未知との遭遇


坊=ダナ・マクドール









 ルカのせいでびしょ濡れになった服を炎の力で乾燥させたダナは歩き出した。
 恐らく歩いていれば何処かの町に到着するだろう。ダナの強運を持ってすれば。
 しかしダナの隣にルカの姿は無かった。


















 歩いて辿りついた街は様々な人(?)種で溢れていた。
 トラン共和国は人類以外は見かけることも少なかったが、国柄かダックも居ればコボルトやドワーフ、エルフも居る。そんな中なのでフードを被った小柄な人など目立ちもしない。
 ダナは宿を見つけると体を休めるために部屋を頼もうとして・・・ダナとしては有り得ないことに息を飲むほどに驚愕した。


「・・・ルカ?何やってんの?」


 目の前の宿の受付には、不似合いに粗末な衣服を身に纏ったルカが立っていた。
「『ルカ』?・・・それは俺の名か?」
「は?」
 頓珍漢な回答をするルカに、ダナは咄嗟に何も言えなかった。
「お前は俺のことを知っているのか?」
 鬼気迫る様子で身を乗り出してくる。
 ダナはフードをとって、そんなルカを見上げ・・・申し訳なさそうに笑った。
「あ、すみません。人違いでした」
「・・・そうか」
「私の知り合いにも貴方とよく似た者が居るので」
「その知り合いは・・・?」
「さぁ、どこでどうしているか。まぁ、元気で居ると思いますよ。でも外見は似てますけど、私の知り合いは貴方とは似ても似つかない凶暴な性質なので。ところで一泊お願いできますか?」
「あ、ああ・・・宿代は50ポッチだ」
「わかりました。前払いで?」
「ああ」
 ダナは懐から50ポッチを取り出すと、部屋を教えてもらい少々急ぎ足で中に突入した。

「・・・・・・ぶっ」

 そしてベッドに突っ伏し・・・・・・・・・・・・大笑いして転げまわりそうになるのを辛抱する。
 
 ありえない。
 ありえない!ありえない!あのルカが!あのルカが宿屋のオヤジをしているなんて!!

 どうやらルカ自身に関するものからダナに至るまですっかり記憶が失われているようだ。
 ダナの顔を見ても全く反応しなかった。
 恐らく飛び込んだ時に打ち所でも悪かったに違いない。
 まぁそれが何故こんな宿屋で番をしているのか・・・だいたい想像はつくが。頭を強打して、流れ着いた先で人の良い宿の者に拾われたのだろう。
 運が良いような悪いような・・・。
「ま、いっか」
 ベッドから起き上がったダナは夕日に染まりつつある窓の向こうの景色に目をやった。


 夕食を取ろうと階下に下りた棚は再び噴出しそうになったのを慌てて我慢した。
 どうやらこの宿の下でも食事が提供されているらしく、何とルカが給仕をしていたのだ。


 あのルカが。狂王子との呼び名も高いルカが給仕


 記憶が無いって恐ろしい。
 さすがに慣れないせいか、客にぶつかりそうになったり、テーブルに料理をぶちまけそうになったりしていて、よくもあんな相手に給仕をさせようと考えたものだとダナは反対に感心する。
 早速ダナもルカに給仕してもらおうと端のテーブルに腰掛けた。

「ご注文を・・・」
「こんばんは」
「お前は・・・」
 フードの奥から頭を下げるダナにルカは注文の手を止めた。
「先ほどは人間違えしてしまい、失礼しました」
「いや・・・お前の知り合いは『ルカ』と言うのか?」
「ええ。よくある名前です。貴方は何と仰るんですか?」
「俺は・・・俺の名は無い」
「無い?」
 ダナは首を傾げる。
「記憶を失い、ここに運びこまれた。だから名は無い」
「・・・なるほど。貴重な体験をされたんですね」
 まさかそんな風に返されるとは思っていなかったのだろう。ルカが僅かに表情を変える。
「変な、奴だな」
「お客さんに『変』は無いでしょう。『変』は」
「そうだったな・・・お前を相手にしていると客という気がしなくてな・・・気に障ったなら謝る」
「・・・いえいえ」
 素直なルカは、例え記憶を失っていたとしても不気味なものだ。
「それで。注文は?」
「何がおススメですか?」
「さぁ。何だろうな」
 おい。
「働かざる者食うべからずと働いているが、この食堂がいったいどんなものを提供しているのかよくわからん。俺は適当に注文を受けているだけだからな」
「・・・それは役にたっているのか、邪魔になっているのかわからないな・・・」
「何だ?」
「いえいえ。ま、それでは適当にこれと、これを」
「わかった」
 そう言って、給仕の格好で去っていくルカの後姿を・・・ダナは目に焼き付けた。






 ここに絵師が居れば後々揶揄うネタにするべく描かせたのに・・・と思いながら。



























何だかルカ様大変です(笑)