三人寄れば・・・
坊=ダナ・マクドール
「ダ、ダナ…っ!?どうしてここに!?」 驚いているフリックに、もちろんダナとビクトールは冷たい視線を向けた。 今更驚かれても、と言ったところだ。 「何だ、その反応は・・・っ」 「だって、ねえ?」 「ああそうだなあ」 アイコンタクトをとった二人は互いに肩をすくめて首を振る。 「お前ら……っ」 二人におちょくられ腹を立てるフリック。この光景も随分と久しぶりだった。 「空の旅は楽しかった?」 「おま……っ楽しいわけあるか!」 いつ落とされるかわからない。落とされどころが悪ければ翼の無い人間なら大怪我か死ぬ。 しかしこれまで幾度となく空を飛んでいるフリックはかすり傷はあれど、大怪我もしていない。 「空飛ぶコツでもあるのかな〜て」 「そんなものあるか!」 「落ち着け、フリック。ダナもあまり揶揄うな」 「ごめん。久しぶりで楽しくて」 これにも文句を言おうとしたフリックだったがビクトールに肩を叩かれ、力なく首を落とした。 ダナは楽しそうだった。 「……で?」 「で?」 「だからっ!何でお前が居るんだよ!」 「何で、て……通りがかりにビクトールに会ったから?」 ちなみに今だ森の中である。ただもう少しで森は抜けそうで、先が明るくなっている。 もちろんフリックが聞きたいのはそんなことでは無いのだろうが、ダナはわざと話を逸らす。 「そうじゃなくてっ!……もういい。……で、どこに行くつもりなんだ?」 「特には決めてないけど。何となくグラスランドに足を伸ばし中」 「何となく……」 フリックの視線が何かを問いたそうにふらふらと動く。 聞きたいことは予想がつくが、色々と考えているらしいフリックを見るのが楽しくてダナは放置する。 それをビクトールは微妙な表情を浮かべつつ、黙って見守る。邪魔をしてダナの機嫌を悪くする必要は無い。 「駄目?」 「いや、駄目という、訳じゃないが……お前」 口にして良いのか悪いのか、再びフリックの視線が徘徊う。 「ハイランドは出て来たよ。もう目的物はそこに無くなったし」 「目的物……?それがあったからハイランドに味方していたのか?」 「そればっかりじゃないけど、成り行きに身を任せてたらああいうことになっちゃったんだよね。……本当不思議」 「その一言で片付けるな!お前が素直に流されるタマか!」 「あははは」 笑って否定も肯定もしない。 「ま、とにかく今のところは何の柵も無いただの旅人だから」 「……とりあえず、そういうことにしておいてやる」 フリックも伊達にダナの副官を務めていたわけでは無い。 ダナは本当のことも言うが、必要であれば嘘も誤魔化しもする。 ましてやルカ王子への執着を見ているだけに、今一人で居ることが不審で仕方ない。 いったい何があったのか。聞いても答えないことはわかっているので、フリックもそれ以上の追及をやめた。 「グラスランドまでよろしくね。僕とビクトールが居ればフリックの不運も少しはマシになるんじゃないかな」 「余計な世話だっ!」 もちろんそれが気休めにすぎないことは解放軍時代が証明している。 フリックの不運補正は神レベルだ。 「あ……」 そんな会話をしているうちに、魔物が掘った穴にフリックが落ちた。 もう笑いさえ起きず、ダナとビクトールは二人で穴の底を見下ろした。 「……あれが戦士で良いのかな?」 「……言うな」 フリックが穴の底で叫んでいる。 助けるべきか、見捨てるべきか。 それが問題である。 「……ここはどこだ?」 それは突然だった。 手には宿評判のモツ煮込みとサラダとから揚げを載せたトレーがある。 「兄ちゃんっ!こっちだっ!モツ煮込みこっち!」 「……ここはどこだ?」 トレーごと男の目の前に放り出し、男に問いただす。その様子に酔っていた男の顔からすーと血の気が引いていく。 男の持つ空気と目の冷たさにあえぐように口が開閉する。 「……馬鹿め」 無言で去っていく背中が脳裏に浮かぶ。 「俺から逃げるつもりか?……ふざけるな」 打ち付けられた拳がテーブルを粉々にする。 食堂は沈黙に包まれ、男に視線が集まった。 そんな視線を気にすることなく、男は出口へと歩き出す。 給仕エプロンをつけたまま…… |
お笑い担当フリック。 |