袖摺りあうも他生の


坊=ダナ・マクドール








 森を抜けてカレリアに到着した一行は、改めて再会を祝い、フリックを酔い潰して解散した。
「ダナ、消えるなよ」
 部屋へと去っていくダナの背中に掛かる声に手を上げるだけで応えた。







 部屋に入ったダナは窓から外を眺め、ぽつりぽつりと明かりの灯る町に向こうに意識を飛ばす。
 カレリアは辺境の町だ。そうは言っても今まで歩いていた森の中とは比べる必要も無いほど街だが。
 旅の疲れを癒す旅人の訪れは多いようだ。ちらりと覗いた武器屋にもそこそこの品が揃っていた。
 普通の街……しかし、ここはハルモニアの国の一部だった。
 ダナにとってハルモニアは鬼門に等しい。本来ならば、近づく場所では無い。
「あいつもそこまで暇人では無いと思いたいけど……面倒な男だ」
 男でも女でも感情というものは厄介だ。それが『嫉妬』となれば、更に面倒臭い。
 ダナだって人間だ。その感情がどんなものかわからないとは言わない。
 しかし向けてもらいたいと思わない相手から向けられても迷惑なだけ。
 そして意識を戻したダナは、意識に引っかかった気配に……微笑した。酷く幸せそうに。




「……だった」
「は?」
「だから、もぬけの空だった!」
 フリックの怒りの表情とは反対に、ビクトールに怒りはなかった。呆れ半分、失望半分といったところか。
 朝、食事に下りてこないダナを呼びに行ったフリックは半分予想したとおりの答えを持って戻ってきた。
「ったく、あいつは……」
「そんなに俺たちが信用できないのか!?」
 爽やかな朝なのに、性質の悪い酔っ払いのような雰囲気が広がる。
「そうじゃねえだろうけどな……まあ、落ち着け」
 こうなっては怒っても仕方が無い。自分たちにダナを強制する資格も力も無いのだから。
 ビクトールが危惧するのは、フリックが追いかけると言い出さないかということだ。
 ダナがその気なら追いかけても見つかりはしないだろう。
 とりあえずの行き先はアルマキナンだとうことは聞いているが、本当にそこに行くのかわからないし、すぐに向かうのかもわからない。結局、ダナが北部にやってきた理由は何一つわからないままだ。
 昨夜も会話に交えて何とか探り出そうとしたが、その程度で探らせてもらえるほど甘い相手でも無い。
「ビクトール!お前は何とも思わないのか!?」
「何とも思わないわけじゃねえが……ダナにはあいつの考えがあるんだろう」
 フリックとビクトールの違いはそこだ。
 ビクトールはダナのことを認めている。そして一歩離れて見ることができる。
 一人に盲目的に執着する恐ろしさを知っている。……それができる強さは無い。
 フリックの猪突猛進さは時に鬱陶しいが、羨ましく思える部分でもある。
「お前は……っ」
 拳を握ったフリックは、深く息を吐いて腰を下ろした。
「俺だって……わかってるさ……」
 飼い主に捨てられた犬はこんなものだろうか。いつか迎えに来てくれる。
 まだ大好きなご主人様と一緒に居られる。
 ……大の大人にそんな表情をされても可愛いとも何とも思わないが。
「まあ、またどっかで会うさ。何しろ、あいつはお前以上のトラブルメーカーだ」
「俺以上って……っ」
「違うとでも?」
「……」
 言えるわけがない。フリックの場合はメーカーというより、否応なく巻き込まれタイプだが。
「しかしあいつを敵に回すのだけは、二度と勘弁して貰いたいがなあ」
「……同感だ」
 味方だったときから敵に回すと厄介だと思っていたが、二度と体験したいものでは無い。
 
 
 そして宿を去るとき、ダナは特大の置き土産をしていった。
 ダナが土産にするつもりがあったかはわからない。しかし、知っていたからさっさと出て行ったのではないか。
 宿から出たフリックとビクトールが出会ったのは、殺気まじりの・・・・・



 ルカ・ブライト、だった。





























ルカ戻ってきました〜休憩終わりましたー(笑)