翼を下さい


坊=ダナ・マクドール








 強運のダナとビクトールの旅は至極平穏だった。
 魔物に襲われることも盗賊に絡まれることも無い。

「ビクトールと居ると、平和過ぎて新鮮だ」
「……どんだけ運の無い奴と一緒だったんだ?」
「青い人」
「……」
 自他共に認める運の悪さは相当なもので、そのマイナス補正で強運であるダナさえ巻き込む。
「フリックって昔からあんなに運が悪かったの?」
「あー……まあそうだな」
 ビクトールの目が遠くなる。色々思い出しているらしい。
「でもあれだけ運が悪かったら普通に死んでると思うけど、悪運は強いよね」
「まあなあ……妙なもんに好かれるというか」
 ちらりと隣のダナを見る。
「ふふ、僕はフリックのことは好きだよ」
「……だよな。あちはたぶんそう思ってないだろうが」
「馬鹿だよねー」
 解放軍に巻き込んだこと、置いて行ったこと、敵対したこと。
 それを全て負い目に感じて、フリックはダナに嫌われていると、いや憎まれているとさえ思っているのでは無いだろうか。
「嫌いだったら、存在しているわけないのに」
「物騒だな、おい」
 ダナが言うと冗談にならない。
「それで。相棒思いのビクトールはどこのクランに顔を出すのかな?」
「……お前って油断ならねーよな」
「お褒めに預かり光栄です」
 優雅な所作で一礼してみせる。その動きに育ちの良さが垣間見える。
「ゼクセンとグラスランドは相変わらず仲が悪いみたいだし、ビクトールが呼ばれるとしたらグラスランドの方でしょ」
 どこでどう情報を掴んでいるのか、その目に何が見えているのか。
「お前も偶には目も耳も悪くなれば良いだろうに」
 そうすれば楽だろうと言うビクトールに、ただ微笑を浮かべる。
「情報は力だよ。僕の立場として盲目になるのは勘弁して欲しいね」
「……そのきな臭い紛争地帯にわざわざ出向くってのは、また何かあるのか?」
 ダナ一人によって同盟は瓦解した。その二の舞は御免である。
「最小限の犠牲であんなに丸く収まって感謝して欲しいくらいなのに。これ以上面倒事に首を突っ込む気は無いよ」
 確約は無い。ただ今すぐに何かあるという訳では無いのだろう。
 しかし次のダナの言葉にビクトールは頭を抱えた。
「ただビクトールが行くっていうと、またアレが関わってきそうではあるね」
「……それこそ勘弁してくれ……」
 ビクトールに吸血鬼はついてまわる。そしてダナの予感は、予感では済まない。

 どさっ!

 前方に何かが落ちてきた。
 青い何かが。

「戻ってきたか……」
「空の旅は楽しかったかな?」
 魔物に風船をつけられて飛び立っていたフリックが帰還した。
「ここまで運んでもらえてラッキーだったね」
「……あいつが頷くかどうかは別としてな」
 どこまでも外さないフリックに、ビクトールは大きく溜息をついた。




























フリックも合流!(一言もしゃべってないけど)