突撃!隣の殺人鬼 リターンズ


坊=ダナ・マクドール









「死ね」
 白刃がフリックの目の前を過ぎる。
 あと一歩前に出ていたら間違いなく真っ二つになっていただろう。
「……っな」
 完全に油断していた。……とはいえ宿から出た瞬間に死にそうになることなどまず有り得ない。
 しかもここは紛争地域では無い。
「フリック。大丈夫か?」
「……ああ」
 反射的にフリックも剣に手をかけていた。
 目の前に立っている、自分を本気で殺そうとした相手は……格好こそ旅装だったが間違いなく敵だった相手。
 ルカ・ブライトだった。
 記憶にあるままの険しい眼差しで、偉そうに睨みつけている。
「ダナはどこだ?」
「……それをお前に言うと思うか?」
 自分たちも行方を失ったにも関わらずフリックはそう嘯いた。
「ふん、どうせ貴様らも置いていかれたのだろう」
「な……っ」
 まんまと言い当てられたフリックの顔に朱がのぼる。
 ルカは剣を収めるとフリックたちに背を向けて歩き出した。
「おいっ!」
 人を殺そうとしておいて、謝罪もなく、事情の説明もせずに何処に行こうと言うのか。
「このまま行かせると思うのか!?」
 ルカは気だるげに振り向くと、いかにも馬鹿にした顔で笑っていた。
「お前に俺がどうにかできると思っているのか?」
「何を……っ」
「おい、てめえ自分が今まで何やってきたかわかったんだろうな?」
 激昂するフリックとは反対にビクトールが暗に脅しをかける。
 大量殺戮を行ってきたルカ・ブライト。その名はグラスランドまでも響き渡っているはずだ。
 死んだはずの人間が生きていると知れたら困るのはどちらなのか。
「ふん、俺を現世に引き戻したのは死神だ。文句があるならば死神に言うといい」
 ルカ言うところの死神が誰なのか問うまでも無いだろう。
 その死神に何か言うことが出来る人間が居るならばフリックもビクトールも是非ともお目にかかりたい。
「ダナを、探してているのか?」
「だったら?」
「何故」
 ルカが酷く、禍々しく笑った。
「何故?もちろん。      あれは俺のものであり、俺はあれのものだからだ」
 抜けぬけと言い放った台詞に、フリックもビクトールも絶句し、言葉を失った。
 まるで惚気……いや、明らかに惚気だ。
「そのくせ置き去りにされたくせに……」
 ルカから殺気が飛んできた。
 言わなくていい余計な一言を言ってしまうのがフリッククオリティだ。
「あいつは元々俺たちのリーダーだ」
「元、がつくだろう。今は何の関係も無い」
 フリックとルカが睨みあう。
 よくわからないことで張り合いだした二人にその後ろでビクトールが頭を抱えている。
 似ているところなど何一つ無いと思われていた二人の共通点。
 それは精神年齢の低さ……ガキ臭いというところか。
 性質が悪いのはどちらも本当のガキでは無いことだ。
 ルカとフリックは殺気をぶつけ合いながら今にも斬り合いを初めそうになっている。
「待て待て、フリック。場所を考えろ」
 こんな街中で剣を振り回すなど、余計な注目を集めるだけだ。
 それは二人はもとより、ルカも歓迎するところでは無いはずだ。
 ビクトールに襟首を掴まれたフリックが我にかえる。熱しやすい性格は相変わらずだが、少しは人の話にも耳を傾けるようになった。成長した。
 ダナに教えてやったらとう言うだろうか。
 …………良かったね、お父さん。そんなろくでもない台詞が聞けそうだ。
 ルカの方も剣を抜く様子は無く、余計な時間をとったとばかりに背を向ける。
 そのまま行かせてしまっていいものか……狂皇子と呼ばれていた頃のルカしか知らない二人は悩んだが、止めて聞く相手でも無い。
 とはいえ、放置することも出来ない。
「ダナはアルマ・キナンに行くって言ってたな」
「ああ、確か……」
「仕方ねえ」
 そこに向かうしか無いだろう。
「おいまさか」
「お前だって気になるだろ」
「……」
 ダナへの執着度から言えばビクトールより副リーダーとして傍に居たフリックのほうが強い。
 どうせいつかは行くつもりだったのなら行くしか無いだろう。
 それが巡り合わせというものだ。




























坊ちゃんは揶揄いがいのある相手が好きだと思う(笑)