなんて、もう妹のレックナートのところしか無いと思うんだけど・・・」 尋ねてはいるが、確信しているのだろう。 「だからこそ、こうしてルックが様子を見にきたのかな?レックナートも野心家な姉を持つと苦労するね。ウィンディもレックナートみたいに大人しくひっそりと平和に暮らしていれば良いだろうに。わざわざ災難を招くようなことをするから己の首を絞めることになる。 ダナは視線を宙に上げ、誰にともなく強請った。 「テッドの村にしたことを考えれば一度ぐらい死んでもらっても構わないんだけど、それはソウルイーターの責任も半分はあるってことで、魔術を封印することで許してあげるよ 「好きにしろ」 ウィンディは一族の敵。けれどずっとこれまで300年以上生きてきたのは、彼女を殺すためじゃない。 己の目の前で悪びれることもなく笑っている『ダナ』に会うためだ。 「ありがとう、テッド。テッドはやっぱり優しいね」 「っば・・・っ!」 「 「色々出来ると思うけど。例えば、どうしても匿うっていうなら魔術師の塔を壊してしまうとか。あ、心配しなくてもこちらの都合で壊すわけだから、後でまた建て直させてもらうよ」 笑顔で冗談のようだが、ダナはあくまで本気である。 出会った頃から『やる』と口にしたことは必ず実行し、出来ないことは口にしない。ダナほど有言実行と言う言葉を体現している人間も居無いだろう。 「ウィンディが余計なことをしなければ、不幸になる人間も居無い。彼女を権力者たらしめていたバルバロッサも退位して、赤月帝国は終焉を迎える。星など集う必要は無いんだよ」 ダナは微笑し、少年はそんなダナを睨みつけた。 「そういうわけで、今からウィンディの身柄を貰いに塔に行くから、レックナートに伝えてくれる?」 「 少年は風と共に姿を消した。 「うーん、ルックも相変わらず」 「知り合いか?」 「うん。一方的な。・・・前は仲良くなれたんだけど、今回はどうなるかな。レックナートの返答次第では敵対することになるだろうし…」 いつになく寂しげな様子に、テッドはつい口を開く。 「あいつが居なくても、俺が居るだろ」 何だそれは。 テッドは自分で自分の言葉に突っ込んだ。それはまるで、拗ねた子供のような物言い。 珍しくダナが驚いたような顔をするので余計に気まずい。 「ありがとう。テッド」 花が綻ぶように笑う。 企てることはとことん黒いのに、ダナほど綺麗に笑う人間を知らない。 初めて出会った時もこの笑顔にやられたのだ。 幼心にもテッドの初恋の人。 だからこそ、ダナがまさかその当の本人だなどと気づきもしなかったのだ。 「それじゃ、今度はレックナートのところにレッツゴーっ!!」 「だから・・・っ!!??」 感傷に浸る暇も与えない。 「はい。到着!」 「・・・・くっ」 テッドは体勢を崩したものの、何とか持ちこたえた。 今度は先ほどの森では無い。薄暗いながらも室内だとわかる。 「ここが魔術師の塔とやらか?」 「そうだね。・・・・場合によっては結界をこじ開けてでも侵入するつもりだったけれど」 その必要も無かったみたいだね、と流れたダナの視線を追うと、ローブに身を包んだ女性がひっそりと佇んでいた。 はっきり言おう。不気味だ。・・・というか。 (・・・こえーよっ!!) 「ようこそ。魔術師の塔へ」 「初めまして。ルックからの伝言は受け取られました?」 「・・・姉を追って来られたと」 「はい。こちらに居ますよね?」 逃していなければ。 「そんなに難しい顔をされなくても、別に殺そうって訳では無いんですから。せいぜい魔術の源たる魔力を封じてただの人間のように生きろというだけなんですから。身柄を引き渡すのが嫌だというのならば、魔力の封印だけでもさせていただければ十分。ただ、バルバロッサ陛下は、例え魔力を失い『ただの女』になった貴女であろうと、傍に居て欲しいと思っていますよ」 「お前などに何が・・・っ」 レックナートの背後から女性が飛び出してきた。 レックナートと並ぶと陰と陽。まるで対称的な容姿をした二人は。その性格も対称的なようだ。 「やはりこちらにいらっしゃいましたね」 「テオの息子・・・」 「二度目にお目にかかります。・・・ユーバーに後始末をまかせてご自分は逃亡ですか?逃げるしか出来ない人間が国一つ、手中に納めようなんて分不相応なんですよ」 辛らつなダナの言葉にウィンディは悔しそうに唇を噛み締めた。 「陛下には自発的に退位していただくことになりました」 「馬鹿な・・・っ!」 「バルバロッサ陛下は真の紋章を持っていたんですよ。だから貴女に惑わされてはいなかった。…亡くなった王妃に似ていたから最初は重用されたのかもしれません。でも今は違うと思います。・・・所詮『子供』の僕には大人の複雑な事情なんてわかりませんが。でも、惑わされていなかったのならば、それはそれでバルバロッサ陛下には民を苦しめる理由なんて無いわけですから、尚更許されざることです」 ダナは足音もたてず、ウィンディの傍に近寄った。 「ウィンディ=ヴィディトゥヤ」 ダナの呼びかけにウィンディのみならず、レックナートまでは驚愕を面に浮かべ硬直した。 信じられぬものを目にした顔で、ダナを注視する。 「・・・何故、その名を・・・」 「誰も知らぬはずなのに?と?」 場に全く不似合いなことに、ダナは愉快そうにくすくすと笑う。 「知る者は知る。そう、 「貴様・・・っ」 敵意を剥きだしにしてウィンディが立ち上がった。 「勘違いしないで貰いたいんだけど。僕はヒクサクの仲間でも下僕でもない。あんな奴と同一のカテゴリーで括られるなんて冗談じゃない。冗談でもお断りだ。・・・僕が言いたいのはね。秘密が二人以上の人間に知られたとき、それは誰にも知られぬ、なんてことは無いんだよってこと」 覚えの悪い生徒に話すように。 「だからといって、貴方が知っている理由にはならないでしょう・・・」 蒼白な顔色のレックナートが問いかける。 「理由?理由なら簡単」 「私が最後の巫女王ゆえ」 |
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ダナには、公開していないマイ設定が色々と・・・
とりあえず意味不明ですみません。